
伊藤園は、「第10回 伊藤園ウェルネスフォーラム」(主催:伊藤園中央研究所)を、2月27日に開催した。伊藤園中央研究所では、“お茶”を通じて健康課題の解決を提案するべくウェルネス(心身・社会・地球環境の健康)に資する情報を発信し、人生100年時代を豊かに生きる知恵を伝えることを目的として「伊藤園ウェルネスフォーラム」を開催している。第10回を迎える今回は、「最先端 抹茶サイエンス 認知症予防と共生の新たな一歩」をテーマに、抹茶と認知機能の最新の研究について、有識者による基調講演を行った他、世界が注目する「最先端 抹茶サイエンス」が社会にもたらす多面的メリットなどについてパネルディスカッションを通して議論を交わした。

フォーラムの開催にあたり、伊藤園中央研究所 所長の加藤一郎氏が挨拶。「今回のフォーラムで取り上げる抹茶は、国内では主にスイーツなどで人気となっているが、海外からのニーズも高く、多くの外国人観光客が抹茶を購入している。農林水産省の統計を見ても、抹茶を含む緑茶末の輸出量は前年比2ケタ増で成長しており、世界的に注目を集める食品となっている。当社では、この抹茶の持つ健康性について、これまで様々な有識者と共同研究を進めてきた。今回は、最新の研究結果を踏まえ、抹茶と認知機能の関係や共生社会にもたらすメリットなどについて理解を深めていければと思っている」と、フォーラムを通じて抹茶サイエンスの最前線を伝えていくと述べた。

続いて、「人生120年時代に求められる認知症対策」と題し、筑波大学医学医療系 臨床医学域精神医学 教授の新井哲明氏が基調講演を行った。「認知症とは、1つの病気を指すのではなく、認知機能が低下することによって仕事や日常生活に支障が出る状態の総称であり、原因となる病気は数多く考えられる。認知症の発症には、老化が深く関係しており、年をとれば誰でも発症する可能性がある。また、認知症の原因となる疾患は、アルツハイマー病が最多となっている」と、認知症とはどのような病気なのかを解説。「『脳の機能が健常な状態』と『認知症』の中間の段階を軽度認知障害 (Mild Cognitive Impairment:MCI)と呼んでいる。MCIと診断された人の10人に1人は1年間で認知症に移行するが、認知機能が戻る人やMCIのままの人もいる。そのため、MCIを正しく知り、MCIのうちに早期発見に努めることが、認知症の予防やその後の生活を保つために重要である」と、早期発見の重要性を訴えた。
「認知症の治療法としては、従来は症状を緩和する薬物療法が中心だったが、現在は新薬の登場によって、病態の進行を遅らせる治療法が確立されつつあり、認知症治療の転換期にある。特にアルツハイマー病の治療において新薬は効果的だが、すべての患者に処方できるものではなく、認知機能低下を完全に止められるわけではないため、やはり予防が大切になる」と、認知症治療の現状を説明。「認知症のリスクを低下させる食事として地中海料理(緑黄色野菜、果物、魚、豆類、オリーブオイル等)が知られているが、日々の食生活や運動などの生活習慣に気をつけることで、認知症になるリスクを減らすことができる。例えば、緑茶に含まれるカテキンには、アルツハイマー病の原因タンパクの一つであるタウ蛋白の線維化を阻害する働きがあることが研究結果でわかってきた。そこで、認知症予防として、バランスの良い食事をとり、食後に緑茶を飲み、定期的に散歩をすることを推奨している」と、予防のポイントを教えてくれた。「認知症の定義は変わりつつあり、今後は認知症になっても尊厳と希望を持って暮らすことができる共生社会が実現していくと考えている。心配な時には、早期に地域包括支援センターなどに相談して、認知症を過度に恐れることなく、人生120年時代といわれる今を楽しんでほしい」と、これからは認知症と共生していく社会になっていくとの見解を示した。

次に、MCBI 取締役会長の内田和彦氏が登壇し、「抹茶と認知機能~最新研究より」と題した基調講演を行った。「近年の各種調査や研究などから、高血圧や糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病は認知症の大きなリスク要因であり、中年期の生活習慣が、認知症の予防に非常に重要であることがわかってきた。そこで、どうすれば日常の生活習慣の中に認知症予防を取り入れていくことができるかという観点から、一番手軽である『食』に着目。従来の研究で『緑茶をよく飲む人は認知障害が少ない』という報告があったことを踏まえ、伊藤園と筑波大学、メモリークリニックとりでと共同で、抹茶と認知機能に関する研究をスタートした」と、抹茶の共同研究に着手した経緯について紹介。「今回実施した『抹茶の認知機能低下抑制効果を評価する試験』では、60歳から85歳の高齢者を939名募集し、そのうち、認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)およびプレクリニカル期にあたる主観的認知機能低下(SCD)と診断された99名を選抜。『抹茶』の長期摂取による認知機能等への影響を、二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験によって検証し、12ヵ月という長期間の調査で世界でも類を見ない研究となった」と、最新研究の概要を説明した。

