2024年8月
執行役員 上野雅史
主任研究員 武田浩二
政府は6月21日の経済財政諮問会議(議長・岸田文雄首相)において、「経済財政運営と改革の基本方針2024(以下、骨太方針2024)」を閣議決定した。骨太の方針は与党政権が重要課題や翌年度予算編成の方向性を示す方針で、政権の目玉となる政策が盛り込まれ、ここに取り上げられた産業や分野は中長期的な成長が見込まれることから、注目度は非常に高い。
これまでの骨太の方針をみても、2021年に初めて「フェムテックの推進」という文言が盛り込まれ、国としてフェムテックの推進に取り組む方針が打ち出されたことから、フェムケア&フェムテック(消費財・サービス)市場規模の伸びは、2021年は2020年の対前年比103.5%から4.0ポイント増加となる107.5%と拡大した。まさに骨太の方針が市場拡大を後押した形である。
フェムケア&フェムテック(消費財・サービス)市場規模推移
このように骨太の方針の中には、今後、大きな可能性を秘めた市場が存在しており、企業活動をする上でその市場の特定が重要となる。そこで「骨太の方針 2024」における注目分野または成長が予想される分野と取り組みについてまとめた。
まず注目または成長が予想される分野としては、①デジタルトランスフォーメーション(DX)②AI・半導体③グリーン技術 (GX)・エネルギー安全保障④フロンティア技術のほか、⑤医療・介護⑥教育⑦交通・物流-といったデジタルトランスフォーメーション関連に加え、新技術の社会実装を担う⑧スタートアップの支援-が挙げられる。各分野における取組は下記の通りである。
1) デジタルトランスフォーメーション(DX)
「デジタル行財政改革取りまとめ2024」の下、デジタル技術を活用し、公的なデータ基盤の構築や地方公共団体と民間企業、企業間や業種間のデータ共有など新たなデジタル技術の社会実装、防災対策や観光産業におけるデジタル化を推進するためのローカル5Gネットワーク、ICT、ブロックチェーンなどのデジタル技術の使用促進、自治体向けソリューションの普及の活性化などが見込まれる。
2) AI・半導体
「統合イノベーション戦略2024」に基づき、官民連携の下、大規模かつ計画的な量産投資や研究開発支援等の重点的投資支援が見込まれ、次世代デュアルユースや次世代有機デバイスといった次世代半導体技術の開発および量産に向けたインフラの構築に対する投資支援や人材育成が活発化することが見込まれる。
3) グリーン技術 (GX)・エネルギー安全保障
2050年カーボンニュートラルの実現、2030年度の温室効果ガス46%削減(2013年度比)という目標を踏まえ、官民協調による10年間で150兆円超のGX関連投資を推進しつつ、2024年度中を目途に、「GX国家戦略」を策定するとともに、「エネルギー基本計画」及び「地球温暖化対策計画」が改定される。これらの施策により、省エネ設備投資の支援、革新的な技術開発よる再生可能エネルギーの導入にむけた研究開発体制の整備と人材育成やサプライチェーンの構築、再生材利用拡大と製品の効率的利用に対する支援、トランジション・ファイナンスやグリーン・ファイナンスの促進するための整備環境が活発化することが見込まれる。
4) フロンティア技術
宇宙、海洋、新たな産業の芽となるフュージョンエネルギーや量子、バイオ、次世代通信(Beyond 5G/6G)、健康・医療の7つの技術について、分野を跨いだ技術の融合による研究開発、産業化、人材育成を俯瞰的な視点で強力に推進するとともに、グローバルな視点での連携を強化することで市場創出が目指されることから、先端技術の実装に向けた技術開発支援、人材の育成や確保、長期的視点での戦略的な投資が活発化することが見込まれる。
5) 医療・介護DX
電子カルテの導入と標準化、マイナ保険証の普及、電子処方箋、AIホスピタル、介護DX、PHR(Personal Health Record)、予防接種データベースの整備・普及を強力に進めることで、高齢者人口の更なる増加と人口減少に対応すべく、医療データを活用した医療のイノベーションの促進のための支援、ロボット・デジタル技術やICT・オンライン診療の使用促進、電子カルテ情報の標準化と電子カルテの導入促進、PHRの整備・普及が活発化することが見込まれる。
6) 教育DX
こどもたちの学びの更なる充実と教職員の負担軽減に向け、GIGAスクール構想を中心に、クラウド環境と生成AIの活用、デジタル教科書と学習ソフト、教育データの収集・分析・利活用、校務DX、ICT支援員の派遣と伴走支援などにより、教育DXが加速することで、通信ネットワークの改善、クラウド環境・生成AIの普及、教育データの収集・分析・利活用、教員の働きやすさと教育活動の高度化、デジタル教科書等の学習ソフトの活用促進など、ハード・ソフト両面に対する取り組みが活発化することが見込まれる。
7) 交通・物流DX
交通分野では「デジタルライフライン全国総合整備計画」に基づき、自動運転車優先レーンを含む自動運転サービス支援道、ドローン航路等の社会実装が加速する。また物流分野では効率化に向けた自動運転トラック、自動配送ロボット、手続電子化などが推進されることから、MaaS(Mobility as a Service)、AIオンデマンド交通、配車アプリとキャッシュレス決済などの使用促進、空飛ぶクルマの制度整備、ETC専用化と柔軟な料金体系への転換が図られる。また物流の自動化技術、デジタルタコグラフとドライバー管理システムへの取り組みの活発化、スマート物流プラットフォームの構築への取り組みが見込まれる。
8) スタートアップ支援
イノベーション・エコシステムのハブとなる「グローバル・スタートアップ・キャンパス(GSC)構想」の推進の下、海外から優秀な研究者、起業家、投資家を招聘するとともに、フラッグシップ拠点での成果や先進的運営方法を全国に展開や世界と連携が推進される。またAI、IoT、ブロックチェーン、ロボティクスなどの先進技術を活用したスタートアップ企業への支援が活発化する。具体的には、医療・ヘルステック、グリーンテック、フードテック、フィンテック、エドテックといったテック市場を中心に、若手人材の発掘・育成、女性起業家の支援、アントレプレナーシップ教育の充実、起業家の海外派遣等など、スタートップの支援に取り組まれる。
各分野における取組とそれに伴い活性化する市場は以上の通りである。そして次に新たな市場機会を発見するためのアプローチとして重要となるのが、当該市場の環境や潮流、参入プレーヤー、市場規模などの把握である。ただし、実態を把握するには市場調査が不可欠となるが、コストや期間など考慮すると実施するにはハードルが高い。そこで有効なツールの一つとして挙げられるのが調査レポートの活用である。弊社でも「デジタルトランスフォーメーション(DX)」、「AI・半導体」、「グリーン技術 (GX)・エネルギー安全保障」、「フロンティア技術」、「医療・介護DX」、「教育DX」、「交通・物流DX」、「スタートアップの支援」などの調査レポートのラインナップがある。これらの当該調査レポートを活用し、貴社が想定する市場について、市場の規模や動向の把握、そしてその情報を元に分析を行い、経営戦略の策定、新事業の立ち上げ、新製品開発立案を行ってはいかがだろうか。