10月10日、セブン&アイ・ホールディングス(以下、HD)は、“グループ構造の最適化をはかる” としてイトーヨーカ堂、ヨークベニマル、ロフト、赤ちゃん本舗、外食事業など非コンビニ事業(SST事業グループ)を統合した中間持株会社「ヨーク・ホールディングス」を設立、保有株式の過半を売却する手続きに入った。11月28日に締め切られた1次入札には住友商事グループ、日本産業パートナーズ(JIP)、米投資ファンドグループなどが参加、2次入札を経て2025年度中に持分法適用会社化する。
SST事業グループの切り離しはHDの独立社外役員で構成される “戦略委員会” がこの4月に提言した方向性に添うものである。とは言え、このタイミングでの実施はカナダの同業大手「アリマンタシォン・クシュタール」(ACT社)からの買収提案に対する防衛策と解するのが自然だ。創業家も動く。11月13日、HDは創業家グループから “MBOによる買収提案” を受けていることを公表、国内メガバンクや米投資ファンド、ファミリーマートを傘下に持つ伊藤忠商事などがファイナンスパートナーとして関心を示しているという。
HDにとってACT社からの買収提案は衝撃だっただろう。しかし、HDは昨年も米投資ファンド「バリューアクト・キャピタル」(VAC社)からコングロマリット構造の再編と役員陣の交代を突き付けられている。これに対してHDは「セブン&アイ・グループは食を中心とした世界有数のリテールグループ」であり、「コンビニ事業への投資を強化するとともにオッシュマンズ、フランフラン、そごう・西武、バーニーズを売却するなど構造改革を進めてきた」と反論、役員選任に関する株主提案も「VAC社が推薦する候補者は食品・小売業界における経験が乏しい」と一蹴した。
ただ、 現在進行している事態はVAC社が主張した “コンビニ事業のスピンオフ” そのものであって、VAC社提案との決定的な違いは井阪社長を含む役員全員がそのまま残っている点にある。HDはSST事業グループを切り離すことで「SST事業グループは独立した企業体として自らの成長戦略を自ら定めることができる」とその意義を説明するが、要するにHDの現経営陣は彼らの成長とシナジーを主導することが出来なかったということだ。今、国内のコンビニ市場は飽和状態にある。成長を担うのは海外だ。であれば、経営者の要件はグローバルマネジメント能力の高さである。“戦略委員会”はこの視点から経営体制の在り方を検討し、“セブンイレブン” の未来を提言いただきたく思う。
今週の“ひらめき”視点 12.8 – 12.12
代表取締役社長 水越 孝