消費税の支払いが免除される免税事業者は、多くの経営者にとって魅力的に映るかもしれない。しかし、課税事業者のほうが得なケースもあるため、安易に免税事業者を選ぶ行為はNGだ。免税事業者の要件と合わせて、今後に役立つ消費税の基礎を学んでいこう。
目次

消費税の概要をおさらい!近年の税制改正のポイント
消費税とは、商品・サービスの消費時に公平に課税される税金のこと。税金の中では比較的なじみ深い存在ではあるものの、「消費者が負担し、事業者が納付する」という点がほかの税金とは大きく異なっている。
消費税は1989年から導入された税金であり、その税率や扱い方には徐々に改正が加えられてきた。令和に入ってからもいくつか変更点が加えられているため、まずは近年の消費税改正のポイントを簡単におさらいしていこう。

税率の引き上げや軽減税率については、社会的に広く注目された改正点であったため、多くの経営者は記憶に残っているだろう。特に税率10.0%への引き上げは、仕入れや販売価格に大きな影響を及ぼしたため、対応に追われた経営者も少なくないはずだ。
しかし、その陰に隠れている「適格請求書等保存方式の導入」を見落としてはいけない。詳しくは後述するが、この制度が実施されると免税事業者は大きなダメージを受ける恐れがある。
つまり、免税事業者が必ずしも得になるとは限らないため、世の中の経営者は消費税に関する制度について、正しい知識を身につけておくことが必要だ。
課税事業者と免税事業者の違いとは?
まずは、消費税を理解する第一歩として、「課税事業者」と「免税事業者」の違いを理解していこう。
課税事業者とは?
課税事業者とは、国に対して消費税を納める義務が課せられた事業者のことだ。課税事業者が商品・サービスを販売する際には、販売価格に「消費税分」を上乗せしており、後日その受け取った消費税をまとめて国に納付する。
また、少しややこしいかもしれないが、課税事業者も仕入れの際には消費税を前もって負担している。例えば、原材料や消耗品を購入するときには、一般的な消費者と同じように「商品の代金+消費税」の金額を支払っているはずだ。
この前もって支払った分の消費税を無視すると、課税事業者は2重に消費税を負担することになってしまうため、課税事業者の消費税額は原則として以下の式で算出されている。
消費税額=(売上時に受け取った消費税)-(仕入時に支払った消費税)
ちなみに、上記の「仕入時に支払った消費税」には、交通費や接待費にかかる消費税が含まれる点も合わせて覚えておきたい。
免税事業者とは?
免税事業者とは、一定の要件を満たすことで消費税の支払いが免除される事業者のことだ。商品・サービスを売り上げる際には、課税事業者と同じように「代金+消費税」を消費者から受け取るが、このうち消費税分は会社の収益にすることが認められている。
このときに発生した消費税分の収益(益税)は、本来消費者が税金として国に納めるべきものだ。消費税の仕組み上、事業者が代わりに納付をしているに過ぎないが、免税事業者が受け取った消費税に関しては国への納付が行われていない。
この免税事業者ならではの現象は「益税問題」と呼ばれており、多方面で議論を呼んでいる。
免税事業者は消費税を請求できる?
上記の免税事業者の概要を読んで、「免税事業者が消費税を請求しても問題はないのか?」と素朴な疑問を感じた経営者は多いだろう。結論からいえば、免税事業者であっても消費税分を請求することは法律的に問題ない。
その理由は、いたってシンプルだ。免税事業者に該当する場合であっても、仕入れの際に取引先に支払う消費税が免除されるわけではないので、商品価格に消費税分を上乗せすることは当然の権利として認められている。
では、自分の会社が免税事業者と取引をする場合はどうだろうか。頭の回転が速い経営者であれば、以下のような流れで一つの疑問にたどり着くはずだ。

上記のような流れでB社が値下げをすれば、最終的には仕入量が増える可能性があるため、A社にとっては大きなメリットとなる。しかし、免税事業者に対してこのような要求をすることは、「消費税転嫁対策特別措置法」において禁止されているので要注意だ。
課税事業者・免税事業者のどちらの立場になっても、この点は正しく理解しておく必要があるだろう。
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免税事業者になるための要件をわかりやすく解説!
細かく見ると、消費税の免税事業者に関する要件は非常に多い。そのため、以下では経営者が特に押さえておきたい2つの要件をまとめた。

