目次
- 設立当初の仕事は、日用品や玩具などのプラスチック成型加工が主体 1978年のタイミングプーリーとの出会いが転機に
- ベルトメーカーごとに違う歯形に対応する必要があり、少量でも手間を惜しまず、高い加工精度を実現
- 「つぶさんように何とかせんといけん」の一心で危機を乗り切る 不織布製造機械向け、更に工作機械や半導体製造装置向けが成長
- プーリーに特化し、高度な技能を持つ現場技術者の多能工化・高度検査設備導入とICT化で高品質・短納期に磨き
- 販売管理ソフトで請求書業務を大幅に簡素化、加工データのデジタル保存でリピート受注の作業時間を半減
- 生産管理システムとデジタルサイネージで受注・作業進捗情報を全社員が共有化 社内のコミュニケーションが良くなった
- 一連のICT化で生産性は2倍に、コロナで傷ついた収益の改善に寄与
- 3次元測定器や真円度測定器、投影機の高性能検査装置導入により現品さえあれば「図面なしでもOK!」、欠品伝動部品の製造や短納期修理サービスも
- 新たに「シャフト一体型プーリー」と「ブッシングプーリー」も販売し新規需要開拓、ECサイトも開設へ
- 子育て中の主婦も働ける「わくわくする職場」で、「社員が幸せなら自然と会社も大きくなる」
岡山県南西部の自然豊かな町・井原市に、工作機械などの産業用機械に欠かせない動力伝動部品であるタイミングプーリーを主力に、約半世紀にわたって歯車の製造技術に磨きをかけてきたモノづくり企業がある。ICTを駆使して多品種少量でも短納期で高品質な歯車製造を実現している株式会社昭和工業所だ。「社員の幸せが会社の発展を生む」と語る葛間立人代表取締役は、「ICTを活用して生産性は5年前の約2倍に向上したと思う。今後は新製品・新事業と営業強化をてこにコロナ禍で疲弊した売上を伸ばし、社員と会社の幸せにつなげていきたい」と未来を見つめる。(写真TOP 確かな技術力を支えるタイミングプーリーの製造現場)
設立当初の仕事は、日用品や玩具などのプラスチック成型加工が主体 1978年のタイミングプーリーとの出会いが転機に
昭和工業所は1968年10月、葛間立人社長の祖父・志久一氏が経営していた三菱自動車水島製作所の下請け部品会社が三菱との契約が終了したのを機に移転したため、その工場を利用して、大学卒業直後の父・文雄氏が金属加工会社として設立した。
文雄氏は金属加工の成長性を読んでいたが、設立当初の仕事の多くは洗濯ばさみなどの日用品や玩具の鉄砲などのプラスチック成型加工だった。それも石油ショックで単価が合わなくなり、金属加工を細々と手がけていた。
最初の転機は、1978年に受けた歯車製造会社からのタイミングプーリーに歯をつける前工程までの加工依頼だ。自動車をはじめ機械の伝動パーツとして歯のついたベルト(タイミングベルト)を専用の歯車(タイミングプーリー)で回転させ、エンジンやモーターの動力を伝える動力伝動方式が普及し始めた頃のことだった。
ベルトメーカーごとに違う歯形に対応する必要があり、少量でも手間を惜しまず、高い加工精度を実現
「この受注を機に、タイミングベルト大手の三ツ星ベルトに電話で営業したら受注が決まり、製造ノウハウも懇切丁寧に教えてもらったようです」(葛間社長)。最初はプーリーに歯車状の歯をつける工程は外注に出していたが、「自社で歯も切った方が良い」との三ツ星ベルトの提案を受けて、1981年6月から全工程を内製化した。
「動力源と直結するタイミングプーリーは機械の重要部品。高い加工精度が求められる上、多くのベルトメーカーごとに違う歯形に対応する必要がありました。このため、まだ需要がそれほど大きくない中で加工が面倒で手間がかかるため、既存の歯車屋さんはあまり手を出したがらなかったようです」。葛間社長は、自身が入社する前の昭和工業所の歴史の一端を説明してくれた。
1987年にはブリヂストンからタイミングプーリーを受注。当時は日米自動車・同部品の貿易摩擦に対応してブリヂストンが米国から大量に輸入したタイミングベルトを保管・管理する物流業務も受託し、売上を伸ばした。葛間社長は大学卒業後、ブリヂストンの工業用品部門での6年間の修業を経て、2000年4月に昭和工業所に入社した。
