財産を相続すると相続税がかかる……という認識は、たいていの方がお持ちだと思います。
しかし、漠然とした知識しかないと、いざ相続が始まった時に大変な思いをするかもしれません。
基本的な知識を頭に入れ、あらかじめ現在のご自分の状況と照らし合わせておくようにしましょう。
基本的な知識さえあれば、実際の相続時に状況が変化していても知識ゼロから始めるのとは大違いです。
相続税とは?
相続税とは、亡くなった人が遺した財産を引き継いだ人に対し、相続した額に応じて課税される税金のことです。
亡くなった人のことを「被相続人」といい、被相続人の財産を相続することができる一定の親族を「相続人」といいます。
被相続人の財産は相続人だけでなく、一定の要件を満たせば親族以外の者も受け取ることができ、その場合は「受遺者」と呼ばれます。
日本で相続税制度が始まったのは1905年ですから、実に100年以上の歴史を持っています。
相続税を徴収することとした目的は、税収の確保がもちろん一番ですが、「富の再分配」という目的もありました。
すなわち亡くなった人が莫大な財産を持っていた場合、そこに課税することで富の一か所集中をなくし、国民間の経済的な格差を是正しようということです。
現在では、高齢化社会に伴い、高齢者に必要とされる社会保障費を調達するという側面も持ち合わせるとされています(平成24年「税制抜本改革法附則」より)。
全ての相続に相続税がかかるのではない……「基礎控除」について
そもそも相続税制度が作られた目的を考えればお分かりのように、全ての亡くなった方の財産が課税の対象になるのではありません。
一定程度以上の財産を遺した場合のみです。
この「一定程度」の基準となるのが基礎控除額と呼ばれるものです。
基礎控除額の計算方法は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。
たとえば被相続人に配偶者と子供2人がいた場合、被相続人の遺した財産が3,000万円+600万円×3=4,800万円以下であれば、相続税はかからないのです。
もちろん税務署への申告も不要です。
基礎控除制度のおかげで、日本では大部分のケースが相続税の課税対象者外となっています。
2017年度に課税対象者となったのは、全相続人の8.3%でした(公益財団生命保険文化センター調べ)。
基礎控除額は平成27年に引き下げられた
課税対象となる相続人が8.3%というのはかなり少ない割合と思われるかもしれません。
しかし、つい数年前まではその割合はもっと少なく、平成26年度では課税対象者は4.4%でした。
平成25年に税制が改正され、基礎控除額の引き下げや最高税率の引き上げが平成27年1月より適用された結果、課税対象者の割合は2倍近くに増えたのです。
それまでは「5000万円+1000万円×法定相続人の数」が基礎控除額でした。
先の例であれば、8,000万円が基礎控除額だった訳です。
バブルがはじけて土地の価額が下がり、相続税の納付額が大幅に下落したことが、基礎控除額の引き下げの大きな理由とされています。
相続税のかかる財産とは?
被相続人の遺した財産(遺産)としてぱっと思いつくものは、預貯金や不動産、株式などですが、他にもあります。
少し詳しく見ていきましょう。
①動産
現金、預貯金、株式、国債や投資信託、貴金属などです。
自家用車も、登録制度がありますがやはり動産です。
誰かに貸しているお金も債権という動産です。
被相続人の私物や家財道具も動産ですが、よほどの調度品でもない限り、価額的に大したことはないでしょう。
②不動産
被相続人名義の土地や家屋などです。
動産と不動産を合せて「相続財産」といいます。
③みなし相続財産
被相続人が保険料を負担していた家族への生命保険への掛金、被相続人の死亡により会社などから支給される死亡退職金などです。
これらは本来被相続人が持っていた財産ではありませんが、相続財産として相続税の課税対象となるので「みなし相続財産」と呼ばれます。
働き盛りの方が亡くなった場合、①や②の財産があまりなくても、みなし相続財産が多いことがあります。
注意しましょう。
④生前贈与財産
被相続人が亡くなった時から遡って3年以内に、相続人もしくは受遺者が別途被相続人から贈与を受けていた場合、生前贈与財産として相続税の課税価額に加算されます。
また、3年以上前であっても、相続時精算課税の方法で財産を贈与されていれば、やはり生前贈与加算の対象となります。
以上が相続税の課税対象となるプラスの財産です。
相続税がかからない財産とは?