上記のうち「基準期間」「特定期間」「課税売上高」はやや複雑なポイントであるため、次からはこの3点を重点的に解説していこう。
免税事業者の要件にある「基準期間」「特定期間」とは?
毎年1月~12月が区切りとなる個人事業主とは違い、法人は事業年度を自由に設定できる。そのため、免税事業者の要件にある「基準期間」と「特定期間」は、以下のように個人事業主と法人にわけて期間が設定されている。

例えば、2018年の課税売上高が1,000万円以下の個人事業主は、2020年には免税事業者として扱われる。ただし、この条件を満たしている場合であっても、2019年1月1日~6月30日までの課税売上高が1,000万円を超えている場合は、消費税の納税義務が課せられるため要注意だ。
免税事業者として扱われるには、このように「基準期間」「特定期間」の2つの要件を同時に満たす必要があるので、まずはその点をきちんと理解しておこう。
免税事業者の要件にある「課税売上高」とは?
課税売上高については、国税庁のホームページにおいて以下のように説明されている。
・課税売上高は、輸出などの免税取引を含め、返品、値引き、割戻しをした対価の返還等の金額を差し引いた額(税抜き)
この文言ではやや分かりづらいかもしれないが、課税売上高とは簡単にいえば「消費税を差し引いた売上」のこと。例えば、1,000円の商品を消費税10%で販売すると、実際に受け取る金額は1,100円となるが、課税売上高では「1,000円」として計算する。
ただし、基準期間においてすでに免税事業者として扱われていた場合は、この税抜きの処理をせずに課税売上高を計算する必要がある。
新規開業時や、基準期間が1年ではない法人の扱いは?
新規開業時の要件については、ここまで紹介した内容と基本的には同じだ。新規開業から2年の間は、基準期間における課税売上高が0円となるため、黒字経営であっても消費税を納付する必要はない。
ただし、設立から2年目に関しては、「特定期間」の要件を満たす必要がある。特定期間の課税売上高が1,000万円を超えていると、新規開業から2年が経過していなくても納税義務が課せられてしまう。また、事業年度開始日における資本金または出資金の額が1,000万円を超える場合も、免税は適用されないため注意しておこう。
ちなみに、事業者によっては特定の事情で基準期間が1年間にならないケースがある。この場合は通常時とは違い、以下の流れで要件を判定することになる。

