相続財産の中に建物がある場合、それについても適正に評価して、相続税を申告する必要があります。
建物の評価自体は土地ほど難しいものではありません。
ただ、土地の場合は登記がない土地というものは基本的に考え難いのですが、建物については必ずしも建物を建築したときに登記しなければならないと義務づけられていないため、未登記建物が存在しうるなど、建物独自の問題があります。
この記事では、そのような建物について相続手続きを進める際に、どのような書類が必要なのかについて、確認していきたいと思います。
相続財産の中に建物がある場合の必要書類チェックリスト
最初に、相続財産の中に建物がある場合に必要となる書類のリストを掲げておきます。
そのうえで、それぞれの書類について具体的に見ていくことにしましょう。
書類名 | 取得方法 | 備考 |
権利証 (登記済証、登記識別情報通知) | 建物について登記をした場合、登記完了時に法務局から交付されます。通常は所有者が保管しています。 | 紛失していた場合でも再発行はできませんので、なければ仕方ありません。 |
固定資産税課税明細書 | 毎年、市区町村役場等から固定資産税の納付関係の書類とともに送付されてきているはずです。 | |
名寄帳 | 市区町村役場(東京都の場合は都税事務所)において申請して取得します | 市区町村毎の発行となりますので所有不動産があると思われる市区町村全てにあたる必要があります。 |
登記事項証明書 | 法務局で「登記事項証明書交付申請書」を提出して取得します。 | 全部事項証明書を取得します。 なお、未登記不動産もありうるため、登記事項証明書を確認したから大丈夫というわけではありません。未登記不動産の可能性も含めて調査が必要です。 |
公図・ブルーマップ・住宅地図 | ・公図は法務局で取得します。 ・ブルーマップ、住宅地図は株式会社ゼンリンが発行しているものです。購入することも可能ですが、基本的には該当箇所だけを図書館で複写するか、インターネットで取得することができます。 | |
固定資産税評価証明書 | 市区町村役場(東京都の場合は都税事務所)において申請して取得します。 | |
建物図面・平面図 | 法務局で申請します。 | |
建築計画概要書 | 建物を建築した際に建築確認申請をしたときの書類です。基本的には建築した人または所有者が保管しているのが一般的です。 ただ、紛失している場合には市区町村役場で閲覧・謄写する事ができます。 | 市区町村役場での謄写には費用がかかります。 |
建築工事請負契約書 | 建物の建築を依頼したときの請負契約書です。これも基本的には注文者等において保管しているのが一般的です。 | |
売買契約書・重要事項説明書 | 建物を「売買」によって取得した場合の契約書およびその仕様等についての説明書面で、これも所有者が保管しているのが一般的でしょう。 |
所有建物の確認
所有建物の把握
相続財産に含まれる建物を評価して、相続手続きを進めるには、まず、被相続人が所有していた不動産を確認して、その相続財産を確定させる必要があります。
その際に、注意しなければならないことは、建物については必ずしも登記されているとは限らないということです。
土地の場合には、通常、新たに土地が生じるということはないため、一般論としては全ての土地について登記があると考えられます。
これに対して、建物の場合には、建物を建築等したにもかかわらずあえて所有権保存登記を行っていない物件が存在しうるのです。
①権利証(登記済証、登記識別情報通知書)
建物を建築等した場合に所有権保存登記をしたり、また、購入した場合に所有権移転登記を行うと法務局から所有者となった者に対して交付されます。
従来は登記済証という書面でしたが、近年では登記事務がコンピューター化されたため、登記識別情報通知が発行される形がとられています。
登記済証は、登記手続きが完了したことを登記申請者に通知するものですから、それ自体が権利を証明するものではありませんが、所有建物を調査する上での資料となりますので、相続手続きを進めるうえではその存在を確認しておくべきです。
②固定資産税課税明細書
固定資産税課税明細書は、市区町村から建物所有者に対して、固定資産税を知らせるために毎年送付される書類です。
基本的に、その人が当該市区町村内で所有している不動産が一覧表示されています。
したがって、被相続人の所有していた不動産を確認するうえでは非常に重要な資料になります。
