社会医療法人厚生会 中部国際医療センターは、7月4日14時から、プレスセミナー「変わる肺がん治療 患者の新たな選択肢 ~保険適用となった陽子線治療と日進月歩の薬物療法~」を開催した。同セミナーでは、高度な肺がん治療の先進研究に長年携わる同センターの医師 樋田豊明先生が、遺伝子情報に基づく分子標的療法やがん細胞に対する免疫細胞の攻撃を回復させる免疫療法など日進月歩で進化する薬物療法や、今年6月に保険適用となった早期肺がんの陽子線治療など、最新の知見をもとに、肺がん治療の最前線を解説した。
「当院は、世界に通用するハイレベルな医療を提供するという決意のもと、2022年1月に岐阜県美濃加茂市健康のまち一丁目1番地にオープン。地域においても最高水準の医療を提供し、健康づくりの拠点となっている」と、中部国際医療センター 広報担当 マーケティングプロデューサー 坂田一広氏。「33の診療科を持つ総合病院(502床)で、地域がん診療拠点病院として、常に最新・最先端の医療を提供している。今年から陽子線がん治療センターが稼働。世界最新の治療装置である米バリアン社製『Pro Beam360°』を日本初導入した」と、同院の概要および最先端設備の導入などについて紹介した。
次に、「肺がん治療の最前線~進化する薬物療法と陽子線治療~」と題したセミナーを中部国際医療センター 肺がん治療センター長 呼吸器内科部長 樋田豊明先生が行った。「肺がんとは、肺組織と気管、気管支から発生する上皮性の悪性新生物をいう。肺がん発症の機序はいまだに解明されていないが、遺伝子異常の結果として肺がんができる。その原因の一つとして喫煙や大気汚染がある」と解説する。「また、喫煙の他に、大気汚染(PM2.5)が関与し非喫煙者も肺がんに罹患する恐れがあると考えられている」と環境や職業、放射線被ばくなどが原因で肺がんに罹患している人もいると述べていた。「肺がんは、小細胞肺がんと非小細胞肺がんに分けられ、非小細胞肺がんには扁平上皮がんと非扁平上皮がんに分けられ、非扁平上皮がんは腺がんと大細胞がんが存在する」と肺がんの種類について言及。「正常細胞は周囲と接触すると増殖が止まるのに対し、がん細胞は周囲と接触しても増殖が止まらない。そして、周囲の広がりやすい血管などに入り込んで全身に広がる」とのこと。「しかし、肺がんには特徴的な症状はなく、無症状のことが多い。自覚症状がないことが多いため、検診が重要になっていくる」と特徴的な症状がない点が特徴なのだと教えてくれた。「そのため昔は、肺がんは肺真菌症と患者に説明して治療。肺がんに効く薬もなく、カビだと話して治療していた」と語っていた。
「肺がん治療は大きく進歩している。治療は手術、放射線治療、陽子線治療の局所療法と、抗がん剤、分子標的薬、免疫治療薬の全身療法がある」とのこと。「従来の抗がん剤と分子標的薬の違いは、従来の抗がん剤はがん細胞だけでなく、周囲の正常な細胞にも作用する。一方、分子標的薬はがん細胞のみに効果を発揮する。EGFR、ALKなどの遺伝子変異は若年者にも発生する。このような時は分子標的薬が有効となる」と説明する。「非扁平上皮がん治療開始前に、遺伝子結果が有る場合と無い場合の生存率は有る場合の方が高い。このため、肺がんの治療には遺伝子診断が必須となり、がん生検組織が必要。超音波気管支鏡やCTガイド下肺生検で診断する」という。「また、より優しいEUSという消化管からの超音波内視鏡生検検査もある」と教えてくれた。
「分子標的治療に続いて出てきたのが免疫治療。免疫反応の調節メカニズムとして、自分に対する過剰な免疫反応や正常組織への障害を抑えるためのメカニズムが備わっている。がんはこのメカニズムを利用してがんに対する攻撃にブレーキをかけている」とのこと。「がん細胞は、免疫細胞の攻撃を抑制する信号を出し免疫細胞に攻撃をさせないようにしているが、免疫チェックポイント阻害剤はこの信号を遮断して攻撃力を取り戻す」とメカニズムについて解説した。
「生存を伸ばすことが可能な分子標的治療、免疫治療だが、問題点もある。空間的、時間的に腫瘍の不均一性が出現し分子標的薬への耐性がみられるようになる。免疫治療薬では、免疫治療耐性化や、部位による効果の違いが問題となる。また、がん治療にともなう心血管毒性(副作用)もみられる」と指摘する。「治療効果を改善する対策としては、局所治療の併用も必要」と訴える。「少数転移にともなうEGFR肺がんにEGFR阻害薬(分子標的薬)と放射線療法を併用した結果、生存率が上昇した。高リスク無症候性骨転移患者に対する予防的放射線療法と標準治療の比較においても、予防的放射線治療有りの方が生存率が高かった」と説明する。「オリゴ転移の非小細胞肺がん患者に放射線治療を併用する場合と併用しない場合の比較試験においても、放射線治療有りの方が、無増悪生存期間が長かった」と述べていた。「また、放射線療法によって抗腫瘍免疫反応が誘導されることもあり、照射部位から離れた病変が縮小し消失するアブスコパル効果が認められる例もあった」と語っていた。
「副作用を改善する対策の1つとして、陽子線の使用も有効とされる。陽子は水素の原子核で、この陽子を束にして加速したものが陽子線となる。陽子線には、目的の場所に到達した時に、最大のエネルギーを発生して消失するという特性がある」とのこと。「当院では、バリアン社製の最新陽子線治療装置を日本で最初に導入。高線量の陽子線を約4mmのビームで腫瘍の形状や大きさに合わせて照射することができる」と360°さまざまな方向から照射できるという。「陽子線治療の対象となるがんは、肺がんだけにとどまらず多くのがんで対象となる。まずは、手術の困難な早期肺がんが対象となるが、今後の適応の拡大が望まれている」と話す。「副作用の観点から、放射線に比べて陽子線の方が心臓および肺への影響が少ない。手術不能の3期肺がんの陽子線治療成績は良好で、肺臓炎の頻度も低いため、今後は3期肺がんへの陽子線の保険適用拡大も期待される」と述べていた。
「肺がん治療の今後の展開として、免疫反応を高める治療法の開発が進行中だ。今後は、陽子線をうまく利用して生存を長くすることが期待される。また、治療前の精神的ストレス(うつ・不安)は、免疫チェックポイント阻害薬の効果を衰弱する。こうした心理的なサポートも重要なポイントになる。それだけに、肺がん治療センターではチームで一丸となり最適な医療の提供に務めていく」と語っていた。
中部国際医療センター=https://cjimc-hp.jp