免税事業者が得につながるとは限らない!課税事業者のほうが得になるケース
免税事業者は受け取った消費税を自社の収益にできるため、多くの経営者は「免税事業者になりたい」と感じているだろう。しかし、実は課税事業者を選ぶべきパターンも存在するため、安易に免税事業者を目指すべきではない。
では、実際に課税事業者のほうが得になる3つのケースを、以下で詳しく解説していこう。
1.課税仕入れが多く、課税売上が少ない場合
企業が消費税の負担を考える際には、押さえておきたい制度がもう一つある。それは、原則課税方式を採用している課税事業者が対象になる「消費税の還付」だ。
実は「課税仕入れ>課税売上」の図式が成立する課税事業者は、この制度によって消費税の還付を受けられる。場合によっては、免税より還付のほうが有利になるケースがあり、さらに免税事業者はこの還付制度が適用されないため注意しなくてはならない。
ちなみに「課税仕入れ>課税売上」とは、簡単にいえば消費者から預かった消費税より、支払った消費税のほうが多い状態を指す。例えば、開業直後で設備投資をしたときや、極端に売上が少ない時期にはこの図式が成立しやすいので、該当する企業は課税仕入れ・課税売上の金額を一度チェックしてみよう。
2.事業の中で免税取引をしている場合
経常的に免税取引をする事業者も課税事業者を選んだほうが得になる可能性がある。なぜなら免税取引では、売上高に消費税が課税されないからだ。免税取引とは、簡単にいうと売上などに消費税が課税されていない取引のこと。「売上に消費税が課されないことがあるのだろうか?」と疑問を持つ人もいるかもしれないが実際に免税取引は存在する。
免税取引の具体的なケースとしては「輸出業」を営んでいる場合が挙げられるだろう。輸出業は、国内の商品を海外の国に販売するが、そもそも消費税とは、モノやサービスの消費に課される税金だ。輸出した商品を消費するのは、輸出先の国の人々である。
本来消費税を負担するのは、消費する人であって輸出業を営む事業者ではない。また輸出先の国の人々には、日本国の消費税を課すことはできない。そのため輸出業の売上は消費税が免税(輸出免税と呼ぶ)となっている。
輸出免税の目的は、輸出される商品の国際競争力を高めることだ。輸出業は、免税取引によって売上を得るため、多くの売上には消費税が課税されない。一方で、国内での仕入れには消費税が発生するので、「課税仕入れ>課税売上」の図式が成り立つ。
つまり、免税取引をすることが多い事業者は、消費税の免税よりも還付を選んだほうが得になる可能性がある。
3.2023年以降に他社と取引をする場合
本記事の前半で触れた「適格請求書等保存方式(インボイス方式)の導入」は、経営者が今後特に気をつけておきたいポイントだ。この制度が2023年に導入されると、仕入税額控除の適用要件として「適格請求書を保存していること」が追加される。
実はこの適格請求書は、税務署から登録を受けた課税事業者しか交付ができない。つまり、免税事業者との取引では適格請求書が交付されないため、結果的に仕入税額控除の適用を受けられないのだ。
制度のこのような仕組みによって、将来的にはさまざまな取引から免税事業者が弾かれてしまう恐れがある。実際にどうなるかは制度が導入されてみないとわからないが、2023年以降には課税事業者のほうが取引面で得になる可能性があるため、より慎重な判断が必要になってくるだろう。
しかし適格請求書等保存方式(インボイス方式)は、今までにない制度のため、現在消費税の免税の場合は、税務署の登録を受けたほうが良いか迷う事業者も多いだろう。そこで登録を受けるかどうかの簡単な判断基準(目安)を紹介していく。
基準1.取引先から、インボイスの交付を求められるかどうかで判断する
インボイスの交付を求められる取引先が多い場合に登録するという判断方法だ。実は、取引先の状況によってインボイスの交付を求められるかが違ってくる。取引先が課税事業者の場合は、原則インボイスの交付を求められる。ただし取引先が簡易課税制度を選択していたり、免税事業者だったりする場合、インボイスは不要だ。
基準2.自社の状況で判断する
この基準は、自社の状況によって登録を受けるかどうかを判断するものである。登録を受けた場合は、課税事業者となるため、消費税の納付が必要だ。登録を受けない場合は、消費税の納付は必要ない。また取引先は、経過措置期間は仕入税額の一部を控除することができる。いずれにせよ適宜取引先と税務署の登録を受けたほうがよいか相談が必要だろう。
消費税はトラブルにつながりやすい!だからこそ押さえたい3つの注意点
数ある税金の中でも、消費税は思わぬトラブルにつながりやすい税金だ。一つの選択を間違えると、大きな損失が生じてしまう恐れもあるので、経営者は消費税に関して正しい知識をつけなくてはならない。
そこで以下では、ここまで解説しきれなかった注意点を3つまとめた。深刻なトラブルを避けるために、しっかりと理解しながら読み進めていこう。
1.「課税事業者」「免税事業者」への切り替えには、手続きが必要
新しく事業を始めた法人や個人事業主は、要件を満たしていれば自動的に免税事業者として扱われるので、免税事業者になるための特別な手続きは必要ない。ただし、途中から課税事業者に切り替える場合や、課税事業者から免税事業者に戻す場合には、各種届出を管轄の税務署に提出することが必要だ。
仮にこの手続きを忘れると、免税事業者の要件を満たしているにも関わらず、納税義務が発生するような状況に直面する。課税事業者と免税事業者とでは、消費税の負担額に大きな違いが生じるケースも珍しくないので、自社がどちらの事業者に該当するのかは常に把握しておきたい。
ここでは、代表的な手続きについて、届け出や提出期限を見ていこう。
ケース1.課税事業者から免税事業者になる場合
このケースは、基準期間における課税売上高が1,000万円以下となった場合など課税事業者だった事業者が免税事業者になるケースだ。この場合「消費税の納税義務者でなくなった旨の届出書」を税務署に提出。提出期限は、事由が生じた場合、速やかに提出することになっている。
ケース2.免税事業者から課税事業者になる場合
このケースは、基準期間における課税売上高が1,000万円超となった場合など免税事業者が課税事業者になる場合のケースである。提出する書類は、基準期間における課税売上高が1,000万円超となったのか、特定期間における課税売上高が1,000万円超となったのかで次のように異なるため、間違えないようにしよう。

