改正雇用保険法の成立に伴い、今後変更となる諸制度の概要については前回「「雇用保険適用拡大」含む改正雇用保険法が成立! 2024年~2028年までに段階的に施行される10施策をチェック」で取り上げた通りです。紹介した全10施策の中にはすでに施行済みのものもありますが、ご確認はお済みでしょうか。

今回は、2024年6月5日成立の「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律案」の中に盛り込まれた、雇用保険法関連の重要な改正案について解説します。 2025年4月に新設が予定される「出生後休業支援給付」「育児時短就業給付」の2制度は、来春以降、企業実務に大きく関わってくるので、正しく対応できるようにしておきましょう。(文:丸山博美社会保険労務士、編集:日本人材ニュース編集部

仕事と育児の両立支援拡大~2025年4月新設「出生後休業支援給付」「育児時短就業給付」について解説

目次

  1. 子の出生直後一定期間、育休前の手取り額を維持できる「出生後休業支援給付」
    1. <「出生後休業支援給付」の概要>
    2. <支給額が「休業開始前賃金の13%相当額」である理由>
  2. 育児のための時短勤務に伴う賃金低下への補填となる「育児時短就業給付」
    1. <「育児時短就業給付」の概要>
    2. <時短勤務に伴う賃金額によっては支給調整あり>
    3. <時短勤務促進の一方で、マミートラック回避への対応が必須>
  3. 「出生後休業支援給付」「育児時短就業給付」の活用と併せて考えるべき、「その他の労働者への配慮」

子の出生直後一定期間、育休前の手取り額を維持できる「出生後休業支援給付」

すでに報道等で「育休中の給付が手取り10割になるらしい」旨を見聞きされたことのある方も多いかもしれませんが、いよいよ2025年度より制度開始となります。ただし、「現行の育児休業給付に上乗せして追加給付が行われるのは一定期間である」等、現状出回っている情報とは若干異なる点があるため、従業員向けのアナウンスの際には注意が必要です。

<「出生後休業支援給付」の概要>

「出生後休業支援給付」とは、子の出生直後の一定期間以内に、被保険者とその配偶者の両方が14日以上の育児休業を取得する場合、被保険者の休業期間について28日間を限度に、休業開始前賃金の13%相当額が支給される制度です。つまり、育休取得中の全期間について「手取り10割補償」が受けられるのではなく、あくまで最大で28日間となります。 出生後休業支援給付の3つの支給要件を、詳しく見ていきましょう。

① 子の出生直後の一定期間以内に、

具体的には、男性は子の出生後8週間以内、女性は産後休業後8週間以内を指します。特に男性の場合、2022年10月施行の「出生時育児休業(産後パパ育休)」と併せての活用が想定されます。 「出生時育児休業(産後パパ育休)」とは、子の出生から8週間以内に最大4週間まで取得できる育休制度です。

② 被保険者とその配偶者の両方が

ただし、配偶者が専業主婦(夫)の場合や、ひとり親家庭の場合等には、配偶者の育児休業取得は   要件となりません。

③ 14日以上の育児休業を取得すること

文字だけでは少々分かりづらいですが、出生後休業支援給付の具体的なイメージを図で見ておくと理解しやすくなります。

<支給額が「休業開始前賃金の13%相当額」である理由>

出生後休業支援給付の支給額は、「休業開始時賃金の13%相当額」です。その根拠としては、通常の育児休業給付の支給額「休業開始時賃金の67%」と合算して「80%」となるような制度設計が挙げられます。

一般的に、給与所得者の手取り額は、社会保険料や税等の控除を考慮すると、総支給額の80%です。つまり、「子の出生直後の一定期間、実質的に休業前の手取り額相当が支給されるようになっている」というわけです。

育児のための時短勤務に伴う賃金低下への補填となる「育児時短就業給付」

「出生後休業支援給付」同様、2025年4月よりスタートするのが「育児時短就業給付」です。育児期における、女性労働者の離職防止と男性労働者の時短勤務活用促進を目的に、柔軟な働き方の推進策として創設されました。