上で挙げた②の「みなし相続財産」の中の一定額など、相続税がかからないプラスの財産には次のものがあります。
①相続人が受け取った死亡保険金のうち、「500万円×法定相続人の数」の金額まで
②相続人が受け取った死亡退職金のうち、「500万円×法定相続人の数」の金額まで
③墓地や仏壇、仏像など。ただし投資目的のものは含みません
④国や地方公共団体、特定の公益法人(具体的にはユニセフや日本赤十字基金など)などに寄付した財産
なお、これらに相続税がかからないのは、財産の性質、国民感情や社会政策面において課税対象に不適当とされているからです。
財産から差し引けるもの
相続財産はプラスのものばかりとは限りません。
相続とは「被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」ことです(民法第896条)。
「義務」は「債務」と読み替えてみてもよいでしょう。
いわゆるマイナスの遺産ですから、実際の相続額はプラスの財産からマイナスの財産を差し引いた額となります。
具体的には被相続人名義のローン残額や個人での借金、土地や建物の賃借料、賃貸物件を持っていた場合の敷金、さらには保証債務などです。
また、相続人や受遺者が葬式費用を負担した場合もマイナスの財産として、その費用を差し引くことができます。
相続税のかかる財産
最終的にプラスとなった額が基礎控除額を超えなければ相続税を納めなくてすみますが、故人の財産の種類が多かったり、よく把握していなかったりだと、相続財産額の確定だけでもかなりの手間と日数がかかることになります。
しかし、相続税の申告と納付には下記に述べるように期限があります。
あまりのんびりはしていられません。
申告や納税の期限について
相続税は相続人が申告書を提出し、税金を納めるという手順を踏みますが、申告書の提出期限と税金の納付期限はともに、被相続人の死亡を知った翌日から10ヵ月以内です。
もちろん申告と納税を同時にする必要はなく、別々の日に行ってもそれぞれが期限内に済まされていれば大丈夫です。
10ヵ月というと長いように感じるかもしれませんが、亡くなった人に関する手続きは税金に関することだけではありません。
ことに財産の種類や額が多く、法定相続人が多い場合などは、どのように財産を分割するかだけでもかなりの時間を取ることになるかもしれません。
ちなみに、ちょうど10ヵ月目の期限の日が土日祝日の場合はこれらの日の翌日が、また、年末年始(12月29日から1月3日)にあたるときはこれらの休日の翌日、休日明けの日が期限となります。
とはいえ、あまりぎりぎりの提出にならないよう、余裕を持って手続きを進めるようにしましょう。
申告に必要な書類
相続税の申告は申告書を提出して行いますが、申告書以外にもいくつか必要な書類があります。
①申告書
最寄りの税務署でもらいます。
ホームページからダウンロードもできますが、慣れていないとどの書類をダウンロードすれば良いのか分かりにくいことが多いので、税務署で必要書類を確かめつつアドバイスを受ける方が無難です。
②相続人または受遺者(以下「相続人など」とします)を確定するための書類
誰が被相続人の財産を相続するか(もしくは被相続人の財産を引き継ぐか)を明確にするために必要です。
法定相続分のとおりでなければ、遺産分割協議書や遺言書などを持参します。
なお、相続人が一人だけの場合、この書類は不要です。
③相続人などの本人確認書類
運転免許証やパスポートのコピーです。
マイナンバーカードを持っていれば不要です。
④被相続人の出生から死亡までの全戸籍
被相続人の法定相続人は正確に把握する必要があります。
被相続人の過去に婚姻歴があり、子供がいる場合などは、その子も法定相続人となり、改めて遺産分割協議が必要となることがあるからです。
出生から、というのは大げさに思えるかもしれませんが、場合によっては兄弟姉妹などの把握を要することもあるのでやむを得ません。
被相続人が何度も転籍を繰り返していると収集に手間と時間がかかりますので、早めに取りかかりましょう。
もっとも、被相続人の全戸籍は、財産の名義変更手続きにも欠かせない書類なので、改めて準備するということはまずないはずです。
⑤相続財産を証明する書類
財産額を正確に申告していることを証明するため、念のため準備しておくべきでしょう。
固定資産税評価証明書や通帳のコピーなどです。
