経営不振の会社を立て直すため、あるいは事業承継の際の相続税対策として「DES」を検討している経営者もいるだろう。DES(Debt Equity Swap)とは、債務を株式化することである。DESを実施することにより、有利子負債の利子負担が軽減し、財務内容が改善するというメリットがある。相続税対策なら、相続税の軽減を見込める。
この記事では、DESの概要とメリット・デメリット、種類、DDSとの違い、事業承継への活用法、および税務などについて詳しく解説していく。
目次
DES(Debt Equity Swap)とは?
「DES(Dept Equity Swap)」とは、債務(Dept)を株式(Equity)と交換(Swap)すること、つまり「債務の株式化」のことだ。DESを実施することで、有利子負債の利子負担が軽減し、キャッシュフローが改善する。バランスシートにおいては、負債である債務が純資産である資本に振り替えられる。そのため自己資本率が向上し、会社の財務内容が改善することになる。
DESは、金融機関にもメリットがある。経営不振の会社の再建を金融機関が支援する方法に、債権放棄がある。しかし債権放棄をすると、経営再建が成功し、会社が利益を生み出すようになったとしても、金融機関は何の利益も得られない。
それに対してDESを実施した場合は、金融機関は会社の株式を受け取ることになる。会社が経営を再建した暁には、金融機関はその株式の配当や売却などによって利益を上げることができるのだ。
またDESは、事業承継における相続税対策として、経営者からの借入金に対して実施されることもある。
DESのメリット・デメリット
DESのメリットとデメリットを、会社と金融機関のそれぞれについてまとめてみよう。
会社にとってのメリットとデメリット
会社にとってのDESのメリット・デメリットは、以下のとおりだ。
・メリット
・借入金の利子負担が減るためキャッシュフローが改善する
・負債が純資産に振り替えられるため自己資本率が上昇し、財務内容が改善する
・株式化された分の借入金は返済の必要がなくなるため、債務不履行のリスクが減る
・借入金の金利負担を、それより安い株式の配当負担に転換できる
・デメリット
・株式を渡すことにより株主となった金融機関が経営に関与してくる可能性がある
・上場会社の場合は発行済株式総数が増加するため、株価に影響が出るケースがある
・資本金が増加するため、法人住民税などの負担が増えることがある
・債務消滅益が発生するため、課税されることがある
金融機関にとってのメリットとデメリット
金融機関にとってのDESのメリットとデメリットは、以下のとおりだ。
・メリット
・会社が経営を再建できた場合は、株式の保有や売却によって利益を得ることができる
・株主として経営に関与できる
・引当金を減少させられる
・デメリット
・貸付金が減るため、利息収入が減る
・債権が株式となるため、会社が倒産した場合には回収の優先順位が劣後する
・非上場企業の場合には、株式の評価や売却が困難なケースが多い
DESの種類
DESを実施する際の手続方法には、「現物出資型(真正DES)」と「現金払込型(疑似DES)」がある。それぞれの手続方法を見てみよう。
現物出資型
現物出資型(真正DES)とは、帳簿上の操作のみでDESを実施するものだ。金融機関にとっては、会社への貸付金という「現物」を出資することに相当する。
現物出資型における手続きは、まず金融機関と会社とでDESを実施することについて合意する。その後、会社が金融機関に対する第三者割当増資の手続きを行えば、完了だ。
以前は、現物出資の株式数が全体の10分の1超の場合、新株の発行数が全体の5分の1超の場合、現物出資の価額が500万円を超える場合は、裁判所で選任された検査役による調査が必要だった。しかし、新会社法の施行によって、一定の要件を満たすケースについては、検査役による調査は省略できることになった。
現金払込型
現金払込型(疑似DES)では、DESを実施するにあたって、まず金融機関が増資のための現金を会社に払い込む。次に会社は、払い込まれた現金の金額に応じて株式を発行するとともに、払い込まれた現金を借入金の返済に充てる。
現金払込型のメリットは、課税リスクがないことだ。現金払込型の場合は、払い込まれた現金で借入金の返済が行われるため、現物出資型のように債務が消滅するわけではない。そのため、債務消滅益の発生による課税リスクがないのだ。
DDS(Debt Debt Swap)とDESの違いは?
