※M&A実行当時の情報
譲渡企業情報 | 譲受け企業情報 |
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社名:株式会社宮本運輸(北海道) 事業内容:貨物自動車運送業、クレーンリース業 売上高:約3.7億円(2023年3月期)/社員数:37名(2022年9月時点) |
社名:北海道トナミ運輸株式会社(北海道) 事業内容:運送事業、普通倉庫業 売上高:約50億円(2023年3月期) /社員数:323名(2023年3月時点) |
北海道深川市に本社を置く宮本運輸の宮本 康弘社長は、長らく人材不足の課題を抱えていました。このままでは事業が継続できないところまで事態が深刻化し、採用力のある会社への譲渡を決意。2023年6月に北海道トナミ運輸(北海道札幌市)に株式譲渡しました。譲渡から半年、早速採用に成功しM&Aの効果を実感されている宮本社長(上記写真)にお話を伺いました。(取材日:2023年11月28日)
この状況のままでは事業が続けられないと、息子への承継も断念
――はじめに宮本運輸の事業内容についてご紹介ください。
譲渡企業 宮本運輸 宮本様: 原木の輸送とクレーンのレンタルを事業の柱にしております。売上比率としては2/3が運送事業、1/3がクレーン事業という割合です。
会社は私の父親がトラック1台から始めました。最初は北宝運輸という運送会社の深川営業所として仕事を始め、数年後に宮本運輸として創業したそうです。 事業を続ける中では苦労もあったようで、運送の仕事が激減した時は大変だったと聞きました。その時はちょうど近くで高速道路の建設工事が盛んに行われていて、クレーンの受注が激増したそうで、「もしクレーンの事業をしていなかったら会社がどうなっていたかわからない」と言っていましたね。
私は大学卒業後、別の会社に就職しましたが1987年に宮本運輸に入社して、2003年に父の後を継いで代表取締役社長に就任しました。
――今回、どのような経緯でM&Aを決意されましたか。
宮本様:人材不足の課題を抱えていたからです。ここ深川市は人口約2万人で過疎化が進む地域です。募集しても人が集まらないんです。一番多い時には60名近い従業員がいた当社も現在は37名ほどで、平均年齢は50代後半です。特にドライバーの高齢化は深刻で50代、60代ともに4割。定年が60歳だったのを65歳まで引き上げ、70歳くらいまで働けるようにはしましたが、その頃まで働いてくれるかはわかりません。このままではいよいよ事業を続けていけなくなるというところまで来ていました。
数年前から金融機関や仲介会社などからM&Aの提案はありました。「採用力のある会社と一緒になってはどうですか」と。その言葉がずっと頭にはあったのですが、もういよいよ考えなければいけないと思い、具体的に検討することにしました。
――後継者についてはどのようなお考えでしたか。
宮本様: 息子が一人おり、生まれた時には将来的に3代目にと思っていましたが、こんな状況下で継がせることはできません。2022年に就職の時期を迎えた時には「自分の好きにしなさい」と伝えました。人の課題がなければある程度経って呼び戻すこともできるかもしれませんが、呼び戻した後に会社が立ち行かなくなったらと思うと、私は責任が取れない。そうした考えもあってM&Aの話を進める決断をしました。
従業員の待遇は変えない。条件にこだわったからこそ、M&A後の動揺もなかった
――2022年7月に日本M&Aセンターと提携仲介契約を締結しました。どんな条件提示をされましたか。
宮本様: 一番は採用力のある会社であることです。ほかには宮本運輸という社名を変えないこと、従業員の待遇を変えないことなどを条件に挙げました。
――そうした条件を踏まえてマッチングを進める中で北海道トナミ運輸から意向表明がありました。2023年3月にトップ面談に臨まれましたね。印象はいかがでしたか。
