【まきチャレ2023開催記念インタビュー| Greenovator】新時代の農業経営を提案するGreenovatorとは?!

牧之原市チャレンジビジネスコンテスト(以下、まきチャレ2023)は、牧之原市(静岡県)の「産業資源」と「観光資源」を活用して、自らの事業を地域と共に発展させるビジネスプランを全世界のスタートアップ企業から募集し、評価するビジネスコンテストです。第2回開催である今回は、EXPACT代表の髙地が審査員として参加しました。

今回は、まきチャレ2022の第1回開催時のファイナリストの一人であるGreenovatorのCEOテイン氏とアドバイザーの大杉氏に彼らの提供するサービスや今後の展望、まきチャレ等についてお聞きしました。

【まきチャレ2023開催記念インタビュー| Greenovator】新時代の農業経営を提案するGreenovatorとは?!
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日本政府は2022年をスタートアップ創出元年と位置付け、2022年末には支援政策全体の枠組みを示す「スタートアップ育成5か年計画」を策定しました。重点的な投資と規制・制度改革を中長期的かつ計画的に実施

- 本日はインタビューのご機会をいただき、誠にありがとうございます。まずお二人のご経歴、またGreenovatorの設立及び関わりについて教えてください。

テイン氏:
私はCEOのテイン・ソー・ミンといいます。2009年に農業大学を卒業後、ミャンマーでのJICA(国際協力機構)のプロジェクトを含むINGOに参加し、農村開発のために農家の方々と一緒に働きました。2014年から15年にかけて、ミャンマーでスマートフォンが普及し始めたため、共同設立者とともに農業従事者向けのモバイルアプリケーションをリリースしました。2011年以前は、SIMカードの価格は2,000ドルほどでしたが、2014〜15年頃には一枚あたり1ドルまで下がり、農家が携帯電話を手頃な価格で使えるようになりました。私たちは、これを農家と通信テクノロジーをつなげる絶好のタイミングだと考えたのです。

現在はカンボジアに拠点を置いており、シンガポール、日本、カンボジア、ミャンマーで会社を登記しました。私たちのアプリで、メコン地域全体と日本をカバーしようと試みています。

大杉氏:
私は大杉健一と申します。Greenovatorのアドバイザーと、東京で設立・登記したばかりのGreenovator JapanのCEOを務めています。現在は、牧之原市への移転または新支店の開設を検討しております。

私はJICAでロシア、アゼルバイジャン、グルジア、ウズベキスタンに赴任し、ロシア語を習得しました。JICA勤務後は、企業の世界に転身し、東芝や日立などのグローバル企業に入社、現在は、半導体業界の大手企業に勤務し、持続可能性とESGの推進に注力しています。社会的インパクト投資と持続可能性を専門分野としています。

Greenovatorとのつながりは2017年に始まり、アドバイザーやGreenovator JapanのCEOとして携わっています。東南アジアでの事業拡大を目指すGreenovatorを積極的に支援しており、2022年に開催された第1回まきチャレでは日本語が主要なコミュニケーション言語であったため、Greenovatorを代表してプレゼンテーションを行いました。これからも引き続きGreenovatorをサポートし、日本での事業を推進していく所存です。

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- Greenovatorの概要について教えてください。貴社とそのビジネスモデルのアイデアはどのように生まれたのですか?

テイン氏:
私は農家の出身なので、その苦労や課題についてよく理解しています。子供の頃から、農家を支援し、彼らにとって知識をより身近なものにすることを常に目指してきました。そのため、卒業後はどうすれば農家をサポートできるかを考え続けていました。それが、2015年に農業従事者向けのアプリ開発に繋がることになります。現在、私たちのアプリはミャンマー全土で32万人以上の農家に利用されています。このアプリでは、常に農家に焦点を当て、彼らが農業を伝統的な営みとしてだけではなく、持続可能なビジネスとしても捉えられるような意識改革を目指しています。

農業従事者は、投資と収益、そして旧来の家族経営方式から収益性の高いベンチャーに転換する方法について考える必要があり、私たちはそのような意識の改革を目標に活動してきました。そこで2018年から2019年にかけて、農家が日々の活動や経費を記録できる「Farming Record(農業記録簿)」という機能の開発に着手しました。このツールは、農家が季節ごとに損益を把握するのに役立ちます。また、これはQRコードを生成することで、生産物の追跡が可能になるトレーサビリティ・システムの構築の一環でもあります。