経営不振に陥った会社を金融機関が支援する方法には、「DDS(Debt Debt Swap)」もある。DDSは、債務を劣後ローンに振り替えるもので、中小企業に対してはDESよりDDSが実施されるケースが多い。ここでは、DDSの詳細を見ていこう。
DDSとは債務を劣後ローンに振り替えること
DDSとは、債務(Debt)を債務(Debt)に交換(Swap)することで、具体的には「債務を劣後ローンに振り替えること」だ。
劣後ローンとは、会社が倒産した際の支払い順位が、通常の債務より低く設定された借入金のことだ。通常の債務がすべて支払い終わったら、はじめて支払いを受けられる。劣後ローンの中で一定の要件を満たす「資本的劣後ローン」は、金融機関からは「資本」と見なされるため、融資を受けやすくなるというメリットがある。
DDSが中小企業に対して実施されるケースが多いのは、DDSでは株価の評価を必要としないからだ。債務を株式に振り替えるDESを実施する際は、株式を評価する必要がある。しかし、前述のとおり非公開企業の株式の評価は、困難なケースが多い。株式の評価が必要ないDDSなら、そのハードルはない。
DDSのメリットとデメリット
DDSのメリットは、DDSが実施された分の借入金は、元金の返済や利息の支払いが軽減されるなどの優遇措置を受けることができ、収益性が高まることだ。また、DDSの実施前よりも良い条件で融資を受けられる可能性があることもメリットと言えるだろう。
DDSのデメリットは、以下のように税負担が増加することだ。
・法人住民税の均等割額の負担が増加する
・中小企業の税制特例から外れる
・債務消滅益が発生する
またDDSが実施された場合は、特定の財務指標を一定以上に維持しなければ、優遇措置が取り消される可能性があることもデメリットと言えるだろう。
DESの事業承継への活用
中小企業では、経営者個人が会社に対して「役員借入金」として貸付を行っているケースが多い。この場合は、事業承継の際にDESを活用し、相続税負担を軽減することができる。この仕組みについて見てみよう。
役員貸付金には相続税が課税される
経営者個人の会社に対する貸付金は、相続の際に相続財産として扱われ、相続税が課税される。会社に多額の赤字があるケースでは、この貸付金は、経営者が繰越欠損金の範囲内で債権放棄することで、課税対象から外すことができる。
会社に赤字がない場合は、債権放棄による相続税対策を行うことができない。しかし、DESを活用することで、相続税の負担を軽減できるのだ。
DESを活用して相続税負担を軽減する
DESで相続税負担を軽減できるのは、貸付金が株式化されるからだ。相続税の算定において、貸付金は額面で評価されるため、貸付金の評価を引き下げることはできない。
それに対して株式は、額面ではなく時価で評価される。したがって、転換された株式に対して株価対策を行うことで、相続財産の評価を引き下げることができるのだ。
ただし、特に有利な発行価額で増資をした場合は、株主に対して贈与税が発生することがある。したがって、株式の発行価額や時価については慎重に検討したい。
なお資本金が多額になると、中小企業が受けられる税務上のメリットがなくなることがある。したがって、貸付金のすべてを資本金に振り替えるのではなく、一部は資本準備金に振り替えるなどの対策も必要になるだろう。
DESの税務
DESを実施した際の、税務上のポイントについて見てみよう。
適格現物出資と非適格現物出資
DESを実施する際に債務消滅益が発生するかどうかは、「適格現物出資」であるか「非適格現物出資」であるかによる。適格現物出資とは、100%グループ内におけるDESのことだ。この場合、債務消滅益は発生しない。
それに対して、金融機関などの第三者によってDESが実施された場合は、非適格現物出資に該当する。この場合は債務消滅益が発生するため、税務上の対策が必要になる。
資本金が1億円を超えた場合の影響
DESを実施することで資本金が1億円を超える場合は、以下の中小法人の特例が適用されなくなる。
・留保金課税の不適用
・年所得800万円以下についての軽減税率
・交際費の定額控除
・欠損金の繰り戻し還付
・貸倒引当金の法定繰入率
・交際費の損金不算入
また地方税に関しては、以下のようになる。
・事業税の外形標準課税が導入される
・法人住民税の均等割が増加する
株主間の贈与と見なされるケースがある
DESを実施することによって株主構成が変化したり、株価が上昇したりした場合は、他の株主に対して経済的利益を贈与したと見なされることがある。
DESは適切に利用しよう
DESは、金融機関からの借入金を株式に転換することにより、金利の負担を軽減し、財務内容を改善するものである。また、事業承継における相続税対策に活用すれば、相続税負担を軽減することできる。
中小企業が経営再建を図る場合は、DESよりDDSを利用するほうが良いケースもある。DESやDDSを適切に利用して、経営再建、あるいは相続税の軽減をしていこう。
文・THE OWNER 編集部