青色申告欠損金
(画像=Dmytro Ostapenko/Shutterstock.com)

事業を行う場合に損失が発生する場合もある。そのとき青色申告を行っていると青色申告欠損金という税制上有利な取り扱いを受けることが可能だ。今回は個人・法人ともに存在する青色申告欠損金についてその概要と活用の仕方について説明する。

目次

  1. 青色申告欠損金とは何か?
  2. 個人事業主に対する欠損金制度とは?
  3. 法人における欠損金制度とは?
  4. 青色申告の欠損金をどのように活用すべき?3つの例で解説
    1. 1.役員退職金の利用
    2. 2.不動産含み損の活用
    3. 3.繰越欠損金を持った企業との合併
  5. 欠損金の活用に対する注意点

青色申告欠損金とは何か?

青色申告の特例の一つとして「青色申告欠損金」という仕組みがある。そこで確定申告や青色申告について流れを簡単に説明していく。

・税務申告の流れと青色申告
個人事業主、法人のどちらにおいても税金の計算のための所得額の申告が必要となる。まず一定の期間内(個人の場合は暦年単位・法人の場合は決算期単位で、最長で1年)の間における収入の算出が必要だ。収入が算出できたあとは費用を差し引く。この差額が所得だ。

所得にさまざまな所得控除差し引かれたものが課税所得となり課税所得に対して税率をかけて税額を算出するのが一連の流れである。税金の計算を行う際に一定の条件に該当する記帳方法を行っている事業者は「青色申告」という手続きを選択することが可能だ。青色申告とは、税務署が定める基準に該当する帳簿を備えおくことを条件として税金の計算において優遇される仕組みである。

税金上の優遇措置があるため、収益事業として行っているものの大半は、青色申告制度を利用していることが多い。通常の確定申告・税務申告による税金の計算の場合、各年・事業年度内において所得・利益に対する税金の計算は簡潔してしまう。事業の状況や特殊要因で損失が出たあと翌年・事業年度以降に所得・利益が出た場合、過去の損失とは無関係にその期間に発生した課税所得に税金が課税される。

青色申告欠損金とは、過年度の損失を累計しておいて次年度以降の所得が発生した時点で税金の計算上で過去に発生して繰り越していた損失を相殺することだ。利用することで赤字後の黒字年度における所得額を減少させ結果的に支払う税金を減少させることができる。全体としては、トータルとしての黒字に課税されることとなるため、納税者としては理解しやすい仕といえるだろう。

しかし各制度によってさまざまな制約があるため、利用と管理については十分な知識を持っておく必要がある。以下では、個人事業主と法人において利用可能な青色申告欠損金の制度について内容を個別に説明したうえで欠損金の活用方法と留意点などについて説明していく。

個人事業主に対する欠損金制度とは?

個人事業主が税金の計算を行う場合は、以下のように仕分ける。

  • 事業から得られる所得は事業所得として計算
  • 不動産所得などその他で個人に対して課される所得の金額

これらの所得をそれぞれに算出し所得控除を差し引いたあと、累進課税となる所得税の税率をかけて所得税の金額を算出していく。同一年度でプラスの所得とマイナスの所得(欠損)がある場合には、分離課税となる一部の所得を除いて損益通算ができるためプラスの所得とマイナスの所得を相殺することが可能だ。損益通算を行っても全額が相殺できなかった場合、残存したものが純損失となる。

青色申告をしている個人事業主の場合、純損失の繰越制度が利用できる。つまり青色申告の承認を得ている場合にのみ利用できる制度だ。事業所得などで損失が発生し他の所得との損益通算を利用してもなお損失が発生している場合、損失額(純損失)を翌年以降の3年間に繰り越して次年度以降の各年分の所得額から差し引くことのできる仕組みである。

この仕組みを利用する場合には、確定申告の前に青色申告の承認申請書を以下の期限までに住所地管轄の税務署へ提出し承認されることが必要だ。

  • 青色申告書による申告をしようする年の3月15日まで
  • 1月16日以降に新たに事業を開始した場合には事業開始から2ヵ月以内

確定申告書の申告書第四表(損失申告用)に所定の内容を記載して申告することが必要となる。当年における純損失の充当内容および純損失の繰越内容は第四表内で計算する。また上記の繰越制度のように将来の所得額から差し引く方法ではなく純損失の全部または一部を前年の所得に繰り戻したうえで税金を計算。

前年の納付税額との差額を還付してもらう制度(純損失の金額の繰戻しによる所得税の還付請求)もある。その場合、前年も青色申告をしていることを条件のため留意が必要だ。「純損失の繰越制度を使うか」「繰戻還付を使うか」は、個人事業主側で選択が可能である。またこの制度とは別に災害・盗難等で資産に損害を受けたときにも繰越控除はできるため押さえておきたい。

適用できる雑損控除の未控除分(雑損失)がある場合には、青色申告を行っていなくても繰越控除できる。自然災害だけでなく盗難や横領なども雑損控除の対象となるが、詐欺や恐喝での損失については対象とならないので注意しておこう。

法人における欠損金制度とは?