「つぶさんように何とかせんといけん」の一心で危機を乗り切る 不織布製造機械向け、更に工作機械や半導体製造装置向けが成長
「私が入社3年目の時、ブリヂストンが自社倉庫を持つことになり、物流倉庫事業がなくなりました。物流倉庫は主力のタイミングプーリーをしのぐ売上規模で経営的には大打撃だったが、プーリー製造に特化する道を選択。私も外で製造技術を学び、技能を習得しました。とにかく『つぶさんように何とかせんといけん』の一心でした」。葛間社長は厳しい時代を笑顔で振り返る。これが2回目の転機、しかも大転換期だった。
ところが、2000年代は紙オムツや生理用品向けに不織布の需要が急成長。不織布製造機械向けのタイミングプーリーの受注が大幅に増えて、売上が伸びた。その後、工作機械や半導体製造装置向けが伸びて、タイミングプーリーに特化した経営が軌道に乗り始めた。
プーリーに特化し、高度な技能を持つ現場技術者の多能工化・高度検査設備導入とICT化で高品質・短納期に磨き
葛間社長が社長に就任した2018年4月以降は、多品種少量生産や一品対応、高品質・高精度で短納期という同社の強みに一段と磨きをかけ、プーリー特化型経営を進化させてきた。高度な技能を持つ現場技術者が複数の工作機械を操る多能工化や、2007年から始めた機械メーカーとの直接取引を機に導入した高性能検査装置のフル活用とともに、2000年代初めから取り組み始めたICT化が業務の効率化や生産性向上に大きな役割を果たした。
販売管理ソフトで請求書業務を大幅に簡素化、加工データのデジタル保存でリピート受注の作業時間を半減
最初に導入したのは、販売管理・仕入・在庫管理ソフトで2003年のことだった。「それまではエクセルで請求書を出していた。手書きの納品書を集計して請求書を作成し、プリントアウトするのは大変な作業だった。簡単に請求書を出せるようにしたかったし、リピート受注の過去データの取り出しや材料管理をデジタル化したかった」(葛間社長)
少量多品種で単品モノの受注が多く、膨大な量になる請求書作成業務が簡素化できたことによって、事務部門の業務効率が大きく改善された。フレキシブルな勤務形態を可能にしたことで子育て中の主婦でも業務をこなせるようになり、その後の働き方改革に道を開いた。
文書管理ソフトは、2017年に導入。マシニングセンター(MC:自動工具交換装置を装備した数値制御工作機械)の加工データをスキャナーで読み取ってデジタル保存し、リピート受注などの際には検索してプログラムを呼び出し、すぐに加工作業に入れるようにした。「リピート受注への効率化効果は大きく、導入前に比べて加工時間は半分くらいになっている」(葛間社長)というから、リピート受注の生産性は2倍に高まったことになる。
生産管理システムとデジタルサイネージで受注・作業進捗情報を全社員が共有化 社内のコミュニケーションが良くなった
2019年春にはクラウド生産管理システムを導入。受注から納期調整、出荷までを工場で一括管理し、現場社員で情報を共有できるようにした。同時に受注情報や作業進捗状況、作業計画を表示するサイネージを工場に設置。朝礼の時に、納期別に色分けした発注一覧をデジタルサイネージに表示、その日の仕事は横に置いてあるホワイトボードに書き出し、現場社員全員で情報を共有した上で、意見交換している。
葛間社長は、「情報の共有化が進んだことによって社内が変わってきた」という。「従来納期管理は私一人でやっていたが、今は現場のみんながわかっているのでだいたい任せられるし、社内のコミュニケーションも良くなったと思う」と笑顔で話す。
一連のICT化で生産性は2倍に、コロナで傷ついた収益の改善に寄与
従来は紙の発注書をもとに納期調整から出荷までを一人の社員が管理していた。その人が休むと納期調整や出荷のことは誰にも分からない状態だったが、今はデジタルでデータを共有しているから誰でも情報を取り出せる。
