100年時代を生き抜く選択:松田昭博さんのパラレルストーリー
こんにちは。パラレル活動家の岡田慶子(おかだけいこ)です。日本で2016年に発刊されたリンダ・グラットン著『LIFE SHIFT』をご存じでしょうか。サブタイトルは「100年時代の人生戦略」。大ベストセラーとなったこの本のキャッチコピーには『今こそ、自分の人生を生きよう』と書かれています。本書に出会ったことで、自らのライフプランの(再)設計を行い、パラレル活動を展開されている松田昭博さんをご紹介します。

パラレル活動の原点

松田さんは、新卒でメガバンクに入社後、長年にわたり金融業界で活躍されました。後年には金融会社で役員を務め、海外赴任中に『LIFE SHIFT』と出会い、自らの人生を抜本的に見直したといいます。リンダ・グラットン氏が提唱する「従来の『教育→仕事→引退』の3ステージから、学び直しや新たな挑戦を含むマルチステージ型の人生を生きる」という考えに影響を受け、「より良い世界を創り出すため、ライフプランを(再)設計する」と決意し、多様な活動に取り組んでいます。

100年時代を生き抜く選択:松田昭博さんのパラレルストーリー

現在は”自由人1.0″のフェーズとのことで、「組織の制約から離れ、やりがいを感じる活動を中心に人生を設計するステージ」を意味しています。”事を仕上げる”という意味での仕事に携わることには変わりないながら、経済的報酬を目的とした仕事中心ではないことが以前とは違うようです。

現在のフェーズでの活動コンセプトは社会貢献。ボランティア活動に精を出そうというのではなく、「収入を得ることよりも、よりよい社会をつくる」活動に時間を充てています。何に時間を使うかが生き方を変えることだと考える松田さんに、時間の使い方を伺いました。

◆自分として価値があると思うことに時間を使う
・より良い世界を創り出すことにつながること
・面白そうでワクワクすること
・若い人の夢を後押しすること

◆報酬はある方がいいが、それを目的としない

100年時代を生き抜く選択:松田昭博さんのパラレルストーリー

ライフシフトの実践

松田さんは自らの経験を生かして多くの役割を担っています。10数種のタイトルを持って活動する、まさに”パラレル活動家”で、その活動は3つの柱に集約されます。

経済活動:社外取締役やアドバイザーとして企業の成長をサポート
社会貢献活動:地域社会における学校運営や防災支援、地域活性化
若者支援:新しい価値観を基に、より良い世界を創り出そうとする若者たちの挑戦への支援

100年時代を生き抜く選択:松田昭博さんのパラレルストーリー

周囲からは「なにやってるの?」「こんなに沢山やれるの?」と言われるそうですが、松田さんにとっては、すべて楽しみながらやっている”ライフ”と”ライフ”が混然一体となった”ライフワーク”。

「1日6~7時間の睡眠と食事を合わせて10時間、これを除いて1日14時間、週に98時間、1ヶ月に約400時間をどう割り振るだけの話。、ワークライフバランスを考えるってほど大袈裟な話じゃないよ」と言う松田さんです。これまで相当なハードワークをこなしてきたビジネスパーソンの片りんを伺わせます。さらに「取り組んでいることは全部バラバラなように見えるけど、どこかでつながってたり、将来つながる予感があるんだよね」と言います。

そう、それこそがパラレル活動の醍醐味です。まったく違う分野の人や情報との掛け合いは、そこをクロスオーバーする人ができる創造であり、価値であり、楽しみでもあるのです。数年後に控える次のステージである自由人2.0では遊興にふける予定だったそうですが、最近ではもうすでに自由人2.0に入ってしまっているような気がすると笑います。

「parkrun」で築くコミュニティ

松田さんのパラレル活動を象徴する取り組みとして、「parkrun」の運営があります。50代後半から周囲に勧められてランニングを始め、還暦の年にはフルマラソンでサブ4(4時間以内に完走)を達成するレベルにまで成長しました。いくつかのランニングコミュニティを主宰し、幹事を務めることもありましたが、自宅近くの公園整備を機に世界的に展開されている「parkrun」のイベントを立ち上げました。

「parkrun」は毎週土曜日に行われる5キロのラン&ウォークイベントで、ボランティアによって運営される健康促進や地域コミュニティの形成を目的としたものです。年齢や能力を問わず、自分のペースで参加できる点が魅力で、国内外の他地域からの参加者があるのも特徴です。

松田さんが運営する埼玉県幸手市の【権現堂2号公園parkrun】は、毎回70~80名前後が参加するようですが、最近では100名を超えることも珍しくなくなりつつあるようです。さらに、その半数近くが自ら率先してボランティアを務めているというのだから驚きです。参加者がリピーターになり、友人や家族を誘ってくるという好循環により、コミュニティの開設から1年半余りの成果としては、相当速い成長を遂げているようです。

100年時代を生き抜く選択:松田昭博さんのパラレルストーリー

私も一度参加したのですが、コミュニティメンバーが明るく、楽しそうで協力的で、とても心地よい時間を過ごすことができました。運営の秘訣を聞くと、松田さんはニヤリとしてスマホの画面を見せてくれました。

そこにはなんと!エクセルを使用した過去データがあり、グラフになっていました。何をしたらどんな結果になるか…積み上げての今なのです。認知を高めるための広報活動や、参加意欲を刺激するイベント企画など、そこには企業の第一線で営業やマーケティング、マネジメントに携わってきた松田さんの知見が溢れていました。

「マルチステージ」の価値

最後に、家庭内の役割も書き添えます。「会社員人生を支えてくれた妻に今度はお返しをする番だ」と、現在は地元で議員を務める妻の仕事が第一優先で、家事などを相当こなされている様子。準主夫と言っても過言ではなさそうです。

『LIFE SHIFT』の中で示されたマルチステージの価値とは、従来の「教育→仕事→引退」という一方向の人生モデルを超え、夫婦や親子といった家族関係やライフステージの変化を柔軟に取り入れる生き方です。複数の役割を並行し、調和を図ることで新たな価値が生まれます。松田さんのように「パラレル活動」を選ぶことは、仕事・家庭・地域活動をクロスさせながら、自分と周囲の人生をより豊かにする道でもあります。

前回のコラムにも関連しますが、「自分の好きなことがわからない」「やりたいことがない」という人は少なくありません。松田さんは、そんな現実に向き合う前に、『LIFE SHIFT』という本との出会いをきっかけに自分の人生のハンドルをしっかりと握り、シフトを入れ替えました。

今回は定年前後のストーリーとなりましたが、何歳であっても、どんな状況であっても自分の在りたいように人生を描こうとすること、そのための一歩を小さくても進めることは大事だと思います。

「いつからだって人生は変えられる」

松田さんの言葉と行動は、私のロールモデルのひとつでもあります。