創業3年の新興土木建設会社 初年度売上高比2.7倍に拡大 「今の時代、ICTなしには商売はできない」 NS(長野県)

目次

  1. 社長への信頼が顧客紹介の輪を広げ、業績押し上げる
  2. 建築バブルの飯田市で農転処理含めた責任施工に高い評価
  3. 2024年5月から飯田市、6月には長野県の公共工事入札にも参加
  4. 「ICTなしで商売にはならない」 各種ICT装備で事業をスタート 新会社発足と同時に、クラウド工事台帳、土木積算システム、紙図面やPDF図面のCAD変換ソフト、建設業向け勤怠管理を導入
  5. 手作業で1週間かかる積算業務は1日に大幅短縮
  6. 従来なら1日仕事のPDF図面書き直しもCAD変換ソフトで対応
  7. 官公庁の競争入札にらみデジタル化 ホームページの情報発信で人手不足対策
  8. 事務所に猫がいる「風通しの良い会社」目指す
  9. 「土木は経験工学」 人間とICTの最適融合で高効率、高品質な工事を
中小企業応援サイト 編集部
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長野県飯田市に本社を置く株式会社NS(エヌエス)は、2021年5月創業の新興土木建設会社である。飯田市の土建会社で副社長を務めていた北澤泰美代表取締役が独立して設立、その後3年間で売上高を初年度実績に比べて約2.7倍に増やすなど業績は順調だ。業界をよく知る北澤社長の人脈と、「今の時代、ICTなしには商売はできない」として、クラウド工事台帳や土木積算システムなど土建業に必要と思われるICTシステムをひと通り設立時に導入し、業務の効率化を図ったことが事業の拡大を支えている。(TOP写真:1週間の作業を1日に短縮した積算システム)

社長への信頼が顧客紹介の輪を広げ、業績押し上げる

創業3年の新興土木建設会社 初年度売上高比2.7倍に拡大 「今の時代、ICTなしには商売はできない」 NS(長野県)
NSのコーポレートロゴマーク

「『N』は北(North:ノース)、『S』は澤(Stream:ストリーム)の英語表記の頭文字だが、ストリームには『繁栄』の意味もあるというので、『NS』にした」と北澤社長は社名の由来を説明する。会社立ち上げからの3年間は、社名に込めた思いが業績に反映されてきたといえる。

2022年4月期の初年度は、北澤社長との関係が深かった顧客を独立前の会社から引き継いだため、売上高は1億5000万円だった。2年目からは「昔からのつながりで、お客さんからの紹介をいただき、その紹介の輪が広がって売上が伸びてきた」(北澤社長)という。正に北澤社長の人脈をベースに、社長の技術と人柄に対する高い信頼が業績を後押しした結果だ。

社員も前の会社から4人が北澤社長を慕ってNSに移った。その後は社員の知り合いを中心に技術職と技能職は合計14人に増えた。「ハローワークなどに頼ったことはない。『友が友を呼ぶ』みたいに現場経験者が集まった。社員の知り合いなので、信用できる人材ばかりで現場のまとまりもいい」と、北澤社長は人と人とのつながりの重要性を強調する。

建築バブルの飯田市で農転処理含めた責任施工に高い評価

創業3年の新興土木建設会社 初年度売上高比2.7倍に拡大 「今の時代、ICTなしには商売はできない」 NS(長野県)
「自前主義の責任施工が強み」と語る北澤泰美社長

飯田市はリニア中央新幹線の駅が設置されるため、新設されるリニアの駅周辺を中心にちょっとした建築バブル状態にある。農地を転用して住宅や店舗などを建設するケースが増えているが、農地転用許可申請は複雑で手間がかかる。すべてを司法書士に任せればそれなりのコストもかかる。

