事業承継税制
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澤田 朗
澤田 朗(さわだ・あきら)
日本相続士協会理事・相続士・AFP。1971年生まれ、東京都出身。日本相続士協会理事・相続士・AFP。相続対策のための生命保険コンサルティングや相続財産としての土地評価のための現況調査・測量等を通じて、クライアントの遺産分割対策・税対策等のアドバイスを専門家とチームを組んで行う。設計事務所勤務の経験を活かし土地評価のための図面作成も手掛ける。個人・法人顧客のコンサルティングを行うほか、セミナー講師・執筆等も行う実務家FPとして活動中。

中小企業の事業承継を円滑化する目的で、2008年に「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)」が公布・施行された。今回は、この法律に定められる中小企業における事業承継税制の概要やメリット・デメリットなどをお伝えする。

目次

  1. 法人版事業承継税制の概要
    1. 特例措置と一般措置の違い
    2. 法人版事業承継税制(一般措置)の内容
    3. 法人版事業承継税制(特例措置)の内容
  2. 法人版事業承継税制のメリット
    1. メリット1.納税猶予・免除による税負担の軽減
    2. メリット2.特例措置の要件緩和
  3. 法人版事業承継税制のデメリット
    1. デメリット1. 法人・経営者・後継者の要件がある
    2. デメリット2.継続的な手続き・要件確保が必要
    3. デメリット3.特例措置の適用期限がある
  4. 個人版事業承継税制の概要
    1. 税負担の発生と納税の免除について
    2. 個人版事業承継税制が適用される要件
  5. 個人版事業承継税制のメリット、デメリットは?

法人版事業承継税制の概要

事業承継税制には法人版と個人版の2つがあるが、まずは法人版事業承継税制の概要をお伝えする。

事業承継税制は、中小企業の後継者である受贈者・相続人等が、経営承継円滑化法の認定を受けている非上場会社の株式等を贈与または相続等により取得した場合に一定の要件を満たせば、株式等にかかる贈与税・相続税の納税を猶予できる制度だ。

後継者の死亡などにより納税が猶予されている贈与税・相続税の納付を免除することもできる(非上場株式にかかる相続税・贈与税の納税猶予制度)。

また、法人版事業承継税制には一般措置と特例措置の2種類があり、特例措置は事前に事業承継計画の策定・提出や適用期限などが設けられている。

納税猶予の対象となる非上場株式等の対象株式数、納税猶予割合、雇用確保の要件などについて、一般措置よりも特例措置は要件が緩和されている。

特例措置と一般措置の主な違いは下記のとおりだ。

特例措置と一般措置の違い

一般措置特例措置
事前の承継計画策定等不要5年以内の特例承継計画の提出
2018年4月1日から
2023年3月31日まで
適用期限なし10年以内の贈与・相続等
2018年1月1日から
2027年12月31日まで
対象株式数総株式数の最大2/3まで全株式
納税猶予割合贈与:100% 相続:80%100%
承継パターン複数の株主から1人の後継者複数の株主から最大3人の後継者
雇用確保要件承継後5年間
平均8割の雇用維持が必要
書類提出により猶予継続可能
事業の継続が困難な
事由が生じた場合の免除
なしあり
相続時精算課税の適用60歳以上の者から20歳以上の推定相続人(直系卑属)・孫への贈与60歳以上の者から20歳以上の者への贈与

次に一般措置と特例措置の概要を順にお伝えする。

法人版事業承継税制(一般措置)の内容

一般措置は承継計画の作成義務や適用期限は設けられていない。その一方で、納税猶予・免除の対象となる株式が全株式の2/3まで、納税が猶予される割合が相続の場合は80%(贈与は100%)と上限が設けられている。

また、事業承継後5年間(経営承継期間)は、贈与・相続時の雇用を平均で8割維持しなければならない。維持できないと免除対象の税金を納付することになるため、原則8割の雇用維持が必須だ。

経営承継期間は次の要件を満たす必要がある。

1.後継者が会社の代表者である
2.後継者が同族内で筆頭株主である
3.後継者が納税猶予の対象株式を継続保有している
4.上場会社、風俗営業会社、資産管理会社に該当しない  5.税務署に継続届出書を毎年提出する  6.都道府県に一定の書類を毎年提出する

