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2019年5月、北海道大樹町の空にロケットが打ち上がった。

打ち上げたのは北海道大樹町に本社を置くインターステラテクノロジズ株式会社(以降・IST)。

2005年に宇宙機エンジニア、科学ジャーナリスト、作家らが集まり民間で宇宙開発を目指す「なつのロケット団」からスタートし、以来、北海道大樹町にロケット射場を持ちロケットの実験・打ち上げを行ってきた。

世界的に見ても、民間企業が独自で開発製造したロケットが宇宙まで飛んだのはISTが9社目だという。また、民間企業が開発した姿勢制御機能を持つ液体燃料ロケットでは、スペースX、Blue Origin、Rocket Labに次ぐ、世界で4社目だ。

2017年に行われたゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレーのそれぞれの予測によれば、2040年までに宇宙ビジネスの市場規模は1兆ドルをこえるという。※1・2 私たちの耳にもイーロン・マスクの「スペースX」やAmazon(アマゾン)の「Kuiper計画」など民間の宇宙ビジネスのニュースも珍しくなくなってきた。

これから日本をとりまく宇宙ビジネスはどのように発展していくのか。その中で、ISTがどのようなプランを描いているのかを代表取締役社長の稲川貴大さんにお話をうかがった。

(※1.The Goldman Sachs Group, Inc.「Space: The Next Investment Frontier」(2017年4月))
(※2.Morgan Stanley.「Space: Investment Implications of the Final Frontire」(2017年10月))

ロケットは輸送業

稲川さんは「ロケットは輸送業」という言葉をよく口にする。
輸送するものは主に人工衛星だ。

「人工衛星を宇宙に持っていきたい人って、普段の生活では見えにくいんですが、実はいっぱいいるんですよ。だから需要もある。そういった人たちをお客様としてお預かりした人工衛星を宇宙に運ぶのがISTの事業です。」

民間で使用されている人工衛星は主に、通信と観測に用いられている。

例えば、人工衛星が増えることで、世界のどんな地域でもインターネットが使えるようになったり、広大な土地を24時間リアルタイムで観測できたりと多くの課題が解決できる。

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「現在、宇宙で稼働している衛星は1000~2000基しかない。今後の需要予測だとこれから10年で3万基くらい打ちあがるといわれていて、低めに見ても1万基くらいの需要はあります。ただ、ロケットというのは工業製品なので開発に時間がかかります。そこで、ISTは早い段階から小型のロケット、衛星の需要がこれから来ると言い続け、開発を続けてきました。」

打ちあがっている衛星の数が少ない理由の1つが、その打ち上げコストにある。初期の人工衛星は大きく重たいため、打ち上げには大型のロケットが必要で、コストも高くなりがちだった。

例えば、2014年に打ち上げられた最新の人工気象衛星「ひまわり8号」の打ち上げ時の重さは約3,500kg。したがって打ち上げに使用したH-IIAロケット25号機も全長53の大きなものが使われた。

「人工衛星は技術が進歩したおかげで100kgに満たないくらいのものが出てくるなど、小型化が進んでいます。もちろん、そのくらいの大きさだと1機で役割を果たすことは難しいので数機の衛星をつなぐ(衛星のコンステレーション)させることが必要になってきます。広いエリアを数基でカバーすることで違うメリットを生み出していこうというのがここ10年くらいのトレンドです。」

世界の宇宙ビジネストレンド

「人工衛星を使ったビジネスはロケット(衛星の輸送)、衛星の製造・管理、データの分析の3つのバリューチェーンに分かれています。」と稲川さんは語る。

人工衛星を用いてられたデータの重要性については言うまでもないだろう。

衛星に搭載されているカメラはスーパーマーケットに入った車数まで区別できるほど精度が上がり、もはや、人工衛星は地表にあるものすべてを観測できるといってもいい。
ビッグデータの需要が爆発的に高まっている、「データは次世代の石油」という言葉も聞かれるようになった。