「今は責任施工といって、設計からのすべてを元請けから求められることが多い。飯田市では農地転換処理をしてから開発することが多いため、当社は土地の取得交渉から農地転換、開発を、営業活動の中で一貫して対応している。農地転用処理で最後の登記のところは司法書士にお願いするが、それ以外は書類の作成も含めて利用・販売できる土地に整備するまでのすべてを引き受けている」(北澤社長)

リニア効果での建築バブルという追い風が吹いているにしても、責任施工に対応できる能力が高い評価となり、取引先からの紹介の輪が広がって受注を増やしてきた。

社員数16人で営業とCAD操作をこなす社長と技術職1人、事務職2人を除く現場技能職は12人になる。同社の規模で12人もの現場技能職社員を抱えている土建会社は少ない。それでもNSが自前の社員でほとんどの現場作業をこなしているのは、信用を重視しているからだ。この自前主義での責任施工能力が大きな強みになっている。

2024年5月から飯田市、6月には長野県の公共工事入札にも参加

この3年間の事業は、店舗や分譲住宅、個人・集合住宅など民間事業を主体にしてきた。しかし、2024年4月までに長野県と飯田市の競争入札参加資格の取得が確定し、5月から飯田市の競争入札に参加、6月には長野県の入札にも参加できる見込みだ。

「県や市の競争入札に参加できるようになってもすぐに仕事を受注できるかわからないが、受注できれば案件の規模も大きく、年間の仕事が読めるようになり、経営が安定するメリットがある」(北澤社長)と期待する。NSは公共事業を加えて、バランスの取れた経営を目指す考えだ。

「ICTなしで商売にはならない」 各種ICT装備で事業をスタート 新会社発足と同時に、クラウド工事台帳、土木積算システム、紙図面やPDF図面のCAD変換ソフト、建設業向け勤怠管理を導入

短期間での業績拡大にICTソフトが果たした役割は大きい。「今や手書きでどうのという時代ではない。ICTなしでは商売にならない」。土建業の実態を熟知していた北澤社長は、新会社発足と同時に、クラウド工事台帳、土木積算システム、紙図面やPDF図面のCAD変換ソフト、建設業向け勤怠管理を導入し、業務を効率化してきた。

工事台帳は建設業向け管理機能とグループウェア機能を持っており、複数の現場で進行している工事の進捗状況をWeb上で確認できるし、進捗度合を社内で共有化できる。日報作成や見積作成、実行予算、スケジュール管理などを一元管理できるため、確認作業時間を大幅に短縮し、管理業務を効率化した。

手作業で1週間かかる積算業務は1日に大幅短縮

積算業務の効率化効果は大きい。積算では建設資材の標準単価を知らないとどうにもならない。単価を調べる手間が煩雑だったが、積算システムでは複数の建設物価資料の単価を利用できる。

このため「積算システムがなければ、国土交通省が出している分厚い単価資料を繰りながらの作成に平気で1週間はかかっていた。それがこのシステムを使えば1日でできる」(北澤社長)というから驚きだ。

さらに北澤社長は、「適正利益を確保することを考えれば、積算システムがないと勝負にならない」とまで断言する。

従来なら1日仕事のPDF図面書き直しもCAD変換ソフトで対応

創業3年の新興土木建設会社 初年度売上高比2.7倍に拡大 「今の時代、ICTなしには商売はできない」 NS(長野県)
PDF図面をCAD変換システムでCAD図面に変え修正を加え複合機で出力。この作業があっという間にできる

紙図面やPDF図面のCAD変換ソフトも、なくてはならないソフトだ。多くの図面はPDFで渡されるが、PDF図面では正確性に欠ける。PDF図面を正確に書き直してから見直しの提案などをすることになる。しかし、書き直しは1日仕事で手間がかかる。それが変換ソフトでCADデータに変換、修正を加えて複合機から正確なCAD図面を即取り出せる。

「当社はCADに変換できるので元請けも任せてくれるから、信頼関係を築ける。正確な図面で工事品質も高まるし、工事の改善提案も可能になり、受注工事の付加価値向上にもつながる」(北澤社長)。最初のソフトは多少使い勝手に問題があり、その後バージョンアップした。今やCAD変換ソフトはNSの大きな武器になっており、今後は3Dソフトの導入も検討する。

