矢野経済研究所
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10月14日、中国税関総署が1-9月期の貿易総額が前年同期比+3.4%、うち輸出が前年比+4.3%、輸入が+2.2%となった、と発表した。今年上半期(1-6月期)の貿易総額の伸び率が+6.1%、輸出+6.9%、輸入+5.2%であったことを鑑みると、夏場以降の低迷が顕著である。とりわけ、輸入の落ち込みが大きく、9月単月では+0.3%へ鈍化している。

内需の低迷、デフレ圧力の強まりは国家統計局発表の物価指数でも確認できる。9月の消費者物価指数(CPI)は前年比+0.4%、食品が+3.3%となる一方、非食品価格は▲0.2%とマイナスに転じている。生産者物価指数(PPI)も減速、9月は▲2.8%とこの半年で最大の下落率となった。

こうした状況の中、当局も従来型の産業振興投資から個人消費の喚起に本腰を入れる。年内に発行が予定されている2兆元規模の特別国債のうち1兆元を家計に振り向ける。住宅購入時の頭金規制の緩和、ローン金利の引き下げなど住宅購入支援のもう一段の強化や子育て関連消費への補助なども対象とする。とは言え、単発的な景気刺激策では効果は限定的だ。地方と都市の格差を是正し、安定した内需の拡大をはかるためには雇用、税制、社会保障、地方政府の債務問題など、産業政策や社会基盤そのものの構造改革が急務である。

この7月、若者の失業率は17%に達した。そんな若者世代が支持するのは「消費降級」と呼ばれる消費スタイルだ。高級ブランドや新車の販売が失速する中、彼らが支持するのは中古品市場である。国慶節の大型連休、今年はコロナ禍前を上回る延べ20億3千万人が移動した。期間中の出入国者も1300万人を越えた。とは言え、国内旅行に限ってみると自家用車を使った近隣への節約型旅行が主流であり、国内線の航空運賃は軒並み下落した。中国の成長が1%鈍化すると近隣諸国のGDPも0.21%下がるとされる(世界銀行)。アジアへの不況の連鎖を防ぐとともに、政治的安定という意味においても実効性の高い構造改革に期待したい。

今週の“ひらめき”視点 10.13 – 10.17
代表取締役社長 水越 孝