「アメリカのOrbital Insight(オービタルインサイト)という会社は、衛星データを購入して、解析したものをモルガンスタンレーなどに売っているんです。何を売っているのかというと、特定の地域にある石油タンクのふたに映し出された影をずっと観測しているんです。すると、石油の消費量がわかるようになっている。石油の消費量というのはその地域の経済活動に比例しますから。すると、経済状況を示す様々な指標が公表される前に、経済活動の盛衰というものが把握できるわけです。すると先物取引などを行うときに参考にすべきビッグデータになるわけです。」

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(Orbital InsightのPR動画。世界の石油備蓄量を衛星写真からデータ解析している)
(引用:https://orbitalinsight.com/products/go-energy/

日本の会社も名乗りを上げ始めている。

「例えば、Google Earthの画像は、人工衛星が地球上を撮影して、そのデータをGoogleが買ってマップに使用しているわけです。でも、Googleマップにもいろいろ問題があります。例えば更新頻度が遅いとか、カメラしかついていなくて、もっとセンサーを付けたらいろいろできるのにとか。そういった中で、様々なセンサーを付けた衛星写真を使ったら次世代のマップが作れるんじゃないか。そういう取り組みをしている会社が日本にもいくつかあります。」

日本では株式会社アクセルスペース、株式会社QPS研究所、株式会社Synspective(シンスペクティブ)などが衛星ビジネスに名乗りを上げている。

「ベンチャーキャピタルの資金調達額の上位には必ずと言っていいほど衛星関連の会社が入ってきている。例えば、先ほどのSynspectiveという会社はシリーズAラウンド※3だけでも約87億円を調達しているんです。資金調達がなかなか難しい日本ですらそれくらいの規模ですからアメリカならその10倍~50倍の規模で資金が集まっているといえます。すでに何十億と資金調達した会社が何社もありますが、人工衛星はロケットがないと実際に宇宙まで運ぶことはできません。そこでISTの出番です。」

(※3.ベンチャー企業の資金調達段階の一番最初のステップを「Aラウンド」と呼ぶ)

宇宙がもっと身近になる時代を目指して

“誰もが行ける宇宙”の実現を目指して、インターステラテクノロジズでは、ロケットを高頻度で飛ばせるように体制を作っていくという。

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ISTが超小型人工衛星の輸送用に計画している軌道投入用ロケット「ZERO」)
(画像提供:インターステラテクノロジズ株式会社)

「今、種子島宇宙センターでは、H-IIA ロケットが年間3回とか5回とかしか打ちあがっていません。そして、イプシロンに至っては2年に1回程度しか打ち上げてない。このペースだと10年後、年間数千回もの打ち上げ需要に対応していくには無理があります。そこで、うちは低価格の小型ロケットを高頻度に打ち上げる。私たちのロケットは、例えば観測ロケット「MOMO」は従来ロケットの10分の1の低価格なので、これまでのロケットよりもお客様は買いやすいと思います。毎週、毎日に近いくらい定常的にロケットが打ち上げられるようにする。そういうロジスティクスを宇宙のバリューチェーンの根幹を支えるインフラとしてここから変えていきましょうということです。」

打ち上げの発射が増えることで得られる恩恵は意外な所にも表れるという。

日本政策投資銀行によるレポートでは、北海道大樹町に新射場を整備した場合の道内経済波及効果は年間267億円にもなるという。

ロケットの打ち上げ回数が増えると、その回数に比例して、打ち上げを見に来る観光客が増えることは想像に難しくない。将来的には定期的に行われえる「お祭り」のようになるのではないだろうか。

現在、ISTは、MOMOの量産フェーズに入っており、2023年には超小型の人工衛星を宇宙まで運ぶ軌道投入用ロケット「ZERO」の打上げを計画中だ。

10年後、ロケットが宇宙に打ちあがる光景が北海道の日常となる日は近い。

(※4.日本政策投資銀行 発行「北海道大樹町に新射場を整備した場合の道内経済波及効果」)

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<会社情報>
インターステラテクノロジズ株式会社
〒089-2113 北海道広尾郡大樹町字芽武690番地4
http://www.istellartech.com/

企画:小笠原嘉紀(ZUUM-A)
編集・執筆・撮影:山本拓宜(ZUUM-A)