「試験の結果、『抹茶』を継続摂取することで、睡眠の質を評価するスコアの改善、また社会的認知機能の改善傾向が見られた。睡眠の質については、ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)を用いて評価した結果、抹茶群でPSQIスコアが低下し、睡眠の質が向上する傾向が示された。また、社会的認知機能については、コグニトラックス検査による認知機能の領域別の評価において、抹茶群はプラセボ群に比較して、表情認知テストで表される社会的認知、具体的には顔表情からの感情知覚の精度が有意に改善することが確認された」と、抹茶による睡眠の質向上および社会的認知機能の改善傾向を確認したという。「当社では、こうした知見をもとに、認知症予防にしっかりと取り組んでもらいたいと考え、『MCBIメンバーズ』というプラットフォームサービスを無料で提供している。認知症のリスクと予防効果の見える化を通して、認知症の早期発見および予防につなげられるようサポートしていく」と、認知症予防に向けて「MCBIメンバーズ」のサービスも活用してほしいと呼びかけた。

基調講演の後には、最前線で認知症研究に取り組んでいる有識者によるパネルディスカッションが行われた。パネルディスカッションは、三菱総合研究所 ヘルスケア事業本部 主席研究員の大橋毅夫氏がモデレーターを務め、基調講演を行った筑波大学の新井氏、MCBIの内田氏に加え、サルタ・プレス 代表取締役の西沢邦浩氏、伊藤園中央研究所 担当部長の瀧原孝宣氏が参加し、「世界が注目する『最先端 抹茶サイエンス』 社会にもたらす多面的メリットとは」をテーマに意見を交わした。

まず、抹茶が世界的に注目を集めている背景についてサルタ・プレス 西沢氏は、「緑茶の輸出額は364億円で10年前の約5倍と、外国人からの抹茶人気は非常に高い。健康によいといわれている地中海料理に緑茶、青汁のような飲み物をプラスした『グリーン地中海食』の研究も進んでおり、実際に認知機能の悪化を抑制するデータも出ている。抹茶には、老化制御ビタミンである可能性から世界で注目されているビタミンKや、食物繊維が豊富に含まれているため腸活にもつながる。世界の健康におけるトレンドのキーワードにも合致しており、手軽に美味しく摂取できる食材だといえる」と説明した。

伊藤園中央研究所 瀧原氏は、「抹茶はテアニンを含むアミノ酸や、カテキン、ビタミンなど、体に良い成分が凝縮された究極のお茶。日本人にとって抹茶は、『伝統的なもの』や、スイーツなどの『フレーバーの一種』と考える人も多いが、海外から見た抹茶のイメージは『健康によい』というイメージが強く、これも海外輸出額を押し上げている一因であると考えている。また、この海外からの抹茶人気が『抹茶と健康』の研究を推し進めることにもつながっている」と、海外での人気も追い風に抹茶サイエンスの研究が加速していると話していた。
ここで、基調講演の内容を振り返り、筑波大学 新井氏が認知症予防のポイントについて、MCBIの内田氏が早期発見の重要性について解説。これを受けてサルタ・プレス 西沢氏は、「表情認知の低下は、コミュニケーションの低下からの孤立につながる可能性があり、認知症予防の早期介入において非常に重要な因子であると感じた。この理由のひとつとして、近年、血液中のタンパクを調べた大規模データによると、20~30代でも年齢以上に脳の老化が進行している人がおり、その大きな要因に生活習慣が関係している可能性があるという研究結果が出ている。一方で、長野県では中年期に緑茶を1日2~3杯継続的に飲んでいた人の方が、認知障害のリスクが少なかったという研究も出ている」と、年齢に関係なく、早期から予防に取り組むことが大切であるとの考えを述べた。
伊藤園中央研究所 瀧原氏は、「認知機能への影響に加え、緑茶や抹茶には血中LDLコレステロールを下げる効果も期待されている。さらに、難聴やうつ病といったコミュニケーション障害につながる可能性のある症状に対しても、緑茶や抹茶の抗酸化作用や抗炎症作用が有効である可能性があり、今後も研究を進めていきたいと考えている」と、緑茶・抹茶の健康作用について、さらに研究を深めていくと語った。

これからの共生社会に向けたコミュニティの課題について聞くと、筑波大学 新井氏は、「認知症と診断された人に対しては、デイサービスや訪問など孤立しないためのシステムが整っているが、認知障害が軽度のMCI向けの集いの場はまだ確立されていない。MCIの人が通常のデイサービスを利用しても、うまく馴染めないという問題も出てきている。今後は、MCIに適応したコミュニティやサービスを作っていくことが必要である」と指摘した。

また、認知症予防における抹茶の可能性について、MCBI 内田氏は、「抹茶は、認知症予防の手段としてベストチョイスの一つだと思っている。認知症予防に最も効果的なのは運動だが、継続的に生活の中に取り入れていくのは少しハードルが高い。抹茶のようなドリンクであれば比較的ハードルも低く、生活習慣の中に取り入れやすいと考えている」と、日常的に抹茶を飲むことが認知症予防につながると強調した。

伊藤園中央研究所 瀧原氏は、「抹茶の健康作用に期待が高まっているが、それだけでなく、年代に関わらず飲まれている抹茶をコミュニケーションツールとしても活用してほしい。また、抹茶というと茶道のような茶筅でしっかり泡立てるようなことを想像する人も多いと思うが、マイボトル(水筒)に『水』と『抹茶』を入れて振るだけで楽しむこともできる。もっと手軽に、生活の中に取り入れてほしい」と、実演を交えながら、抹茶を手軽に飲む方法を伝授してくれた。

最後に、モデレーターを務めた三菱総合研究所 大橋氏が、認知症の予防と共生に向けたポイントとして、(1)早期行動が大切。1人で抱え込まずに、まずは相談を、(2)抹茶を生活に取り入れたコミュニケーションを、(3)認知症は過度におそれず、正しい知識を身につけよう--の3つを提言し、パネルディスカッションを締めくくった。
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