株式会社トーホー(以下、「トーホー」)は、外食事業者への食材卸売をコア事業とする「業務用」食品卸売業界の最大手である。1947年佐賀県にて食品卸売業者として創業した。

『食を通して社会に貢献する』という経営理念のもと、現在は神戸市に本社を構え、主要事業は業務用食品卸売(ディストリビューター)、業務用食品現金卸売(キャッシュアンドキャリー)、食品スーパー(トーホーストア)事業の3事業となっている。グループ企業30社を抱え、売上高約2,000億円、従業員約4,400人(いずれも連結)の規模へと成長を遂げている。

トーホーは、現代表取締役の上野裕一氏が2007年に就任してから7年半、成長戦略の核として16件・19社のM&A、2社のアライアンスを実行してきた。トーホーは同業界では珍しくオーナー系企業ではない。むしろ社外役員が過半数を占め、オープンかつ強固なガバナンス体制を構築し、上野社長のリーダーシップのもと、多くのM&Aをスピーディーに決断・実行してきた。そのバックボーンは、強靭なリーダーシップのもとに明確化した「戦略」であり、それを実行したうえで得た「結果」であると言える。

1.コア事業強化(関東地区の地域強化)

トーホーのM&Aによる成長戦略
(画像=George Rudy/Shutterstock.com)

株式会社昭和食品のケース

昭和食品は、トーホー設立とほぼ同時期の1949年に栃木県で海産物珍味卸売業として創業した。その後宇都宮市を中心に営業基盤を築き、年商100億円を突破する、業界では北関東No.1の企業へと成長した。しかし、中長期的な展望では、さらにスピーディーに規模を拡大することが生き残りの条件であると考えていた。選択肢は2つであり、リスクを覚悟で規模拡大のための大型投資を実行するか、あるいは理念を共有できる企業とのアライアンスを模索するかだ。平成21年、トーホーとのトップ面談等を経て、上野社長の理念、トーホーの企業風土を理解したうえで、同社のグループ企業化を決断・実行された。

株式会社カワサキのケース

カワサキは、1969年に外食向け食品卸売として水戸にて創業し、同市を中心に営業基盤を固めてきた。業務用食品卸売・業務スーパー事業を展開、売上は約25億円であった。水戸周辺は業務用食品卸売業間で競争の激しい地域で、利益率も年々低下傾向にあり、悩んだ末、2009年に業務用食品卸事業の売却を決断された。業務スーパーを残したうえでの事業譲渡のスキームだ。

両社ともに業績堅調な優良企業であったが、オーナーは後継者問題、業界の「先行き不安」を抱えており、積極的な投資ををためらいがちな経営状況であったため、M&Aという選択に至った。その後に襲った東日本大震災で少なからぬ影響を受けたが、トーホーの全面的バックアップもあり回復し、現在では、親会社はもとより近隣のグループ企業とも連携を密にし、以前より増して実績を挙げる結果となっている。

トーホーは、西日本を地盤とする業界トップ企業であるが、この2社のM&Aで一気に北関東で大きなシェアを持つこととなり、M&Aの効果をまざまざと見せつける結果となった。業界内でのインパクトも大きく、再編気運を高めた。またトーホーは約7年間で、M&Aを活用して関東地区に売上高を350億円超積み上げた。これはトーホーの売上全体の約17%を占めている。

トーホーのM&Aによる成長戦略
(画像=Futureより)

2.コア事業の補完(建築業者のM&A)

「コア事業強化」と並び、「コア事業の補完」はトーホーのM&A戦略の重点領域だ。「外食ビジネスをトータルにサポートする」というコンセプトの元、外食事業者の事業所建設・店舗改築ニーズに応えるべく、過去3社、建設業者をグループ化している。

株式会社日建M&Aのケース

日建は、1970年創業の、カラオケや外食店などの店舗内装設計・施工業者である。日建は埼玉に本社を構え、関東一円に事業基盤を広げ、長年にわたり堅調に事業を展開してきたが、後継者問題で会社の売却を検討していた。トーホーのコア事業の補完というニーズと、日建オーナーの後継者問題解決ニーズが合致し、2014年7月、トーホーは日建をグループ企業として迎え入れた。

以上のように、トーホーのM&A戦略は、コア事業の強化及びコア事業の補完という2つの領域に集中して投資するというものだが、同時に、重点強化地域への怒涛の進出という「地域戦略」をも兼ねている。コア事業で地域を押さえ、周辺ビジネスで地域の事業基盤を堅固なものにしていくという戦略だ。関東地域においては、M&Aを加速させることは明らかだが、次に狙うのはどの地域か?トーホーの次の一手が楽しみである。

金子義典(企業戦略部 副部長 株式会社日本M&Aセンター)

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