この記事は2024年8月1日に「テレ東BIZ」で公開された「プライベートブランドで躍進! 食品スーパー売り上げ日本一:読んで分かる「カンブリア宮殿」」を一部編集し、転載したものです。
1低価格、2高級品、3健康志向~3つのPB商品で大躍進
材料と調味料がセットになった料理キット「八百屋さんのミールキット(プルコギ)」(1,058円)はカット済みの材料に付属の調味料を合わせて炒めるだけ。わずかな時間で本格的なプルコギが完成する。調理を「時短」できると人気の商品だ。食品スーパーのライフがメーカーと共同で開発したオリジナル商品だ。
食品スーパー業界は、原材料の高騰によるコスト高の影響で苦境に陥っている企業が多い。2022年度は7割近い食品スーパーが減益や赤字に苦しんだ。
そんな中で気を吐いているのが、首都圏と近畿で310店舗を展開するライフコーポレーションだ。
業績は好調で売り上げは8,000億円を越え、「イオン」や「イトーヨーカドー」といった総合スーパーを除く食品スーパーでは、日本一の売り上げを誇る。
東京・世田谷区の桜新町店をのぞいてみると、まず目に飛び込んでくるのが色とりどりの野菜売り場。
▽東京・世田谷区の桜新町店、まず目に飛び込んでくるのが色とりどりの野菜売り場
続いて1匹単位で買える鮮魚コーナーだ。総菜売り場は400種類以上の品揃えで、そのほとんどを店内の厨房で作っている。「だし巻き付きの焼き鳥弁当」(753円)は年間3億円を売り上げる。
客を最も惹きつけているのが独自のプライベートブランドだ。
その一つが定番商品をお手頃価格で買える「スマイルライフ」。国産大豆の納豆が3パックで106円。カレールーは128円、1リットルの牛乳は213円だ。
素材や製法にこだわった高級プライベートブランドが「ライフプレミアム」。価格はやや高めだが、高級スーパーに負けない品質が特徴だ。一番人気は「はちみつヨーグルト(400g)」(213円)。信州産の生乳のみを使って作られた濃厚な味わいが特徴だ。
そして特に売り上げを伸ばしているプライベートブランドが「ビオラル」。オーガニックや自然由来の原材料にこだわり、コロナ禍以降の健康志向の高まりで人気を集めている。
▽「ビオラル」コロナ禍以降の健康志向の高まりで人気を集めている
植物由来の原料で作った「有機アガベシロップ」(591円)は、血糖値の急激な上昇を抑える今話題の「低GI食品」。生乳に近い味わいが特徴の「低温殺菌牛乳1,000ml」(355円)も人気商品だ。
ライフの大きな強みが、素材や価格、コンセプトが異なる3つのプライベートブランドにある。社長・岩崎高治(58)は、「ライフにしかない商品があるから、ライフにしかないサービスがあるからライフに行く。ライフのファンになってもらうというビジネスモデルができると、本当に強いなと思うし、それを目指しています」と語る。
ファンを増やす商品戦略&店舗ごとに品揃えを変える
ライフファンを増やす商品戦略1~こだわりを徹底した商品開発
東京・品川区の本社で行われていた「ビオラル」の新商品開発会議。首都圏と近畿、それぞれの開発担当者たちが責任者にプレゼンを行う。最もこだわるのは「おいしさ」だ。
▽東京・品川区の本社で行われていた「ビオラル」の新商品開発会議
健康志向のPB「ビオラル」の新商品候補は、植物性の原材料だけで作った体にやさしい即席ラーメン。ポイントは常温保存でも日持ちする麺だという。だが、開発責任者の首都圏食品日配部部長・関口昌久は納得いかない様子だ。肝心の麺の味に不満があるようだ。開発はやり直し。1つの商品に半年以上、長くて1年かけることもある。
「『ビオラル』はすごく力をいれていますし、自分も妥協したくない」(関口)
こうして何度も試食を重ねた商品が、最後に役員や各部門のトップへのプレゼンにたどり着く。この日、最終試食で商品化が決定したのは「ビオラル」の冷凍スープ。「ビオラル」商品の沖縄の塩と低温殺菌牛乳を使っているのが特徴だ。
「了承してもらい安心しました。お客様に届けてなんぼなので、ここから発売に向けて動いていきたいと思います」(首都圏食品日配部バイヤー・上野公寛)
ライフファンを増やす商品戦略2~生産者を自らの足と舌で探す
有機野菜のコーナーでは、農薬や化学肥料を極力使わず栽培された野菜の売り上げが、ここ数年で10倍以上も伸びているという。仕入れを担当している首都圏農産部バイヤーの佐野浩二は、これまで有機野菜を使った料理キットや下茹で野菜をヒットさせているスゴ腕だ。
この日、佐野が足を運んだのは千葉・香取市の「加瀬農園」。個別に農家を回り、本当に優れた品質の野菜を自らの足で探し出しているのだ。もちろん、野菜はすべて自分の舌で確認する。自ら足を運ぶ狙いは、生産者と関係性を築くことにある。