多くの農家にとっての問題は、消費者に自分たちの製品の品質と安全性を証明することです。QRコードの背景には、農家がどのように安全で健康的な食品を生産しているかを消費者に示せるような信頼性のあるシステムを構築するというアイデアがあります。2021年にミャンマーでこのアイデアを開始・実践し、今では種苗会社やその他の農家がこの機能を活用しています。また、まきチャレ2022に参加することで、この機能を日本を含む他地域の農業従事者のために拡大する機会を得ることができました。広大な農地とお茶の生産で知られる牧之原市にとって、私たちのトレーサビリティ・システムは大きな価値を提供できると考えました。

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加えて、私たちは農業が日本で広く親しまれる活動になることを目指して、消費者の安全で持続可能な農業に対する認知度を高めていきます。例えば、多くの人がお茶を楽しんでいますが、その生産、サプライ・チェーン、健康へのメリットに関する情報は不足しています。私たちのプラットフォームは幅広い情報を取り扱うため、農家の活動についての見識を提供することでアグリツーリズムを促進することもできます。これらの情報はすべてQRコードに組み込まれています。

こうして、牧之原市でこのアイデアを導入し、私たちのチームは現在その機能を「Farmsuite」と呼ばれるものに拡張しています。Farmsuiteは、特に契約農業ビジネスのための独立したプラットフォームであり、デジタル技術を通じて多数の農家を管理する人たちを支援しています。市場には様々な農場管理プラットフォームが存在していますが、私たちが以前インド発のプラットフォームの国内販売代理店をしていた時の価格設定は、中小規模の契約農業ビジネスには無理のあるものでした。私たちのFarmsuiteのビジョンは、そのような地域の中小農家にとっても手頃な価格のプラットフォームを作ることです。

- 素晴らしいですね。Greenovatorは、日本市場向けに基本的なサービスをどのように変更・調整してきたのでしょうか?また、日本での販売戦略についても教えてください。

大杉氏:
ミャンマーなど東南アジアの農家と比べて、一般的に日本の農家は、独立して十分な情報にアクセスできると思います。したがって、私たちのアプリケーションの機能は、日本向けにもっと焦点を絞り、合理化する必要があると思われます。さらに、発達した協力社会の中で、JA(農業協同組合)が流通における重要な役割を果たしていますが、茶産業においてはこの限りではありません。茶産業における流通は、伊藤園などの大企業が主に管理しており、JAは一切関与していません。まきチャレに参加し、牧之原で茶業者の方々と連携した取り組みを始めようとしたのも、こうした背景があるからでした。

率直に言えば、日本の農家の現状は、能力やエンパワーメントという点においてミャンマーや東南アジアとは大きく異なります。そのため、私たちの目下の焦点は、茶の生産に関わる企業や農家を含む茶産業になります。しかし、アプリケーションの機能を変更するなど、私たちのアプローチやビジネスモデルを日本の実情に合わせる必要性も認識しています。オリジナルのアプリケーションは、幅広くきめ細かい機能を提供していますが、日本では、より的を絞って機能を選択する必要があると考えています。

そのために、まずは牧之原と静岡で初期調査を行い、今後の展開の土台を作る予定です。これには、関連する日本の金融機関へのアプローチ戦略も含まれています。

- 特に社会的インパクトの視点から、Greenovatorにとって市場拡大計画の現在と未来はどのようなものになるのでしょうか?

テイン氏:
まずメコン地域内ですが、シンガポールとともに、東南アジア全域をカバーするための商品への投資を積極的に募っています。私たちの現在の焦点は、ラオスとベトナムでの展開にも及んでおり、ベトナムではNGOとのプロジェクト開始を計画しています。また、私たちは投資機会を探求しており、特にこれらの展開を支援する日本からの投資を模索しています。

大杉氏:
日本では、JICAやJETROのような公的機関にプロジェクト実施への支援を呼びかけています。東南アジアや日本で農業従事者が増えるようであれば、ビッグデータやAIを活用して保険会社や金融機関とも連携・協力したいと考えています。JICAやJETRO以外にも、牧之原市のような自治体との連携も検討しています。

テイン氏:
また、AIを含めたより多くの機能を追加する計画もあります。特に、気候変動に対応したアドバイザリー・サービスを提供したいと考えています。東南アジアでは、多くの農家が気候変動に起因する作物の損失などの課題に直面しています。また、多くの農家は気象情報にアクセスできるにも関わらず、それにどう対応すべきかが分からないことがよくあります。例えば、明日や来週に雨が降ることを知っていても、それが農作物にどのような影響を与えるかは分からない、ということがあります。そこで私たちは、気象情報を活用し、それに基づいて農家に気候変動に配慮したアドバイスを提供したいと考えており、これが主な拡大を目指している分野になります。また、私たちは農家が支援を必要としているマイクロファイナンスや農作物保険の分野に関する情報も提供しております。

社会的インパクトについては、マイクロファイナンスを通して小規模農家に私たちのプラットフォームを使っていただくことで、それが彼らのゲートウェイとして機能しています。私たちはそれらの農家を優先し、質問があれば2時間以内に回答します。また、政府や公共機関など、どんなビジネスであれその地域の小規模農家にアプローチしたいと思えば、私たちが窓口となるのです。

【まきチャレ2023開催記念インタビュー| Greenovator】新時代の農業経営を提案するGreenovatorとは?!