また、経営承継期間後も措置の適用を継続する場合は、3年ごとに継続届出書の提出が必要となる。なお、経営承継期間後は上記6つの要件のうち「対象株式の継続保有」と「資産管理会社に該当しない」を満たせば納税猶予を継続できる。

法人版事業承継税制(特例措置)の内容

特例措置は2018年より新設された制度だ。一般措置と違って事業承継に関する計画の作成・提出などが求められ、2023年3月31日までに承継計画を作成・提出をしたうえで都道府県知事の確認を受ける必要がある。

また、贈与・相続が特例措置の対象となる期限は2027年12月31日までだ。

特例措置は一般措置よりも適用範囲が広い。具体的には、全株式が納税猶予・免除の対象となり、納税が猶予される割合が贈与・相続ともに100%である。

経営承継期間の雇用が平均で8割を維持できなかった場合にも、理由を記載した報告書を都道府県知事に提出し確認を受けることで、引き続き納税が猶予される。

一般措置では1人の後継者に事業承継を行うが、特例措置では最大3人の後継者に株式を贈与・相続可能だ。

ただし、特例措置も一般措置と同様、経営承継期間は前述の6つの要件を満たさなければならず、3年ごとに継続届出書の提出が必要となる。

なお一般措置・特例措置ともに、主に次のケースに該当する場合は猶予されている納税が免除される。

・先代経営者等(贈与者)が死亡した場合
・後継者(受贈者)が死亡した場合
・経営承継期間内に、やむを得ない理由により会社の代表権を有しなくなった日以後に「免除対象贈与」を行った場合
・経営承継期間経過後に「免除対象贈与」を行った場合
・経営承継期間経過後に、会社に破産手続開始決定などがあった場合
・特例経営贈与承継期間経過後に、事業の継続が困難な一定の事由が生じた場合で、会社を譲渡・解散した場合

「免除対象贈与」とは、納税猶予を受ける後継者(2代目)が次の後継者(3代目)に株式等を贈与した場合、その後継者も納税猶予を受ける贈与である。

法人版事業承継税制のメリット

次に、法人版事業承継税制のメリットをそれぞれお伝えする。

メリット1.納税猶予・免除による税負担の軽減

一番のメリットは株式を贈与・相続した際の税負担の軽減だ。一般措置と特例措置には対象株数・納税猶予割合の違いはあるが、事業承継時の税負担が猶予されることには変わりない。要件を満たせば納税が免除される点も大きなメリットといえよう。

メリット2.特例措置の要件緩和

事業承継後の経営環境の変化などにともない、雇用継続の確保や事業継続が困難となった場合に対応できるよう、特例措置は一般措置よりも要件が緩和されている。将来の不安や負担を軽減できる措置といえる。

法人版事業承継税制のデメリット

法人版事業承継税制によって税負担の猶予や免除など恩恵が受けられる一方で、デメリットがある点にも目を向けなければならない。

デメリット1. 法人・経営者・後継者の要件がある

前述した6つの要件のほかに、法人・経営者・後継者ごとに要件が分かれ、これらを満たさない場合には制度が適用されない。

【法人要件】

・中⼩企業であること:業種ごとに下表の要件に該当する必要がある。

業種資本金従業員数
ゴム製品製造業3億円以下900人以下
その他製造業300人以下
ソフトウェア業・情報処理サービス業300人以下
卸売業1億円以下100人以下
旅館業5,000万円以下200人以下
サービス業100人以下
小売業50人以下

【先代経営者(贈与者・被相続人)要件】

・会社代表者であった
・贈与時までに代表者を退任する
・贈与、相続の直前において、先代経営者と同族関係者で発行済議決権株式総数の50%超の株式を保有し、かつ同族内(後継者を除く)で筆頭株主であった
・一定数以上の株式を一括して贈与する

【後継者(受贈者・相続人)要件】

・贈与時に会社の代表者である
・贈与時に20歳以上、かつ役員就任から3年以上経過している
・相続開始の直前において対象会社の役員であること
・贈与、相続後に後継者と同族関係者で発行済議決権株式総数の50%超の株式を保有し、かつ、同族内で筆頭株主となる

