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(画像=相続サポートセンター)

「親が亡くなった時に相続税を払えなくて自宅を売った」とかなどという話を聞くと、いったい相続税とはどのくらいかかるのだろうか?と不安になる人もいることでしょう。

しかし、実は相続税がかかる人は全体の中ではかなり少数です。

実際にどのくらいの資産がある人がかかるのかの基本となる「控除」と「特例」を4つほどご紹介します。

相続税はかかるものと思っていた人の多くが、実際には相続税がかからなかったというケースも非常に多いです。

しっかりチェックしていきましょう!

1. 相続税の基礎控除とは?

1-1. 相続税の基礎控除額

「人が亡くなったら必ず相続税がかかる」と誤解している人もいるのですが、実は相続税とはある一定以上の遺産(相続財産)がなければまったくかかりませんし、申告の必要すらないものなのです。

この「相続税がかからない一定範囲の相続財産額」のことを「相続税の基礎控除」とよんでいます(なお、基礎控除という言葉自体は所得税など他の税金でも使われることがあります)。

相続税は平成27年より改正されましたが、これにより定められた現行の基礎控除額は「3000万円+600万円×法定相続人の数)」となっています。

父が亡くなり母と子供2人が法定相続人(民法で定められた範囲の相続人)という事例では、基礎控除額は4800万円ということになります。

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1-2. 法定相続人の数

気をつけなくてはならないのが、税法上で相続人の数をカウントする場合、民法上の遺産分割協議をする人の数とは考え方が異なる部分があるということです。

たとえば税法上では相続放棄をした人についても基礎控除の時に人数に入れて考えます。

また、被相続人(亡くなった人)に養子がいる場合、被相続人に実子がいれば1人まで、実子がいない場合は2人までの養子を基礎控除の際の相続人数にカウントします。

無制限に認めてしまうと税金逃れ目的の偽装養子縁組が増加するので、そのような行為を防ぐためです。

また、代襲相続(本来、相続人となるはずの自分の親が祖父母等より先に死亡していたために自分が祖父母等の相続人になること)が発生していた場合は、先死亡の親が1人でもその子(代襲相続人)が2人なら2人分をカウントするということに注意が必要です。

1-3. 平成27年1月1日以前の基礎控除はどうだった?

なお、平成27年1月1日の相続税改正前は基礎控除が非常に高く設定されていました。

具体的には「5000万円+1000万円×相続人の数」だったのです。

父が亡くなり母と子供2人が法定相続人(民法で定められた範囲の相続人)という事例で見てみると、基礎控除額は8000万円ということになります。

一般家庭で8000万円の相続財産があるというのはかなりのレアケースといえますので、法律改正前は年間の全相続発生数に対し相続税がかかった人の割合は3%台から4%台と非常に低いものでした。

このような状況になっていた理由としては時代的な背景があります。

バブル期で土地が値上がりしていた頃は、それに伴って基礎控除額は引き上げられ高い水準を保っていました。

しかしバブル崩壊と長引く不景気によって不動産価格は下落の一途をたどることになりますが、高い基礎控除額はそのまま維持されていたため(むしろ地価下落と逆行して基礎控除額の引き上げもあった)、結果として相続税を納付する人の割合はどんどん下がってくる結果となったのです。

政府の理想とする税収額と現実的な納付額がかみ合わなくなってきたことで、何らかの手を打つ必要が出てきました。

そこで「富裕層への課税強化」という旗印のもとに基礎控除の引き上げを中心とする「相続税実質増税」の法律改正がなされたのです。

これによって相続税がかかる人は地価の高い都市部を中心に大幅に増加しました。

基礎控除の計算例

では、さらに具体的イメージを持つために事例を挙げて見てみましょう。

基礎控除を法定相続人の数ごとに確認してみると、法定相続人1人なら基礎控除額は3600万円、2人なら4200万円、3人なら4800万円、4人なら5400万円、5人なら6000万円です。