こうした一連のICT化によって、リピート受注品はもとより、「工場全体の生産性も、現場にICTを導入し始めた5年前に比べて約2倍に高まっている」と葛間社長は見ている。2020年春からのコロナ禍では、同社も大きな影響を受け売上高が大幅に減少した。2024年もコロナ前の水準には戻っていないが、収益で「収支トントン」にとどまっているのは、ICT化による事務部門の業務効率化と生産性の大幅改善が寄与したといえる。
3次元測定器や真円度測定器、投影機の高性能検査装置導入により現品さえあれば「図面なしでもOK!」、欠品伝動部品の製造や短納期修理サービスも
「受注減の中でも生産性は向上しているため、工場には余力がある。受注を増やすために営業を強化しているところです」。葛間社長は、コロナ前を超える売上増への取り組みに力を入れている。2023年からは、タイミングプーリーなど伝動部品の短納期修理サービスを始めた。同社は3次元測定器や真円度測定器、投影機の高性能検査装置を活用して、現品さえあれば図面がなくても全く同じ機械部品を製造している。修理サービスはこのノウハウを生かして、交換部品がないのでつくってほしいというニーズに応えるもので、3日~2週間後に返送するサービス。「これを機に新規取引につながることを期待している」(葛間社長)。
新たに「シャフト一体型プーリー」と「ブッシングプーリー」も販売し新規需要開拓、ECサイトも開設へ
新製品の売り込みにも力を入れる。プーリーとシャフトを一体加工するシャフト一体型プーリーと、シャフトをロックする機構を持つブッシングプーリーだ。シャフト一体型プーリーは、一つの金属材料から研削加工によってつくり出すため、その分部品点数は減るが、高い精度での一体加工には高度な技術が求められる。昭和工業所の高い技術力のなせる技だ。
ブッシングプーリーは、岡山大学と共同開発してきた。プーリーとシャフトを簡単に固定する機構を備えたプーリーで、双方を固定する回り止め加工が不要になる。シャフトメーカーによって固定する際の許容トルクが異なる問題を共同研究で解決し、自前で提案できるようになったという。
今後のICT化では、自前のECサイト開設とホームページを刷新する準備を進めている。プーリーのような部品類も最近はインターネットで販売されるケースが増えており、販路拡大を狙う。ホームページの刷新は人材採用と顧客開拓のための情報発信の強化が狙いで、いずれも2024年内の開設を目指し、準備を進めている。
子育て中の主婦も働ける「わくわくする職場」で、「社員が幸せなら自然と会社も大きくなる」
「わくわくするような職場でスキルアップし、社員が幸せでいてくれれば、自然と会社も大きくなります」。葛間社長の経営者としての理念だ。ICTも、社員がわくわくするような職場にするためのツールの一つだ。事務作業を効率化し、主婦でも子育てしながら働けるようにフレキシブルな勤務体系を採用、工場の生産性を高めて有給休暇を取りやすくし、残業もほとんどない職場環境をつくってきた。2024年3月には、日本健康会議が認定する「健康経営優良法人認定」を取得した。「会社はもとより社員の健康が幸せにつながる」(葛間社長)からだ。
毎年の大卒と高卒の新卒求人の会社案内で葛間社長は、「大きい会社も良いけど、小さい会社で幸せを感じながらコツコツやるのも楽しいよ」と語りかけ、「モノづくりの面白さを知ってほしい」と訴えかけている。
企業概要
会社名 | 株式会社昭和工業所 |
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住所 | 岡山県井原市東江原町3039 |
HP | https://www.showapulley.co.jp/ |
電話 | 0866-63-0330 |
設立 | 1968年10月 |
従業員数 | 12人 |
事業内容 | 産業機械のモーターに取り付ける伝動装置のタイミングプーリーや歯車の製造・販売、伝動部品の短納期修理サービスなど |