法人税の申告は、法人の決算における税引後当期利益の額を基本数字として法人税の計算上と会社の決算処理の違いを修正したうえで法人税の計算上の所得額を算出して税金の計算を行うのが一連の流れだ。その際、法人の利益がマイナスの場合には、税務調整を行っても法人税の計算上の所得がマイナスとなることがある。

この場合、税金は課税されないが、このマイナスを次年度以降の申告まで繰り越しし将来同法人から発生する所得と相殺することが可能だ。これが法人における青色欠損金の制度である。法人税における繰越欠損金は、発生後10年間にわたって所得との相殺に使用することができる。繰越欠損金として認められるのは、法人の決算上の損失累計(繰越欠損金)ではない。

法人税の計算上における所得額のマイナス額累計分であることには注意しておく必要がある。法人税において欠損金を繰越控除するためには、以下の手続きが必要だ。

  • 提出期限までに(青色申告による申告書を提出しようとする事業年度開始の前日までか、普通法人等の場合には事業開始の日から3月以内か事業年度終了の日かいずれか早い日の前日まで、等諸条件に従った日)までに青色申告申請書を提出して承認されること
  • 法人税申告書のうち別表七(一) 「欠損金又は災害損失金の損金算入に関する明細書」に記載して損失申告の内容および当年度における欠損金の充当について計算・記載すること

その別表においても計算される通り繰越欠損金とその後の所得を相殺する場合、繰越欠損金の発生時期が異なる場合には、発生が古いものから順番に充当されていくこととなる。また法人税にも繰戻還付の制度があり前年度の法人税に対して繰戻還付申請することが可能だ。この場合には一定のルールに基づいて還付請求の手続きを取る必要がある。

税金の取扱上における中小法人に該当する場合(資本金1億円以下または資本金を有しない普通法人、公益法人等、協同組合等、人格なき社団等)には、繰越欠損金は発生した法人税の計算上の所得に対して満額使用することができる。しかし中小法人に該当しない法人または大企業の100%子法人が繰越欠損金を使用する場合には、2018年4月以降開始事業年度での使用可能額は繰越欠損金を使用する前の所得に対して50%までが使用上限となるため注意したい。

青色申告の欠損金をどのように活用すべき?3つの例で解説

繰越欠損金をうまく使うことで将来的な納税額をコントロールすることができる。まずは繰越欠損金には期限があるため、その期限内で活用しきることが肝要だ。個人事業主の場合、所得税は「所得金額が大きいほど税率が高い」という累進課税の仕組みのため、純損失が発生する申告を行う際に次年度以降の申告所得がどのように推移するかも想定しておきたい。

そのうえで「繰戻還付の制度と純損失の繰越制度のいずれを利用するか」についても検討する余地がある。また個人の場合には、法人と比較して純損失の繰り越し可能な期間が3年と短い。さらに後述するような資産勘定を使った所得のコントロールも難しいため、純損失の繰越期限が切れるよりも前に早急に繰越欠損金を使い切るようにしておく必要がある。

法人の場合には、税率はほぼ一定であり「繰戻還付」「欠損金の繰越制度」のどちらを使用しても長期的な視点で見たときのトータルの税金面での差に大きな差異はない。また損益の発生について会社の決算内容を上手に利用することで個人事業主よりも所得金額をコントロールできる手段がたくさんあるといえるため、年間の所得額の調整もしやすくなっている。

そのため法人の場合には、長期的な視点に立ってタックスプランニングを行い将来的に以下の内容を見極めていくことが必要だ。

  • どのタイミングで収益が発生する見込があるか
  • 繰越欠損金や資産からの損失発生などによる相殺して納税額を極小化できるか など

法人の場合には、資産の中に含み損があるものや多額の費用を一時的に損金処理できるタイミングをうまく利用して納税額の圧縮を図ることが可能だ。そのため個人事業主よりも柔軟なプランニングができる。以下のような3つの例を押さえておきたい。

