プロキシーファイト
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古尾谷 裕昭
古尾谷 裕昭(ふるおや・ひろおき)
ベンチャーサポート相続税理士法人(相続サポートセンター)代表税理士。昭和50年生まれ、東京浅草出身。税理士・司法書士・弁護士・行政書士・社会保険労務士・不動産会社が在籍しているベンチャーサポートグループの中核を担う「ベンチャーサポート相続税理士法人」を率いている。相続税の申告のみならず、相続登記、相続争い、事業承継(M&A)、遺言書作成、民事信託、資料収集から不動産売却や財産コンサルティングまで様々な業務に対応している。年間の相続税申告1,000件超(令和1年度実績1,247件)であり、国内最大級の資産税チームを築き上げた。

近年、経営権を巡る敵対的買収が増えてきた。株式を買い集めて過半数の議決権を取得し、株主総会を支配する行為だ。その議決権を取得するためにプロキシーファイトが行われることがある。本記事では、プロキシーファイトについて大塚家具の事例を採り上げて解説を行う。

「プロキシーファイト」とは?

プロキシーファイトとは、株主提案を拒否する経営陣や敵対株主グループとの間で委任状を争奪する多数派工作である。具体的には、ほかの株主から委任状を集めて議決権を集約化する。

株主総会において株主が株主提案を可決させることが目的だ。プロキシーファイトが成功すれば、ほかの株主に議決権行使を同調させられるため、自ら所有する株式に係る議決権数を超えて、大きな議決権を行使できる。

そもそも株主総会において、株主は所有する株式数に応じて議決権を行使できる。ただし、会社の意思決定を支配するためには条件を超える議決権数の確保が必要だ。普通決議は議決権の過半数、特別決議は3分の2以上と定められている。

しかし、上場株式であっても過半数の株式を市場で取得することは容易ではない。TOBを実施して過半数集める手法もあるが、敵対的買収の回避を理由に対象企業から拒否されることも少なくない。

そこで、過半数の議決権を確保するために自ら株式を取得するのではなく、株主から委任状を集めて株主決議を可決または否決させる方法が浮かぶ。この際に委任状を集める行為がプロキシーファイトである。

プロキシーファイトが行われるケースは、アクティビストなどの投資ファンドによる敵対的買収であることが多い。結果として、株式が買い集められるとM&Aや非上場化を迫られることになる。

このような重要な議題は、株式総会で株主が議決権を行使して決定されるが、投資ファンドの提案については、株式総会の前に投資ファンドによる多数派工作が行われる。投資ファンドが、株主からの委任状を受け取ることによって大きな議決権が行使される。

プロキシーファイトで争奪される議決権とは

買い手側がプロキシーファイトに成功すれば、自分たちの考えに賛同している人員を取締役に送り込める。つまり、株式を小数取得するだけで経営の支配権を確保できる。

敵対的買収を仕掛けられるケースでは、対象企業ではプロキシーファイトが行われ、株主総会で議決権が集約されるのだ。

大塚家具で発生したプロキシーファイトの事例

プロキシーファイトの目的となる議題については、経営者交代であることが多い。現実にわが国においても、敵対的買収においてプロキシーファイトが実施された事例が多数ある。

大塚家具の事例が代表的だ。創業者である父親の勝久氏と長女の久美子氏が社長職を奪い合い、プロキシーファイトが生じた。ここからは大塚家具の事例について紹介しよう。

大塚家具の社長選任を巡る争いの経緯

当時、大塚家具の株式は、勝久氏が350万株(18.04%)を保有し、妻の千代子氏と合わせて19.95%の議決権比率を確保していた。

一方、大塚一族の資産管理会社である「ききょう企画」は、2008年に勝久氏から大塚家具の株式130万株の譲渡を受け、千代子氏が10%、兄弟姉妹が各18%を所有していた。

その後、親子対立の結果、「ききょう企画」の株主の多数派は久美子氏が支配することになり、大塚家具の株式189万株(9.75%)を握ることになった。

2014年7月、いったん社長から退任して平取締役となっていた勝久氏は、自身のビジネスモデルを否定されたと感じたのか、新社長久美子氏による方向転換を認めず、久美子氏を解任して自ら社長に復帰した。

会社の業績はさらに悪化し、2014年12月期には▲5億円の営業赤字に転落した。その後、勝久氏と久美子氏は会社の方針について激しく対立する。

2015年に入り、業績の大幅な悪化に強い危機感を抱いた社外取締役が要望書を提出。社外取締役の一人が親子喧嘩に耐えかねて辞任する。

要望書の内容は下記のとおりだ。

(1)現体制による経営方針の速やかな策定
(2)コンプライアンス体制の強化、適切な人事
(3)IR体制の強化、株主に対する適切な対応
(4)予算・事業計画の適時の策定
(5)社長による経営判断の合理性の確保、適切な説明
(6)取締役会において健全な議論を行えるようにする