<「育児時短就業給付」の概要>

「育児時短就業給付」とは、2歳未満の子を育てながら時短勤務をしている労働者を対象に、時短勤務中の各月に支払われた賃金額の10%を支給する制度です。「育児に伴う時短勤務」というと女性労働者への適用をイメージしがちですが、男性労働者も対象となる点に留意しましょう。

「育児時短就業給付」の支給要件は、以下の通りとなる予定です。労働日数や労働時間に関する要件は設けられない方向で調整されています(2024年8月時点)。

① 2歳未満の子どもを育てる時短勤務者であること
② 時短勤務の開始日より前の2年間に、みなし雇用保険被保険期間が12カ月以上あること

※「みなし被保険者期間」とは、育児時短就業を開始した日を被保険者でなくなった日とみなして 計算される被保険者期間に相当する期間を指します。

<時短勤務に伴う賃金額によっては支給調整あり>

「育児時短就業給付」の給付額は、原則として「時短勤務中の各月に支払われた賃金の10%」です。ただし、賃金と給付額の合計が時短勤務前の賃金額を超えないように、一定の賃金額を超えた場合には給付率を逓減させる仕組みが導入されます。

<時短勤務促進の一方で、マミートラック回避への対応が必須>

育児期にある労働者の時短勤務を促進する「育児時短就業給付」ですが、本制度の各現場への導入に際しては、併せて「マミートラック問題」への対応を検討する必要がありそうです。

「マミートラック」とは、育児期の女性労働者の仕事と子育ての両立のために創設されたアメリカ発祥のキャリアパスのこと。両立支援の観点では有意義である一方、マミートラックに乗ったばかりに本人の希望に反して昇進・昇格コースから外れてしまうこと、これに伴うモチベーション低下等の課題が浮き彫りとなり、近年ではすっかりネガティブなキーワードとして定着しています。

このたび新設された「育児時短就業給付」についても「時短勤務の固定化・長期化につながるのではないか」との見方がありますが、制度上、給付対象となる子の年齢を「2歳未満」に限定することで懸念の払拭が図られています。

「出生後休業支援給付」「育児時短就業給付」の活用と併せて考えるべき、「その他の労働者への配慮」

今回紹介した「出生後休業支援給付」「育児時短就業給付」の導入により、今後、男性労働者の育児休業取得、育児期の労働者の時短勤務の活用はますます広がっていくものと思われます。

ますます深刻化する少子化、これに伴う働き手不足に鑑みれば、「育児期の労働者がキャリアを諦めることなく働き続けることのできる制度の構築」はまさに理想的と言えます。ところが、一方で「育児期にない労働者への配慮」を欠かすことはできません。

特に中小企業では、一人の欠員により、周囲の従労働者に大きなしわ寄せが生じることも珍しくありません。育児期にない労働者にしてみれば、「育休取得者や時短勤務者への給付だけが手厚くなって、周囲の労働者の負担ばかりが増えるのは納得いかない」というのは当然の意見でしょう。

そこで企業が注目すべきは、2024年1月に新設された「両立支援等助成金 育休中等業務代替支援コース」です。

本助成金は、「育児休業取得者や育児のための短時間勤務制度利用者の業務を代替する周囲の労働者への手当支給等の取組」「育児休業取得者の代替要員の新規雇用」を行った場合に支給されます。 改正雇用保険の施行は、企業実務に様々な影響を及ぼす大改正です。前回紹介した10施策と、今回解説した「出生後休業支援給付」「育児時短就業給付」について十分に理解を深め、対応準備を進めましょう。

参考:東京労働局「育休中等業務代替支援コース」

参考:こども家庭庁「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律案の概要」

仕事と育児の両立支援拡大~2025年4月新設「出生後休業支援給付」「育児時短就業給付」について解説
社会保険労務士、東京新宿の社労士事務所 HM人事労務コンサルティング代表/小さな会社のパートナーとして、労働・社会保険関係手続きや就業規則作成、労務相談、トラブル対応等に日々尽力。女性社労士ならではのきめ細やかかつ丁寧な対応で、現場の「困った!」へのスムーズな解決を実現する。
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