特に、後継者については役員就任や在任年数などが要件となるため、制度利用を検討する場合には早めの対応が必要だ。

デメリット2.継続的な手続き・要件確保が必要

事業承継後5年間は毎年所定の書類を提出しなければならない。5年経過後も3年ごとに書類を提出する。

また、一般措置については雇用確保・事業継続の要件を満たさない場合には猶予されている税負担が発生する。場合によっては長期間の手続き・要件確保が必要となるため、事務作業による精神的な負担が増えることもあるだろう。

デメリット3.特例措置の適用期限がある

特例措置については、承継計画の作成・提出や事業承継の時期に期限が設けられているため、先代経営者や後継者、会社などの状況によっては活用できないケースも考えられる。

後継者への事業承継をスムーズにする制度であるが、税のメリットに惑わされて本来の目的を見失わないように注意したい。

個人版事業承継税制の概要

法人版と違って個人版事業承継税制では、贈与・相続税の納税が猶予・免除される対象資産が「特定事業用資産」となる。先代事業者が贈与・相続を開始した年の前年分の事業所得にかかる青色申告書の貸借対照表に計上されている。具体的には、先代事業者の事業に使用されていた下記の資産をさす。

1.宅地等
事業用の土地または土地の上に存する権利(借地権等)

2.建物
事業用の建物

3.減価償却資産
固定資産税が課税される償却資産(構築物、機械装置、器具備品、船舶等)や営業用の自動車等

なお、納税猶予の対象となる面積の上限は、宅地が400㎡、建物が800㎡だ。経営承継円滑化法の認定上の制限はなく、上限を超える贈与・相続を行っても問題はない。

また、法人版と同様に、下記の要件を満たす必要がある。

事前の承継計画策定5年以内の個人事業承継計画の提出
2019年4月1日から2024年3月31日まで
適用期限10年以内の贈与・相続等
2019年1月1日から2028年12月31日まで
対象資産特定事業用資産
納税猶予割合100%
承継パターン原則、先代1人から後継者1人
※一定の場合、同一生計親族等からも可
雇用確保要件なし
経営環境変化に対応した減免等あり
※後継者が重度障害等の場合は免除
円滑化法認定の有効期限最初の認定の翌日から2年間

法人版特例措置と同様に承継計画の作成・提出が必要となる。猶予・免除の割合は100%となるが、雇用確保などの継続要件はない。

税負担の発生と納税の免除について

下記の場合、猶予されていた税負担が発生することになる。

・事業の廃止
・資産管理事業または性風俗関連特殊営業に該当
・事業所得の総収入金額がゼロ
・青色申告の承認取消

なお、主に次のケースに該当する場合、猶予されていた納税が免除される。

・先代事業者(経営者)の死亡
・後継者の死亡
・後継者が重度の障害
・疾病等で事業継続が困難
・免除対象贈与(事業承継5年経過後)
・後継者の破産

個人版事業承継税制が適用される要件

法人版と同様に事業規模・先代経営者・後継者についても下記の主な要件を満たす必要がある。

【事業規模要件】

・法人版の従業員数と同様

【先代経営者(贈与者・被相続人)要件】

・贈与年の前々年から贈与年において、事業所得に関する青色申告書を提出している
・認定申請時までに贈与した特定事業用資産に関する事業の廃止届を提出している

【後継者(受贈者・相続人)要件】

・20歳以上で、3年以上事業に従事していた
・認定申請時までに開業の届出書を提出している
・認定申請時までに青色申告の承認を受けている
・特定事業用資産の全てを取得している

個人版事業承継税制のメリット、デメリットは?

メリットしては法人版特例措置と同様、猶予・免除の割合が100%であることが挙げられる。また、土地・建物のほかに減価償却資産を承継できる点も長所だろう。

一方で、事前の承継計画の作成・提出による認定が必要なほか、猶予期間中は3年ごとに継続届出書を提出しなければならない。

加えて、法人版と同様で時限措置である点もデメリットだ。「特定事業用宅地等」については相続税の「小規模宅地等の特例」との併用ができないため、慎重に検討したい。

なお今回お伝えした事業承継税制は、書類の作成や承継計画の実行などにあたり認定経営革新等支援機関(認定支援機関)の支援が必要となる。

税務・金融・企業財務などに関する専門家が認定されているため、制度の活用を検討する場合にぜひ相談してほしい。

文・澤田朗(フィナンシャル・プランナー、相続士)

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