「社員は子ども」と言い切る勝久氏にとって、大塚家具はまさに「自分の会社」、すなわち、個人商店であった。それに対して久美子氏は、大塚家具は株式公開した以上、いつまでも大塚一族の会社であってはならないと考え、適切なガバナンス体制を実現すべきと主張していた。

ガバナンスを巡るトラブルを契機に、かねてより勝久氏側に付いていた取締役佐野氏が、妻である三女智子氏からの説得によって久美子氏側に寝返った。

結果、取締役会の支配関係が180度変わり、2015年1月の臨時取締役会は4対3の多数決で、久美子氏の社長復帰を決議した。

大塚家具におけるプロキシーファイトの実施

社長を解任された勝久氏は、その直後の株主総会に「株主提案(会社法303条)」を行い、勝久氏を中心とする取締役構成に入れ替えることを提案するとともに、一般株主から委任状を集めだした。

これに対して、久美子氏は会社提案として現状の久美子氏を中心とする取締役構成を維持。勝久氏(及び勝之氏)を取締役に選任しない議案を上程した。大塚家具の委任状を争奪するプロキシーファイトが始まったのである。

株主総会の会場で個人株主は、「会社は一族のものではない」と同族経営に対する批判の声を放った。

しかし、株主の一人として出席した勝久氏は、「自分が社長になれば黄金時代に戻せる、会社を存続させることができるのは自分しかいない。株主さまには、それをわかって判断していただきたい。」と主張する。

結果、久美子氏側の会社提案が株主総会で61%の賛成を獲得。勝久氏側の株主提案は36%にとどまり、久美子氏の勝利となった。

プロキシーファイトにおいて賛成に回ったのは、日本生命、東京海上日動火災、三井住友銀行(3社合計で16%)、そして、直近に市場から株式を買い増しした投資ファンドの米ブランデス・インベストメント・パートナーズ(10%)であった。

大塚家具におけるプロキシーファイトの結末

委任状争奪戦が発生した大塚家具の株主総会において、機関投資家が勝久氏側の株主提案に賛成するには相応の説明責任を負うことになる。

現実的ではないため、機関投資家は久美子氏側の会社提案に賛成するしか選択肢がなかった。

その点、機関投資家に議決権行使の助言をするアドバイザリー会社は、以下のようなプレスリリースを出している。

「久美子氏側の中期経営計画は、当社のビジネスモデルの弱点や国内家具市場の変化に対応できるよう、十分な根拠にもとづき構築されていると結論づけています。これに対して、勝久氏側の株主提案は適切な反論や根拠を示せておらず、当社の中期経営計画以上に望ましい結果をもたらす合理的な可能性を示していないと評価しています。」

そもそも事業に携わっていない機関投資家が経営の将来を予測することは難しい。久美子氏と勝久氏のどちらが正しいのかは、実際の経営成果が明らかになるまでわからないだろう。

この点、久美子氏は、理路整然と経営分析を行い、コーポレートガバナンスの必要性を声高に主張したのに対し、勝久氏は何ら根拠を示すことができず個人経営に戻ることを主張した。

結果、機関投資家は善管注意義務を履行し、委託者に対する責任を果たすため、久美子氏を支持したと考えられる。

大塚家具のプロキシーファイトから考えるコーポレートガバナンス

久美子氏は、大塚家具のガバナンス体制を、創業者中心のワンマン体制から株式公開企業に相応しいガバナンス体制(社外取締役が機能する組織)に変更しようとして、プロキシーファイトを開始した。

当時、外国人投資家からの対日投資を呼びかけてきた安倍首相も「社外取締役の導入促進」を政策として掲げていた。

内部から昇格した部下では社長に厳しいことは何ひとつ言えないだろう。しかし、外部から招聘された社外取締役であれば社長に遠慮なく進言でき、社長が権限を独り占めにすることを防げる。

また、2014年に安倍首相は、機関投資家をコーポレートガバナンスに深く参画させるため、「スチュワードシップ・コード」を導入した。

スチュワードシップ・コードとは、上場企業の株式を保有する機関投資家の行動規範である。運用委託者の利益最大化を図るために、投資先の上場企業の経営者に影響力を与える役割を果たすべきだという考え方にもとづく。

これまで、生命保険会社など日本の機関投資家は、「物言わぬ株主」として株主総会において何も発言していなかった。

しかし、スチュワードシップ・コードの導入によって、日本の機関投資家も議決権行使を行って、明確な意思表示を迫られるようになった。資金を預かる保険契約者への背信行為と見られるからである。

結果、日本の機関投資家の多くは、2014年に導入されたスチュワードシップ・コードを受け入れ、年金委託者など資金拠出者の利益を優先せざるを得なくなった。

文・古尾谷 裕昭(税理士)