- 東南アジアの中で、特に注目している地域や市場はありますか?

テイン氏:
今現在、私たちは拠点を置くカンボジアに焦点を当てています。今後3年間は、主に2つの分野に注力します。ひとつは、小規模農家向けの家族用アカウント機能です。もうひとつは、日本発でベトナムとタイをターゲットにした契約栽培のビジネスプラットフォームである、契約栽培ソリューションです。

背景として、EUの政策変更により、カンボジアなどの国々から輸入される農産物に対して追跡機能に対応していることが求められるようになったため、カンボジアの開発組織において追跡機能を提供できるソリューション需要が高まっていることがあります。

大杉氏:
カンボジアでは、パートナーと協力して、JICAとJSTが行うSATREPSプログラムという重要なプログラムに応募する予定です。SATREPSプログラムとは、「Science and Technology Research Partnership for Sustainable Development(持続可能な開発のための科学技術研究パートナーシップ)」の略称で、科学研究と産業界の知見の両方を活用するという二元的アプローチを通じて、特定の国の社会問題に取り組むことを目的としている取り組みです。

私たちは、このプログラムの下でのカンボジアにおけるプロジェクトを計画し、申請書を提出する予定です。さらに現在、バッタンバン国立大学と水耕栽培プロジェクトに焦点を当てた協力の可能性を模索しています。このようにカンボジアは、私たちの取り組みの優先的なターゲット国です。

- 日本では、農業分野における労働力不足が大きな問題となっています。この問題を解決する方法についてはどのように考えていますか?

テイン氏:
日本における私たちの使命のひとつは、人々の農業分野への関心をより高められるきっかけを生み出すことだと思います。日本の課題のひとつは、多くの農家が農業を放棄して都市部に移住していることです。加えて、多くの若者の農業分野への関心の低さもあります。したがって、私たちの使命は、人々、特に若者に農業の魅力を感じてもらえるような解決策を見つけることです。

大杉氏:
私たちは若い世代を惹きつける手段として、より効率的で環境に優しい農業といったスマート農法を推進しています。

テイン氏:
またメコン地域では、特に若者や女性の農業分野への参加を促すことを目的に、特定の機能に関するテストも実施しました。ミャンマーでは私たちのアプリに家族アカウントというコンセプトを導入し、若者や女性も農家のアカウントの一部を担うことができるようになりました。例えば農家が忙しい場合、配偶者や子どもたちが日々の活動や支出を記録することで支援することができます。このような家族の参加を通して、彼らは父親が農家として直面している課題への理解を深め、家族の一員としての役割を把握することができます。この機能を実装した後、私たちのプラットフォームでは、女性と若者の参加が増えていることが観察できました。

日本においても同様の解決策が模索できると考えていますが、そのためには日本の実情に沿った広範な調査が必要です。それでも私たちは、自分たちの力で若者を農業に参加させる方法を見つけることができるという希望を持っています。

【まきチャレ2023開催記念インタビュー| Greenovator】新時代の農業経営を提案するGreenovatorとは?!

- それでは、最後にGreenovatorがまきチャレで得た経験について教えてください。

大杉氏:
Greenovatorにとって、日本で開催されるビジネスコンテストに参加するのは今回が初めてでした。参加のきっかけは、まきチャレの主催者のうちの1人が、牧之原の茶産業を主なインセンティブとして私たちに参加を呼びかけてくださったことです。牧之原の茶産業は非常に発展している一方で、豊富な田畑を十分に活用できていないなど、いくつかの課題も抱えています。Greenovatorはミャンマーの茶産業で経験を積んできたことから、私たちの専門知識と牧之原市の状況との間にシナジーが生まれる可能性があると考えました。
まきチャレの期間中、私たちは牧之原にある地元で茶を生産するいくつかの会社を訪問する機会を得ました。さらに、まきのはらインキュベーション・センターの施設利用申請もすでに提出しています。

- Greenovatorが現在、メコンや日本を含む幅広い地域で事業を展開し、牧之原市とのさらなる連携を進めていることをお聞きして、とてもワクワクしています。改めてインタビューの機会をいただきありがとうございました。

[会社概要]
【会社名】Greenovator
【URL】https://www.greenovator.co/
【設立年】2015年
【代表者】Thein Soe Min & 大杉 健一
【所在地】シンガポール