  • 役員退職金の利用
  • 不動産含み損の活用
  • 繰越欠損金を持った企業との合併

1.役員退職金の利用

業績の長い中小企業の中には、創業者が若いころに創業したのちに成長してその後安定経営となっている企業が多数ある。そういう企業にとって有効なのが役員退職金を利用した欠損金の作り方だ。役員退職金は、従事年数と貢献度に応じた合理的な範囲内であれば、税務上も損金として認められることが多い。

その場合には、一般的に功績倍率法と呼ばれる計算方法(従事年数×役員報酬月額×貢献倍率1~3倍程度)の範囲内であれば税務上も認められることが多い。上記のような企業であれば役員退職金として計上できる金額は莫大なものになる。業績が好調になるタイミングに社内の事業承継のタイミングを合わせて先代に役員退職金を支給。

それを10年間かけてその後の利益と相殺していくことで「欠損金の総額×実効税率分」の税金額の軽減効果が発生することになる。

2.不動産含み損の活用

法人が過去に購入した不動産の中には、バブル崩壊後の不動産市況などの影響により、含み損を抱えたままの不動産が残存しているケースがまま見受けられる。このような不動産の含み損もタイミングを合わせて顕在化させることで欠損金を活用することが可能だ。役員退職金の場合と同様に、業績が好調となるタイミングで含み損を持った不動産の売却を行えば含み損が損失として顕在化する。

その結果欠損金として利用することができる状態となるのだ。その欠損金を10年間かけてその後の利益と相殺していくことで、こちらも欠損金の金額×実効税率分の税金額の軽減効果が発生する。また不動産に塩漬けされていた資金が再度現金として利用可能な状況となるため、場合によっては税金対策と資金調達を両方行うことも可能だ。

不動産の場合には、売却によってその後のキャピタルゲインの可能性を放棄することになる。そのため当該不動産の市場価格の趨勢と将来的な会社の事業としての利用価値、売却によって得られた資金の使い道など諸般の事情を総合的に勘案して決定することが肝要だ。

3.繰越欠損金を持った企業との合併

法人の場合には個人事業主と異なり繰越欠損金がある状態でも企業の所有者(株主)を変更したり合併や会社分割などを使用した組織再編を行ったりすることができる。収益の出ている企業と繰越欠損金を保有している企業が合併して一緒になれば収益の出ている企業が収益に課税される税金を繰越欠損金で相殺して課税金額を減少させることができる場合があるのだ。

会社の組織再編の場合には、原則としては組織再編時にそのときの会社の状況に応じて資産の含み益等に課税される。一方で欠損金についても税務上は効力を失うことになる。ただし一定の要件に該当する場合には、税務上の条件をそのまま引き継いだ状態で合併が認められるケースもあり、それが適格合併と呼ばれるものである。

適格合併が成立する場合、被合併会社(合併により消滅する会社)が保有していた繰越欠損金が新会社に引き継ぐことができ将来の収益と相殺することで課税負担を軽減することが可能だ。そのためうまく利用することで企業収益にプラスの影響がある。適格合併が認められる大まかな要件としては、共同事業を行うための合併であるか、企業グループ内(資本関係のある企業群の内部)での再編であることが必要だ。

ただし企業グループ内での再編適格合併が認められるためには、支配関係の強固さや期間、事業の継続や従業員の引継ぎ要件など税務上で定義されているさまざまな条件に該当する必要がある。組織再編税制は複雑かつ法務・税務・経営の知識を十分に擁していないものが行うと思いがけない失敗をしかねない。

そのため組織再編に関する知識を十分に有している税理士・公認会計士と慎重に検討したうえで実行することがよいだろう。

欠損金の活用に対する注意点

欠損金の活用に関しては、特に期限について十分留意しておくことが必要である。損金の残額と期限は、それぞれに以下に記載があるので押さえておきたい。

・個人事業主
確定申告書の申告書第四表(損失申告用)の下部

・法人
法人税申告書の別表七(一)「欠損金又は災害損失金の損金算入に関する明細書」

現時点での金額と翌年度以降の所得と相殺可能な額を年度ごとにしっかりスケジューリングし、それを計画的に利用するために必要な行動を起こすことが必要である。法人の場合には、組織再編によって繰越欠損金のあった会社を合併したケースや法的整理の枠組みを利用した後に再成長して上場にいたったケースなど特殊なケースでは過去の繰越欠損金が使用できないケースも少なくない。

そのためそのような点も注意しておくことが必要だ。また青色申告欠損金を利用するためには青色申告を継続していく必要がある。継続のためには「毎年申告期限までに適正に確定申告・法人税の申告を終える」「必要な帳簿を備えておく」といったことも必要になるため、留意しておきたい。

文・THE OWNER編集部

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