提出期限は、どちらも事由が生じた場合、速やかに提出することになっている。
ケース3.免税事業者があえて課税事業者を選択する場合
このケースは、課税事業者の要件を満たしていない免税事業者が消費税の還付を受けられるためなどの理由で、あえて課税事業者を選択するケースだ。提出する書類は「消費税課税事業者選択届出書」である。提出期限は、課税事業者になろうとする年度の初日の前日までとなっている。
2.課税事業者になると、2年間は免税事業者に戻れない
前述で解説した通り、企業によっては課税事業者のほうが得になる場合もある。しかし、実は免税事業者から課税事業者になると、その後2年間は免税事業者には戻れないため、安易に課税事業者を選ぶべきではない。
特に1年目と2年目で「課税仕入れ・課税売上のバランス」が大きく異なるケースでは、細心の注意が必要だ。このようなケースでは、1年目には消費税の還付を受けられるものの、2年目には消費税の負担が増大する恐れがある。
したがって、課税事業者の届出を出すか否かは、2年間の経営状態をきちんと予測したうえで慎重に検討しておきたい。
3.消費税転嫁対策特別措置法で禁止されている5つの行為
前述でも軽く触れた「消費税転嫁対策特別措置法」は、買い手の立場を利用した「消費税の転嫁拒否」を禁止するための法律だ。この法律では公平な取引を実現するために、以下の5つの行動を禁じている。

つまり、買い手の立場を利用して、消費税の面で得をしようとする行為は基本的に禁止されている。違反行為をすると、最終的にはその事実が公表されてしまうため、買い手の立場で他社と取引をする際には十分に注意しておこう。
消費税免税事業者に関するQ&A
Q1.免税事業者の消費税はどうする?
A. 免税事業者は、消費税の納付が不要だ。ただし免税事業者だからといって顧客への売上に消費税をつけてはいけないということではない。また経費などの支払いに消費税がかからないわけではない。課税事業者と同じように顧客への売上に消費税をつけ、経費などの支払には消費税がかかるが消費税の申告をしたり国に納付をしたりする必要がないということである。
Q2.免税事業者はどんな人?
A. 免税事業者とは、消費税の納付の必要がない人のことである。免税事業者でも売上に消費税を加えて請求するが納付をする必要がないため、消費税については優遇措置を受けている状態ともいえるだろう。免税事業者になるかどうかは、消費税法によって定められている。原則基準期間における課税売上高が1,000万円以下の場合は、免税事業者となる。
また免税事業者の場合であっても消費税の還付がある場合などは、事前に届け出をすることで課税事業者になることも可能だ。
Q3.消費税の課税事業者かどうかどう判断する?
A. 消費税の課税事業者かどうかの判断は、原則基準期間や特定期間の課税売上高が1,000万円以下かどうかで判断する。基準期間とは、その年の前々年(前々事業年度)のことをいう。特定期間とは、個人事業主の場合、その年の前年の1月1日~6月30日、法人なら対象事業年度の上半期のことを指す。
新規開業時や基準期間が1年ではない法人には、別の基準もあるので注意が必要だ。また今後インボイス方式が採用された場合、インボイスを発行するために税務署に登録すると免税事業者であっても課税事業者になるため、注意したい。
消費税のすべてを覚えることは難しい!だからこそ調べることが重要
消費税はなじみ深い税金の一つだが、その仕組みは非常にややこしい。特に課税事業者と免税事業者の違いや、免税事業者になるための要件などは、すべてを暗記しておくことは難しいだろう。
そのため、消費税に関する疑問が生じたら、その都度細かく調べることが必要になる。本記事で紹介したように、2023年には新たな制度も導入されるため、消費税について定期的に調べる癖をつけておこう。
事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ
THE OWNERでは、経営や事業承継・M&Aの相談も承っております。まずは経営の悩み相談からでも構いません。20万部突破の書籍『鬼速PDCA』のメソッドを持つZUUのコンサルタントが事業承継・M&Aも含めて、経営戦略設計のお手伝いをいたします。
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文・THE OWNER編集部