「生産者の思いを販売側はしっかりとくみ取った上でお客様に伝える。それが私たちの使命だと思っています」(佐野)
信頼関係を築くことで、優れた野菜をライフに優先的に卸してもらっている。例えば愛知の農園が生産している「めぐりとまと(190g)」(429円)は、凝縮された甘みに酸味がほどよく合わさった品種で、ライフの人気商品だ。「京都産はんなりレタス」(257円)は老化防止に効果があるとされる抗酸化値が高い品種で、都内ではめったに出回らない。
ライフファンを増やす商品戦略3~小型店に出来たて弁当作戦
都内にある弁当専用の製造ライン「サテライトキッチン」。一般的なセントラルキッチンに比べると規模はだいぶ小さめだが、ポイントは店舗との距離にある。十分な調理スペースがない小型店の間に設置することで、配送時間をかけずに出来たてを提供できる。
「ここだけでいうと赤字の事業ですが、出来たての総菜、弁当があるおかげでライフのお店の支持が高まる。差別化ができているということかなと思います」(岩崎)
たとえ赤字でも、他社にはない商品のクオリティで結果的に集客に繋がると考えているのだ。
また、ライフは客のニーズに合わせて店ごとに品揃えを変えている。その鍵を握るのが、独自に収集した購買データ。客一人一人の買い物の傾向を9つに分類している。
例えば埼玉・所沢市のソコラ所沢店は「買い回り(安さ)を意識されているお客様と、素材手作りを意識されているお客様の、この2つの特性がありました」(店長・清水康夫)。安さにこだわる「買い回り」と素材や鮮度にこだわる「素材手作り」という2つの客層が多い傾向だった。
そこで「買い回り」の客層へは低価格帯の「スマイルライフ」だけを集めた商品棚を設置。そして、「素材手作り」の客層へは地元で採れた野菜コーナーを充実させた。
一方、とある都心の店舗では、すぐに食べられる「即食」や「品質重視」の客層が多い傾向にある。そこで「即食」へは総菜や料理キットなどの品揃えを充実させ、「品質重視」へは「ライフプレミアム」など高価格帯の商品を増やしている。こうした店ごとの品揃えで客のニーズに応えているのだ。
三菱商事出身の社長が改革~トップダウンから現場主義に
ライフを日本有数の食品スーパーに築き上げた創業者の清水信次。その第一歩は、戦後間もない大阪の闇市で始めた食料品の卸売業だった。
1961年、大阪・豊中市にライフ1号店を出店し、食品スーパー業に進出。その後、首都圏にも出店し、同業のそうそうたるカリスマ創業者たちと切磋琢磨しながら、日本のスーパーの礎を築いた。
「(創業者の清水は)豪快だけど面白くて繊細なところもある。お茶目ですし勉強もすごくしていました。本を読んでいるし、人に会って話を聞いている。ゆえに先見性がある」(岩崎)
一方、スポーツ少年として育った岩崎は、中学からバスケットボールに熱中し、慶応義塾大学では体育会の中心選手として活躍した。
卒業後は三菱商事へ入社。配属されたのは食品部門だった。当時、輸入自由化が始まる直前だったオレンジ果汁を海外から買い付ける業務を担当。入社5年目にはイギリスの食品メーカーへ出向を命じられ、海外勤務を経験する。
そんな中、ライフの名物社長だった清水が現地の小売業を視察にやってきた。これが大きな転機となる。食品業界に精通していた岩崎が案内役を任されたのだ。
▽ライフの名物社長だった清水さんの視察の案内役を任された岩崎さん
「ワンマン社長ですごく怖い人だよと聞いていたので、さぞかしそういう人だろうと思ったのですが、無理難題を言わないし、すごく気を使われる方だと思いました」(岩崎)
案内したのは3日間だけだったが、岩崎を気に入った清水。本人の知らぬところで引き抜き交渉が行われた。清水の熱意に三菱商事は折れ、1999年、岩崎はライフへ出向することになった。
「最初に三菱商事に入って原料の仕事、『川上の仕事』をやったんです。次に『プリンセス社』(イギリス)に行って食品メーカーであり小売業に物を卸す『川中の仕事』をした。今度は小売業で『川下の仕事』をしたら、一気通貫で物事がわかるようになるから、自分にとっても面白そうだと」(岩崎)
岩崎は首都圏の店舗を統括するストア本部長に就任した。
ある日、新店オープン前の視察で思わぬ出来事に遭遇する。傘立ての位置が気になっているという従業員に対して、岩崎が「移動したらいい」と指摘すると、「傘立ての場所すら現場で決められない」というのだ。
当時、ライフは社を挙げて出店攻勢をかけていた。効率を重視するあまり、現場には権限が与えられず、本部が作ったマニュアル通りの店づくりしか許されていなかった。
「悪い言い方をすると、金太郎飴みたいなお店。だけど、本部の人たちがそのお店に毎日いるかというと、いないわけです。現場は現場が決めればいいことなんです」(岩崎) そこで岩崎は現場主導の店づくりに変えていく。