ただし、あくまでも不動産の固定資産税に関する書類ですので、固定資産税がかからない建物についてはこの明細書歯発行されません。
具体的には、建物の評価額が免税点以下の場合には、そもそも固定資産税が発生しないので固定資産税課税明細書も発行されないわけです。
一方、所有権保存登記がなされていない建物でも、固定資産税が課税される場合には固定資産税課税明細書が通知されることになります。
その意味では、固定資産税課税明細書は未登記の建物を探す有力な資料になるといえます。
③名寄帳
名寄帳とは、課税対象となっている土地・建物を、所有者ごとに一覧表にしたものです。
被相続人名での名寄帳を取り寄せることで、被相続人が所有していた不動産の一覧を確認できます。
また、名寄帳では、評価額が免税点以下であるために固定資産税課税明細書が発行されなかった場合でも、リスト化されていますので、その所有する不動産を確認するための重要な資料になります。
ただし、名寄帳は市区町村単位で作成されるため、被相続人を課税義務者とする不動産があるか否かについては、各市区町村に依頼して、名寄帳を発行してもらう必要があります。
例えば、被相続人が居住していた市区町村や、その周辺の市区町村で、被相続人が不動産を所有していたのではないかと疑われる市区町村に対して、全て名寄帳を申請してみる必要があります。
④登記事項証明書
登記された不動産については、登記事項証明書を取得して、現在の権利関係を確認することになります。
権利証は、過去に所有者として登記をしたことの証明にはなっても、相続開始時にもその所有者であったことの証明にはなりません。
また、名寄帳なども、一定時点での所有関係に基づいて作成されるため、その後に権利が変動している可能性があります。
ですから、登記された不動産については、登記事項証明書で、相続開始時点における所有者を確認する必要があります。
⑤公図・ブルーマップ・住宅地図
登記事項証明書における所在地表示は地番表示となっているため、通常の住所(住居表示)とは異なっている場合があります。
そこで、登記事項証明書等に記載された物件が具体的にどれにあたるかを照合する必要があります。
そのためには、公図によってその敷地の正確な形状等を確認するとともにブルーマップで地番と住居表示を照合し、さらに、住宅地図で具体的な場所を確認して特定する必要があります。
評価のための資料
①固定資産税評価証明書
建物の評価額は、固定資産税評価額とされています。したがって、その評価額の資料として固定資産税評価証明書が必要となります。
固定資産税評価額は固定資産税課税明細書にも記載されていますが、これはあくまでも通知書であって正式な証明書ではないため、最終的な手続き等においては固定資産税評価証明書が必要となります。
あらかじめ取得しておくべきでしょう。
②建物図面・平面図
建物が土地上のどの位置に存在しているか、また、建物の形状などを示す図面です。
通常、建物図面と平面図は一体となっています。
これは建物の現況を確認するために必要な書類です。
時として、建物が他の土地にもまたがっていることが判明したり、他の土地の借地権の範囲などを確認するうえでも必要になることがあります。
③賃貸借契約書
建物を第三者に賃貸している場合には、それによって、建物の評価額が変わってきます。
したがって、賃貸借契約を締結している場合などには、それもきちんとそろえておく必要があります。
その他
①建築計画概要書・建築工事請負契約書
②売買契約書・重要事項説明書
これらは、当該建物を建築したり、購入したりした場合の書類です。
その建物の使用や権利関係などが詳細に記録されている資料です。
これらは、通常、所有者が保有していると考えられます。
ただ、紛失していた場合などには、建築計画概要書については、市区町村役場で閲覧・複写できます。
まとめ
以上、相続税の申告納付や、その他の相続関係の手続きを行う際に、建物に関して必要な書類について見てきました。
建物の場合には、すでに何度も述べたとおり、未登記の場合があるため、それを含めて調査するのは非常に大変な仕事となります。
被相続人が亡くなってから調査しようとしても分からないことが多いと思われます。
その結果、被相続人の所有不動産を見落として過少申告といったことにならないように、被相続人の所有建物の確認は慎重かつ徹底して行う必要があります。
そして、可能であれば、被相続人の存命中にそれらの資産について目録を作ってもらうなどの対応が好ましいといえます。
(提供:相続サポートセンター)