原牧子(はらまきこ)さんは、里親制度の普及活動に取り組んでいて、実際に里子を養育しています。ご自身の経験から、『もしかしてとなりの親子は里親子!?』という本を企画し、2024年5月30日に出版。里親家庭の日常をかわいらしい漫画で紹介し、わかりやすく解説しています。本コラムでは、里親子の実情や、書籍ができるまでのストーリーを紹介いただきます。 |
里子と養子の違いを知ってますか?
色々な理由により、実の親と一緒に暮らせない子どもが日本には約4万2千人います。(令和3年度末現在)日本では2020年度以降、里親家庭や養子縁組など、家庭で子どもを養育する家庭養護を推奨しています。にもかかわらず、日本の里親委託率は約23%と、諸外国に比べとても低いです。
里子と養子の違いですが、養子というのは正式に子どもを戸籍に入れ、法律上も子どもの親になるということです。里子は、ある一定期間、子どもを家庭に迎え入れ、実親の家庭への復帰を目的として養育します。子どもの置かれた背景により、里子となるか、養子となるかが決まります。里子として委託され、何年か暮らしたのちに養子となることもあります。
私は4年前に里親登録をし、現在は里子を1人養育しています。里子を家に迎えて生活するうえで、周りの人が里親制度について知らない、ということで里親子が暮らしにくくなるということを目の当たりにしました。里親制度を知ってもらう、里親になってもらう以前に、まず「里親子の存在を知ってもらう」ことが重要だと考えました。
そこで、里親制度についてまったく興味のない人に向けた本を出版しようと思いました。親友から「漫画にするといい」という助言を受け、わかりやすく読みやすい漫画中心の本をつくることを決めました。どなたに書いてもらおうか、たくさんの論文を読み漁っていたところ、明治学院大学の三輪清子先生による『里親家庭の「おわかれ」にかかわる3 つの視角』という論文に巡り合いました。
ちょうどそのころ私は、預かっていた里子を無事に家庭復帰させたものの、悲しいでもない、寂しいでもない、言い表せない感情の中で苦しんでいるところでした。三輪先生の論文を読み、自分の気持ちの落としどころを見つけ、号泣したものの、やっと前を向くことが出来たように感じました。
調べると、三輪先生はご実家も里親家庭、ご自身も里親で、4年前から里子を養育されているということがわかり、絶対にこの先生に書いていただきたいと強く思いました。心を込めてご執筆を依頼するメールを送ったところ、三輪先生も里親子の認知度を上げたいという私と同じ強い思いをお持ちで、ご快諾いただくことが出来ました。
周りの協力を得ながら漫画を制作
漫画をつくるということは初めてで、漫画家も知らないなか、いったいどうするの?と思っておりましたが、三輪先生の義理の妹さんがイラストがお上手というお話を聞き、絵を見せていただいたところ、柔らかくあたたかく、子どもの目線に立った素敵な絵を描かれる方で、ぜひぜひ!とお願いして、わたなべとしえさんに漫画を担当していただきました。なんとこの本で漫画家デビューです。
伝えたいこと、三輪先生の豊富なご経験、知識、素晴らしい絵もある。しかし強い思いが空回りして、なかなか構成がまとまらず、苦しい数カ月もありましたが、友人に紹介してもらった編集者さんにご協力いただき、4人で、あーでもないこーでもないと頭を悩ませながら丁寧に丁寧につくり上げました。
としえさんは漫画のモデルになった子どもたちのこともよくご存じで、漫画を描いてくださるうえでも、細かいことに気を配り、思いをはせて描いてくださいました。ストーリーのつくり込みにも余念がなく、カフェで頭を抱えて何時間も悩みながら打ち合わせをしてくださったことが今では良い思い出です。としえさんがいなかったらこの本は出来ませんでした。
ブックデザインを担当してくださったデザイナーさんも「原稿を読むたびに泣きました」と感動してくださり、出版後初めてリアルでお会いした時に、「自分も里親をやってみようかなと思って息子に相談した」とおっしゃっていました。
私が書いたわけではないのですが、この本には私の思いをあふれるくらい詰め込みました。そしてこれ以上の出来はないと胸を張って言えるほど素晴らしい本が出来ました。
まずは里親子の存在を知ってほしい
そのあふれる思いを放出しまくっていたら、なんとワクセルの住谷さんに「TSUTAYA代官山店でイベントをやりませんか?」とお声掛けいただきました。里親子のことを伝えたい、という気持ちが、多くの方の手によって本になり、伝える場所をいただける、強く思うと思いは伝わる、という事を実感できた気がします。こういうことを奇跡というのではないでしょうか。
全国の子どもに絵本を配って希望と勇気を届けたり、という素晴らしい取り組みをされているラグビーの木村選手との対談は、優しく愛にあふれるものでした。知識やマニュアルを教えてくれるのではなく、木村選手も三輪先生も、「私はこう思います」というご自分のことをお話しいただけて、心に直接言葉が届き、素晴らしい対談でした。
『もしかしてとなりの親子は里親子!?』はおかげさまで出版から2カ月で重版となりました。10/19には世田谷の里親相談室 SETA-OYA-世田谷区フォスタリング機関主催の『365日のさとおやこ』というイベントで、会場の一角にある書店で三輪先生のトークイベントがあります。
https://seta-oya.com/posts/satooyako2024
つい先日も「素晴らしい内容だったので、この本に沿った内容の講演会をしてほしい」と三輪先生への講演依頼をいただきました。また、書籍のPR動画を、山本俊輔監督に制作していただくことも決まりました。
この本を出版したことで、本を読んでもらうだけでなく、講演会やイベントで多くの方に里親子のことを知ってもらえる機会が出来たこと、多くの関係者の皆様にこの場を借りてお礼申し上げます。今後も里親子のことを知ってもらう活動を全力で続けていきたいです。
最後に、『もしかしてとなりの親子は里親子!?』を紹介します。「もしかすると、お隣に住んでいるのは里親子さんかもしれませんよ」と、想像をしてもらいたくてこの題名に決めました。子どものプライバシーの問題などから、「私は里親です。この子は里子です」と言えずに暮らしている里親子がたくさんいます。
この本では10組の里親子の生活をわかりやすく漫画で紹介し、それぞれのパターンについて漫画の後に解説を入れています。里子を預かる期間はたった数日のこともあること、自分の子どもと一緒に兄弟のように里子を育てることもできること、中高生の里子もいることなどがわかります。
里親なんて絶対なれない!と思っている方でも、まずは里親子の存在を知っていただくだけで十分です。手に取ってご覧いただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。