例えば東京・豊島区の池袋三丁目店では、単身者が多いことから入口近くに総菜コーナーを配置。野菜コーナーには小分けにした商品を増やした。こうした商品の配置や品揃えは、店長の考えによるものだ。
「言われたことをやるのではなく、自分がやりたいこと、思っていることをしっかり具現化できるのは、店長としてもやりがいを感じる瞬間だと思います」(店長・林良美) 2006年、岩崎は39歳で清水からライフの社長を引き継ぐ。
転機は2017年。特に問題が発生したわけでもないのに利益が減ってしまった。その原因を究明する中であることに気づく。
「スーパーマーケットの仕事は、ある意味で物まね競争みたいなところもあって、隣の店がやっているからといって同じものを売ったり、同じ売り方したり。ただ、それだと生き残れない。ライフらしさを追求していかないとダメだと」(岩崎)
岩崎は、他社を意識するのではなく、ライフの独自性を打ち出していくことを決意する。そのための新たなアイデアを募ろうと社内公募を行ったところ、オーガニックや健康食品に特化した企画案を見つけた。
「挑戦する価値がある」と、ただちに若手社員を中心としたプロジェクトチームを発足させた岩崎。自らもチームをサポートするため、オーガニックアドバイザーの資格を取った。そして誕生したのがプライベートブランド「ビオラル」だ。
これが大当たりし、2024年7月時点で、「ビオラル」の専門店を都内に6店舗出店。
▽プライベートブランド「ビオラル」の専門店を都内に6店舗出店
江東区の「ビオラル」有明ガーデン店では、「ビオラル」商品を使ったランチメニューも提供し、評判はすこぶる上々だという。「ビオラル」関連の売り上げは約70億円。今ではライフを支える大きな柱に成長している。
▽「ビオラル」有明ガーデン店、「ビオラル」商品を使ったランチメニューも提供している
ペットフードにもPB~ライフ流人材育成セミナー
調査によると、ペットを持つ飼い主が最も費用をかけるのがペットフードで、その金額は犬が6万4,392円、猫は5万4,600円になるという(一般社団法人「ペットフード協会」調べ)。
ライフが力を入れているのがオリジナルのペットフード商品。2021年に「ビオラル」のペットフードの販売を始めて以来、品数を増やし、売れ行きも上々だという。
▽ライフが力を入れているのがオリジナルの「ビオラル」ペットフード商品
その一部を作っている鳥取市のメーカー「リバードコーポレーション」。ピューレタイプ(半液体状の加工食品)のペットフードではOEMの生産量が日本一を誇る企業だ。
この日はライフ首都圏生活関連部・柴田勝行ら、ペットフード担当のバイヤーたちが試作品の確認のために訪れていた。自然なだしの風味を活かした新商品を考えていた。試作品を柴田が口へ。人が食べてもおいしく感じることが、商品化への条件だという。
「我々は犬の舌を持つ男たちなので、ワンちゃんの気持ちネコちゃんの気落ちになって、なんとなくわかる感じです」(柴田)
岩崎が2017年から始めた中堅社員向けの経営塾。自らも講師役となり、経営のノウハウなどを教えている。
「もう一度ライフを壊して作り直す。人材育成を通じて、組織風土改革をしたいというのがこの経営塾を始めた目的」だと言う。
この日はレゴを使い、2030年までに目指す社内での自らの未来像を作成。ライフが培ってきたDNAを進化させる人材を育成中だ。
「文化とか風土とかあるので、できるならば、そういうことも分かったうえで、新しいことも取り組む人間が出てくるといいですよね」(岩崎)
※価格は放送時の金額です。
~村上龍の編集後記~
310の店舗があるが、店づくりが違う。店長に委ねられているが、独自に集めた購買データがヒントになっている。健康志向、品質重視、価格にシビア、簡便など、客層を9つに分け、店づくりに利用している。客は、そういった店側の努力に敏感だ。
前社長は、稀代の昭和の商人、清水信次氏、終戦直後、進駐軍の横流し物資を大阪で販売した。そして世襲に頼らず、三菱商事出身の岩崎氏を社長に選んだ。そういう革命的な経営方針が、現代のライフを作っている。ライフコーポレーション=生活における協調性、そのものだ。
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<出演者略歴>
岩崎高治(いわさき・たかはる)
1966年、東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、三菱商事入社。1999年、ライフコーポレーションに出向。2006年、取締役社長に就任。
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