申告書の書き方
申告書は、相続人が複数いる場合でも1通を共同で作成し、そこに相続人全員が記名押印するのが原則です。
ただ、1通でなければならないということはなく、相続人間の関係が悪い、相続人が多く、かつそれぞれが遠方におり、1通にまとめるには時間が足りないなどの事情があれば、各相続人が別々に作成して提出することも可能です。
申告書は、相続税の総額の計算書、財産の種類別価額表に、さまざまな控除や軽減などについての計算書や明細を各相続人などの事情に応じて作成したものを提出します。
申告にはマイナンバーが必要
相続税の申告書には、相続人(申告人)など全員のマイナンバーを記載する箇所があります。
マイナンバー制度の運用が始まり、相続税のほか贈与税などの申告の際に必要となりました。
その理由は、税務署が行う税務調査の効率を上げるためというのが大きなものです。
マイナンバーで申告書情報と各相続人などの預貯金口座などの情報を連動させ、預け入れや出し入れのチェックをスムーズに行うことができるのです。
なお、被相続人のナンバーは不要です。
現段階では亡くなった方のマイナンバーを知ることが困難な場合があるからですが、マイナンバー制度が完全に定着すればいずれ必要となるかもしれません。
税務署の窓口では番号確認と、そのナンバーと申告人が同一人物であることを確認するため、身元を確認する書類を求められます。
いわゆるマイナンバーカードを持っていれば窓口で見せれば足りますが、持っていない場合は、通知カード(もしくはマイナンバーが記載された住民票)に加え、運転免許証やパスポートなどの持参も求められます。
申告人のうち一人が代表で提出する場合は、他の申告人の通知カードと本人確認書類をコピーして持参する必要があります。
提出先と納付先
申告書は被相続人の死亡時の住所地を管轄する税務署に提出します。
相続人の住所地ではありません。
特に各相続人などが別々に申告書を提出する時には管轄税務署の情報をちゃんと共有しておきましょう。
できる限り直接税務署に出向いて提出したいところですが、郵送でも構いません。
郵送の場合、発送日(消印の日)が提出日となります。
定型外郵便で送れますが、確実に発送したという記録が欲しい場合は、書留や配達証明を利用しましょう。
相続税の納付は現金で一括、が原則で、所轄税務署、もしくは最寄りの金融機関の窓口で納めます。
なお、申告と違い、納付は各相続人が別々の納付書を作成して行う必要があるので注意しましょう。
相続人の誰か一人がまとめて支払うと、その相続人以外の納付額分が贈与となってしまいます。
相続税を支払わないとどうなる?
大前提として、いかなる事情があっても相続税の申告及び納付期限の延長はありません。
「調べてみると思ったより相続人が増えて、協議が期限内にまとまらない」「財産の種類が想定外に多く、手続きがどうしても間に合わなかった」など、申告手続きに向け取り組んでいたとしてもです。
やはり万一のことを考え、相続税に関する準備はなるべく早く取りかかるべきなのです。
期限に間に合わなかった場合は、まず延滞税がかかります。
いわば遅延損害金で、期限から2ヵ月目までが年2.7%、それ以降は年9.0%の割合でかかってきます。
次に、無申告加算税が課されてきます。
延滞税が遅延損害金とすれば、こちらは制裁金の意味合いを持ちます。
相続税額の5%にあたる額を納めなければなりません。
さらに、税務署から連絡があった後に申告をした場合だと、無申告加算税の割合が相続税額の15%~20%となります。
税務署から連絡があるというのは、要は申告や納税の意思がなく放っておいたということで、その分ペナルティーが増えるのです。
また、財産隠しなどで相続税を逃れようとしたことが発覚すると、実に相続税額の40%という重加算税が課されます。
くれぐれも正しい申告を心がけましょう。
まとめ
税務署は、過去の提出書類などから、一定以上の財産を持っているとされる方を把握しており、その方が亡くなると、同居の家族に対して相続税申告の案内を送ることになっているので、知らずにうっかり申告し忘れたということは基本的にないはずです。
にもかかわらず申告手続きを取らないと、相続税逃れと疑われてもしかたありません。
さまざまな控除や節税についてもしっかり取り組むためにも時間に余裕を持って準備に取りかかるようにしましょう。
(提供:相続サポートセンター)