基本的なケースで考えたら単純に法定相続人の人数を基礎控除の計算式にあてはめればよいことになりますが、下記のような若干特殊なケースも考えてみましょう。

たとえばAが被相続人であり、妻B、実子CとDがいたがDが相続放棄したとします。

このケースでは相続放棄したDもカウントするため相続人は3人、基礎控除額は4800万円となります。

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次にAが被相続人であり、妻B、実子C、養子D、養子Eがいたとします。

このケースではAには実子がいるため、基礎控除計算の際にカウントしてよい養子は1人のみとなります。

つまり相続人は3人、基礎控除額は4800万円となります。

もしCがいなかったとすれば養子2人を両方カウントすることになります。

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また、Aが被相続人であり、妻B、実子CとDがいたが、Aよりも先にCが死亡していたとします。

この場合Dに子供EとFがいれば子供達は「代襲相続人」という立場になりますが(Cに妻がいても妻は代襲相続人になりません)、基礎控除計算の際に子供2人分を両方カウントしてよいため、相続人は4人、基礎控除額は5400万円となります。

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2. 配偶者控除で相続税がかからない!

配偶者については相続税を計算する上で大幅な優遇措置が用意されています。

配偶者というのは被相続人が財産を形成する上で大きな貢献をしていること、また被相続人が亡くなった後の配偶者の生活を保障する意味で税金を軽くすべきであるという考え方によるものです。

これを「配偶者の税額軽減」といいますが、配偶者が実際に遺産を相続した場合「法定相続分(民法で定められた割合の相続分)」と「1億6000万円」のいずれか多い金額までは相続税がかからないことになっています。

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事例で見ていきます。

遺産2億円のうち配偶者が法定相続分で相続すると相続税はかかりません。

遺産2億円を配偶者が全て相続する場合には、1.6億円を超える4000万円が相続税の課税対象となります。

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ただ、この定め方を見てわかるように配偶者にどのくらい遺産を分けるかということが決まっていなくてはこの制度を使うことはできませんので、相続税の申告期限(被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10カ月以内)までに遺産分割協議が済んでいなくては適用ができないことになります。

そして「相続財産全体は基礎控除を超えているが配偶者の税額軽減で相続税がかからない」という結論になっても申告は必要であることに注意が必要です。

配偶者の税額軽減を適用する際に特に気をつけたいこととしては、「二次相続」をトータルで考えて一番得になる分け方をするべきということです。

一次相続(配偶者のうち最初に死亡した者の相続)で配偶者が優遇されるからといって多く分けすぎてしまうと、配偶者が死亡した二次相続の際に多大な相続税がかかってしまい、全体として見た場合損になることもあるからです。

配偶者が元々自分の名義で保有していた金額がどのくらいなのかということでも状況は違ってきますし、残された方の配偶者が最初に亡くなった被相続人とどのくらい歳が離れているかもポイントとなります。

もし一回目と二回目の相続にかなり時間差があると見込まれるのであれば、一回目で最大限配偶者に相続させて配偶者の税額軽減を活用し、次の相続が発生するまでに子供たちに生前贈与する方法で対策することもできます。

一番有利な分け方をするためにはできれば一次相続開始前から税理士に継続的相談をし、二回の相続を通じてより有利な承継の方法を提案してもらうべきだといえます。

3. 小規模宅地の特例で相続税がかからない!

大きく税額を軽減できる方法としてもう一つの目玉といえるのは「小規模宅地等の特例」とよばれる制度です。

これは、被相続人または被相続人と生計を一つにしていた親族の住んでいた場所や事業を行っていた場所については、(一定の要件はありますが)遺産である宅地等のうち定められた限度までの面積について相続財産としての評価額を下げてもらうことができます(評価額が下がる=その分税額も下がる)。

これは、生活の拠点や事業の場所などを相続税納税のために売り払わなければならないようなことになると、相続人の生活がおびやかされ、相続税の本来の趣旨から外れることになってしまうからです。

