調印式の様子 今回ご紹介するプロジェクトTの調印式の様子(左から、ダイナパック株式会社 代表取締役社長 齊藤 光次氏、VIETNAM TKT PLASTIC PACKAGING JOINT STOCK COMPANY CEO Tran Minh Vu氏)

私はベトナムの優良企業が日本の戦略的パートナーとのM&Aを通じて持続的に発展することを支援するために2022年にNihon M&A Center Vietnamへ入社しました。当社へ入社する前はGrant Thornton VietnamでM&Aアドバイザリーアナリストを2年間経験しました。

昨年、成約したプロジェクトTについて、いくつかの考察を共有したいと思います。前提としてベトナムでM&Aを検討する場合、通常、友好的なM&Aが行われます。ベトナムでは(M&Aを行う際、政府の承認が必要なため)敵対的買収は非常にまれであり、ましてやホワイトナイトによる防衛などを使うことはあまりありません。

ホワイトナイトとは、企業が非友好的に買収されそうになった時に、友好的な個人や企業が公正な対価で企業を買収する敵対的買収防衛策です。非友好的な買い手のことを一般的にブラックナイトと呼びます。株式譲渡後も経営に関わる企業オーナーは、敵対的買収よりもホワイトナイトによる買収を好みます。現経営陣は通常、ホワイトナイトの支援で経営を継続し、投資家はより良い価格で株式を譲受します。

プロジェクトTの対象会社はCEOとその親しい友人である他の株主によって2013年に設立されました。 それ以来、CEOは専ら日常業務を管理しています。2013年に小さな会社としてスタートしたにもかかわらず、過去10年間継続して会社を2桁成長と10%以上のEBITDAマージンを達成しました。そして、彼の会社はベトナムの軟包装業界でTOP10に入ると共に業界でトップレベルに収益性の高い会社に成長しました。一方で他の株主は異なる事業も所有していたため、最終的には、(それぞれ)自社の事業運営に集中するために、(株主の総意で)できるだけ早く会社を譲渡するというコンセンサスに達しました。

対象会社はベトナムの軟包装業界で残っている数少ない内資企業でした。この業界のほとんどの企業はタイまたは日本の企業に買収されています。この環境から、対象会社はFDI企業にとって魅力的なターゲットとなりました。対象会社は、タイ、米国、欧州の事業会社やファイナンシャルファンドなど、世界中の多数の買主からアプローチを受けていました。

CEOは株主の利益をできるだけ早く最大化するために売却を行う必要があり、他方では、会社を業界のリーダーに育てるという情熱を分かち合える信頼できる戦略的パートナーを見つけなければならないため、大きなプレッシャーにさらされていました。(そのような状況の中で)日本の企業がホワイトナイトとして現れ、対象会社をこの状況から救いました。この企業は日本有数の段ボールメーカーでしたが、対象会社とは関連業種であるものの製品が異なり相乗効果が限られているように見えました。しかし、彼らはベトナムでの既存製造拠点と過去のクロスボーダーM&Aの経験から、対象会社の販売ネットワークを利用して自社製品をクロスセルできると考えていました。また、(ビジネススタンスにおいても)CEOの話に共感し、長期的なパートナーになりたいと心から思っていました。その結果、取引を推進し、CEOをジレンマから救い出すために迅速かつ断固とした行動をとりました。この譲受け企業との誠実な会話を通じて、CEOは日本の労働文化に対する認識を深め、信頼できるパートナーの参加があれば会社を発展させることが出来ると確信したのです。

「ホワイトナイト」と取引を実際に経験することは私にとって非常に魅力的で珍しい出来事であり、一生に一度の経験になるかもしれません。既成概念にとらわれずに大胆に考えた日本のコンサルタントチームの創造的なマッチング スキルのおかげで、私たちは同じ成長ビジョンを持つ 2 社の橋渡しをすることができました。 ベトナムでは、経営者の年齢がまだ若いため、M&Aを通じて対象企業の適切な後継者を見つけることは最優先事項ではありません。 私の意見では、M&Aはベトナム企業にとって最も困難な障害を克服し、持続可能な発展に向けて移行するためのツールとして機能します。

日本語訳:黒沢 健吾(原文は下記)

本投稿は、プロジェクトTの譲受企業であるダイナパック株式会社、譲渡企業であるVIETNAM TKT PLASTIC PACKAGING JOINT STOCK COMPANYの双方に承諾を得たうえで、執筆、公開させていただきました。

以下原文