9月18日、海上保安庁は2022年4月に知床半島で沈没し、乗客乗員20人が死亡し、6人が行方不明となった観光船「KAZU1(カズワン)」の運航会社「知床遊覧船」の社長を業務上過失致死容疑で逮捕した。事故から2年半、当時のニュース映像が伝えた同氏の不誠実さは記憶に新しい。本件では総額15億円の損害賠償を求める集団訴訟も起こされているが、杜撰な安全管理体制に対する刑事責任がようやく追及されることになる。
その前日、国土交通省はJR九州高速船(株)に対して、「輸送の安全の確保に関する命令」と「安全統括管理者及び運航管理者の解任命令」を発出した。処分は同社が博多・釜山間で運航する旅客船「クイーンビートル」が浸水の事実を隠蔽、当局への報告義務を怠ったうえ運航を継続していたことに対するもので、責任者である取締役2名を解任せよとの命令は全国初である。
「クイーンビートル」で浸水が確認されたのは2023年2月、当局や親会社に報告することなく数日間運航を継続、以後、ドック入渠と運航再開を繰り返し、同年6月、最初の「安全確保命令」が出される。しかし、2024年に入ってからも浸水隠しは止まず今回の措置となった。隠蔽はJR九州から派遣された前社長の指示のもと行われたとの報道もあるが、浸水警報が鳴らないようセンサーの位置を変えるなど、その手口は悪質だ。船舶の管理や航行の安全に対するルールは「KAZU1」事故の悲劇を受けて厳格化されたが、JR九州子会社の事案は海の安全を願う関係者へのまさに裏切り行為である。
さて、ここまで書いたところでJR東日本の東北新幹線で走行中の列車の連結器がはずれ、車両が分離した状態で停止したとのニュースが入ってきた。東北新幹線では年初に架線が破損するトラブルがあった。装置は交換の目安となる30年を越えていたという。JR貨物では検査不正だ。これを受けて全貨物列車の運行が止まった。東京メトロでも輪軸検査で不正が発覚した。自動車、船舶エンジン、自動二輪、建機、そして、鉄道。ジャパン・クオリティを代表する企業で相次ぐ不正行為に “停滞への怖れ” に委縮してゆく組織と個人の姿を見るようだ。まずは企業人一人ひとりが自身の判断と行動の基準を問い直すことことから始めていただきたい。再生とイノベーションの起点はそこにある。
今週の“ひらめき”視点 9.15 – 9.19
代表取締役社長 水越 孝