小規模宅地等の特例が使えるかどうかの要件にはやや細かい部分がありますので、用語とともに確認してみましょう。

前提として、居住や事業など、生活の基盤である土地であることは必須となります。

まず「特定居住用宅地」ですが、土地そのものの条件として「被相続人が住んでいた宅地」もしくは「被相続人と生計を一つにする親族が住んでいた宅地」であることが挙げられます。

取得者は「取得者が被相続人の配偶者」または「取得者が同居している親族が申告期限まで引き続き住み、その宅地を申告期限まで所有していること」または「取得者が同居していない親族が相続開始前3年以内に国内で自分やその配偶者名義の家に住んでおらず、その宅地を申告期限まで所有している」という条件のいずれかにあてはまることとされています。

同居親族の具体例としては、親の土地に子供が建物を建てて住んでいるような場合が典型的でしょう。

別居親族であっても良いのですが、自分や配偶者の持ち家がない、いわゆる「3年借家住まい」であることが要件とされています。

特定居住用宅地についてはその宅地の330平方メートルまで、評価額が80%減額されます。

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次に「特定事業用宅地」ですが、土地そのものの条件として「被相続人が事業を営んでいた宅地」もしくは「被相続人と生計を一つにする親族が事業を営んでいた宅地」であることが挙げられます。

取得者は「親族が事業を引き継ぎ、申告期限までその宅地を所有し、事業を営んでいること」という条件にあてはまることとされています。

特定事業用宅地については400平方メートルまで同じく評価額が80%減額されます。

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「貸付事業用宅地等」(事業用として他人に貸し付ける土地)については限度面積は200㎡、減額割合は50%となります。

ここでいう不動産投資というのは住宅アパートの貸付や駐車場や駐輪場などの事業のことですが、どのような形で不動産投資を行なっていたかによって適用条件が微妙に異なるので注意が必要です。

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なお、特定居住用宅地と特定事業用宅地を組み合わせて使う場合、合計730平方メートルまで適用することができます。

このように小規模宅地等の特例は要件こそ多いものの、上手に使えば80%の評価減を受けられるため、工夫して十二分に活用したいものです。

もちろん人間関係等の事情もありますのでそう簡単にいかないこともありますが、可能なのであれば親の自宅を相続する予定の子供が同居することで効果的に節税することができます。

そして、配偶者以外が取得する場合、申告期限まで所有していることが要件ですので、もし売却の希望があっても焦って売ることをせずに少なくとも申告期限の10カ月は持ち続けるようにしなくてはなりません。

また、小規模宅地等の特例を使うためには、やはりこれも配偶者の税額軽減と同様、相続税の申告期限までに遺産分割が済んでいる必要があることにも気をつけておきたいものです。

4. 相続税がかからなくても申告は必要?

「相続税がかからないから申告しなくても大丈夫」と思っていたら税務署から申告漏れを指摘された、などのことがないようにくれぐれも注意しなくてはなりません。

相続税がかからないといっても、相続財産が基礎控除の範囲を超えないという理由でかからないのか、上記のような「配偶者の税額軽減」「小規模宅地等の特例」を使えるからかからないのかということで申告義務のあり、なしは異なってきます。

前者(相続財産が基礎控除の範囲内)であれば、そもそも申告義務はありませんので何もしなくてかまいません。

遺産分割協議と名義変更や解約などの手続きさえきっちりしておけば大丈夫です。

しかし、後者(軽減の特例を適用する場合)であれば申告そのものは必要だということをくれぐれも忘れてはなりません。

特例が使えるのかどうかという点も、まず本人が申告した上で税務署が判断しなければならないからです。

相続税がかかるか、かからないかの判断は明らかなこともあれば微妙なこともあります。

基礎控除の範囲を超えるかどうか?特例を使えるかどうか?という点はその後の手続きの流れや税額を大きく左右しますので、疑問に思ったら決して自己判断せず、税理士に相談の上で正確な判断をしなければなりません。
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