宮本様: 北海道トナミ運輸は5社のグループからなる札幌市の運送会社で、2017年に北宝運輸がグループインしています。現在はさまざまな荷物を運んでいますが、当社と同じ木材の輸送をしていた北宝運輸の名前があったことで、当社の事業にも理解があるだろうと少し安心しました。クレーン事業でもいいのですが、当社の事業のいずれかに理解のある会社がいいとは思っていました。
トップ面談で石田 裕司社長とお会いしましたが、そこでの印象も良かったですね。M&Aで現在のグループ企業に成長させたのも石田社長だと聞きました。年齢も40代半ばで、若くて経営感覚の優れた方だなと思いました。
――3月のトップ面談後、5月に基本合意、6月に成約とスムーズに話が進みましたね。
宮本様: ええ、自分でも想像した以上にスムーズに話が進みました。
――従業員開示での反応はいかがでしたか。
宮本様: 全従業員を集めて発表しましたが、特に動揺する様子もありませんでした。というのも、相手企業を決める条件の一つに従業員の待遇維持を入れていましたから受け入れてくれるだろうと思っていました。逆に従業員の働く環境が変わるような条件はのめませんでしたから、話も進めなかったでしょうね。
それに、石田社長とM&A後の体制について話し合う中で取締役社長として残ることにもなりましたので、「オーナーが変わるだけで、それ以外に働く環境は何も変わりません」と最初に伝えたのも良かったのだと思います。
わずか半年で採用に成功。グループ企業の取締役に就任し、連携による事業シナジーも期待
――成約から半年ほどが経ちました。どんな変化を感じておられますか。
宮本様:求人の面では早速効果を感じています。グループ内の別の会社に応募してきた方を当社に紹介いただく流れができています。先日も北宝運輸に応募してきた女性が木材の積み込みをする機械を運転できる方だったんです。北宝運輸ではそのポジションは人が足りているということだったので本人に確認して宮本運輸で採用しました。即戦力としてすでに現場で活躍してもらっています。
また、北宝運輸と連携してお互いの荷物を運ぶ体制にする動きも始まっています。木材の運搬は山から指定の場所に運ぶのですが、納品場所が毎回変わるため帰りに別の荷物を運んでくるということがなかなかできません。北宝運輸でも同じ課題を抱えていたので、当社が帰りに北宝運輸の荷物を運ぶことができれば効率化が図れます。これはM&A検討時から考えていたことですので、今後の本格的な運用に期待しています。
――順調にPMI(M&A後の統合プロセス)を進めていらっしゃるんですね。
宮本様: 事務処理の流れを北海道トナミ運輸に合わせていく作業が少し大変にはなりました。前月の試算表を当月の半ばくらいまでに作らなければならないのですが、木材の輸送事業はお客様から精算書が来ないと実際の荷物量がわからないんです。会社によって締めがバラバラなのでこのスケジュールでは厳しいなと思いました。それを北宝運輸の方に話したら「うちも最初はそうだった」と。そこで精算書を早めにもらえるようにお願いしたと聞いて、当社でも早めに出してもらえるようにしました。結果的に事務処理が楽になりましたね。
――先にグループインされている北宝運輸の存在は心強いですね。
宮本様: そうですね。実は、北宝運輸の取締役にもなりました。現在は毎月、宮本運輸と北宝運輸で一緒に経営会議を行っています。先日は北宝運輸で起きた事故についての状況説明があったのですが、そのトラックにはドライブレコーダーがついていなかったんです。宮本運輸では全車でドライブレコーダーやデジタルタコグラフを取り付けているので、北宝運輸での導入を提案しました。役員になったことでお互いの情報を共有できるので、多少は私も役に立てているのかなと思います(笑)。
――今回のM&Aを振り返って率直なお気持ちを聞かせてください。
宮本様: いい決断だったと思います。いよいよ北海道トナミ運輸と話がまとまるという時に、あらためて父親にも伝えました。「このままいけば働き手がいなくなって宮本運輸はなくなる。これは宮本運輸を宮本運輸として残すための決断だよ」と。それは理解してくれたと思います。
実は、あと6年で設立50年になるんです。そこまではいないといけないなと思いますね。
北海道営業所 シニアチーフ 久米 徹