官公庁の競争入札にらみデジタル化 ホームページの情報発信で人手不足対策

創業3年の新興土木建設会社 初年度売上高比2.7倍に拡大 「今の時代、ICTなしには商売はできない」 NS(長野県)
法規制に対応した勤怠管理システムを操作

勤怠管理システムを導入し2024年4月の労働基準法改正に対応する態勢を整えた。こうしたICTシステムは、事業規模の拡大を大幅な業務効率化で支えてきたのはもちろん、2024年5月から始まった官公庁入札への参加をにらんだ対応だ。

「民間の工事だけでやっていくのなら、ICTがどうしても必要だとは思わなかったかもしれない。会社設立時から公共工事の入札への参加を考えていたためデジタル対応が不可欠だと思った」と、北澤社長は2021年の創業時を振り返る。

官公庁の競争入札では、急速にデジタル化が進んでおり、デジタル化なしでは入札に参加できない自治体なども多い。「長野県の入札はすでにデジタル化されているし、飯田市も2024年10月からデジタルに変わる」(北澤社長)ため、官公庁入札にデジタル化は必須になっており、設立当初から入札参加を見据えたICT化を進めてきたという。

2024年5月にはホームページを立ち上げた。土建業界全体が人手不足に直面する中で、将来の人材採用を念頭に置いた情報発信が狙いだ。

創業3年の新興土木建設会社 初年度売上高比2.7倍に拡大 「今の時代、ICTなしには商売はできない」 NS(長野県)
創業3年の新興土木建設会社 初年度売上高比2.7倍に拡大 「今の時代、ICTなしには商売はできない」 NS(長野県)
人材採用を重視したホームページ

事務所に猫がいる「風通しの良い会社」目指す

創業3年の新興土木建設会社 初年度売上高比2.7倍に拡大 「今の時代、ICTなしには商売はできない」 NS(長野県)
事務所のマスコット猫を抱く北澤泰美社長

NSには、マスコットとして3匹の猫がいる。北澤社長が世話する10匹の保護猫のうちの3匹で、「『猫をかわいがる会社』というイメージをつくりたい」と話す。目指すのは「風通しの良い会社」で、社員には「報(ほう)、連(れん)、相(そう)」の重要性を訴える。「報告、連絡、相談を怠ると、ちょっとしたことでも大事につながる」(北澤社長)ことになりかねないからだ。

「社員が笑って暮らせるのが大事。社員の皆と一緒に楽しみも、苦しみも分け合って成長していく」。北澤社長の経営者としての一番の思いだ。そのためには、「背伸びするつもりはないが、ある程度の事業基盤はつくっておきたい」と話す。

「土木は経験工学」 人間とICTの最適融合で高効率、高品質な工事を

創業3年の新興土木建設会社 初年度売上高比2.7倍に拡大 「今の時代、ICTなしには商売はできない」 NS(長野県)
NSの本社エントランス

「土木は経験工学的な部分がある」。北澤社長の持論だ。「過去の工事を自分の中でフィードバックして、効率化できることがあれば効率化し、品質向上に努力する」のは、ICT時代にあっても人間の仕事だ。土建業においてICTの活用は必須であり、事業に欠かせないのは確かで、デジタル時代が進めばその比重は高まる。しかし、ICTだけに任せていても高い品質の工事は完工しない。

「将来は大きな仕事も受注し、人間とICTを最適に組み合わせて効率的に高品質な工事を可能にする体制を整備したい」。北澤社長はNSの明日を見つめている。

企業概要

会社名株式会社NS
本社長野県飯田市白山通り3丁目350
HPhttps://ns05.co.jp/
電話0265-48-0663
設立2021年5月
従業員数16人
事業内容店舗、住宅、分譲住宅などの用地造成・外構工事、公共土木工事など