近年プライベート・エクイティ・ファンド、とりわけバイアウト・ファンド(以下、ファンド)を活用した事業会社による成長戦略実行のケースが多くなってきている。日本の事業会社がファン ドをどのように活用しているのか、ファンドはどのような動きを取っているのか、4つの潮流を以下、順を追って考察していく。

①ファンド、事業会社間の「売り」・「買い」の絶対数の増加
②国内大手企業の欧米ファンドとの付き合いの増加
③「ミッドキャップ(Mid-Cap)」案件への投資の増加
④国内ファンドの海外進出の増加

①ファンド、事業会社間の「売り」・「買い」の絶対数の増加

企業の成長戦略とプライベート・エクイティ・ファンドの活用
(画像=ITTIGallery/Shutterstock.com)

近年のファンドの投資案件数を見ると堅調に増加している。また、事業会社への株式売却によるエグジット件数は、2010年の16件から2013年には43件と、大幅に増加している。2013年の株式公開によるエグジットが3件、別のファンドへの売却によるエグジット(セカンダリーバイアウト)が12件であるので、事業会社への売却によるエグジットは最も多い選択肢になっている。これは、M&Aにおいてファンドが特別な存在ではなく役割が認められ定着したこと、そして事業会社側もファンドをうまく活用し、自社の事業再構成や成長に役立てられるようになってきたことが要因といえる。

企業の成長戦略とプライベート・エクイティ・ファンドの活用
(画像=Futureより)

②国内大手企業の欧米ファンドとの付き合いの増加 

パナソニックが子会社のパナソニックヘルスケアをコールバーグ・クラビス・ロバーツに売却する例にみられるように、直接的に事業会社・競合会社に株式を保有されるのではなく、事業会社の自主独立の戦略の中で、大口スポンサーとして欧米の巨大ファンドの果たす役割が高まっている。他方、事業会社が欧米のファンドから投資先企業を買収する事例もみられる。

サントリーはブラックストーン・グループなどのファンドからオランジーナ・シュウェップスグループを買収した。このような日本企業が海外ファンドから投資先企業を買収するケースはほぼ毎月のように見られる。国内市場の成長余力が見込めない中、グローバル展開を積極的に進める必要のある日本の大企業にとって、海外ファンドの投資先企業は「買収確度の高い案件」である。

欧米ファンドによるターンアラウンドを経た企業は、グローバルスターンダードに照らしても、買収後の財務的・法的なリスク、ガバナンス上の問題が極めて小さいことも、投資対象としての安心感を与える。これらの理由が日本の大企業と欧米ファンドとの付き合いが深まる要因となっている。

③「ミッドキャップ(Mid-Cap)」案件への投資の増加

三起商行等に投資実績を持つ東京海上キャピタル、フードレーベルホールディング等に投資を行っているライジング・ジャパン・エクイティなど、案件規模が数百億円程度までのミッドキャップ企業を中心に投資する中堅ファンドに加え、大型案件を手掛けてきた大手ファンドも、近年はミッドキャップを対象に投資をし始めている。

カーライルの第2号ファンドでは東芝セラミックなど大企業もしくは大企業子会社のスピンアウト案件を中心に投資したが、2013年設立の第3号ファンドではミッドキャップである「おやつカンパニー」に投資を行っている(※1)。

また、ユニゾン・キャピタルは企業価値ベースで数百億円程度の案件をターゲットに新ファンドを設立している(※2)。大手ファンドのこのような動きの背景には、ミッドキャップに投資対象企業が多いことに加え、(1)ファンドの持つノウハウや人材、ネットワークなどを提供することで、投資先企業が大きく成長する可能性があり、ファンドが保有する機能を積極的に活用できること、(2)それによって、企業規模的にもファンドの投資期間中にターンアラウンドを実現できる可能性が高いこと、等が要因として考えられる。

④国内ファンドの海外進出の増加

国内ファンドも東南アジアなど海外に進出し始めている。ACA(Asian Capital Alliance)やポラリス・キャピタル・グループはシンガポール等にアジア拠点を設置、現地に日本人駐在員をおくと同時に、各国でのパートナー企業を開拓しネットワークを広げている。日本政策投資銀行は、日本企業のアジアでの事業展開・現地企業との連携を金融面から促進するために、タイ大手財閥CPグループとファンドを設立している。

また、アドバンテッジパートナーズによるポッカコーポレーションへの投資事例にみられるように、ファンドが日本で投資を実施し、投資対象企業の強みに基づいて事業を成長市場であるアジアに展開するために、ファンドの投資育成担当者がアジアを自ら駆け回り、バリューアップを行っている例もある(※3)。

これは、特に先述したミッドキャップ企業は独力で海外進出に乗り出すだけの十分なノウハウや人・資金を持っておらず、それらの経営資源を提供して企業成長を実現させるファンドの機能が奏功するケースが多いからである。

企業の成長戦略とプライベート・エクイティ・ファンドの活用
(画像=Futureより)

今後、ファンドの投資活動はますます活発になると思われる。ファンドは必ずエグジットしなければならないことを考慮すると、事業会社がファンドから企業を買収するケースも増えていくだろう。ファンドというM&Aのプロを相手に有利に交渉を行うためにも、事業シナジーの評価を含め適切なバリュエーションを行うなどのM&Aに関する専門知識やノウハウを企業内部で蓄積していくとともに、外部のコンサルティング会社などを活用することも一案ではなかろうか。

(※1)2014年5月28日付の日本経済新聞によると、株式取得額は200億円前後と報道されている。
(※2)ユニゾン・キャピタルについてはhttp://jp.reuters.com/article/domesticFunds/idJPL4N0MT09D20140401参照。
(※3)例えばポッカコーポレーションはアドバンテッジパートナーズ(以下、AP)の投資後に、海外事業子会社の資本関係の整理などを行い、全社営業利益に占める海外事業の営業利益の比率はAP社投資直後の2007年度の8%から2011年度には33%にまで拡大している。アドバンテッジパートナーズ社ウェブサイトに掲載されている「株式会社ポッカコーポレーションの投資事業例」による。

島田直樹(代表取締役 株式会社ピー・アンド・イー・ディレクションズ)

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