矢野経済研究所
(画像=健太 上田/stock.adobe.com)

3月19日、日銀はマイナス金利政策の解除を決定、政策金利をマイナス0.1%から0.1%に引き上げた。同時に長短金利操作(YCC)を撤廃、上場投資信託(ETF)などリスク資産の買入終了を発表した。2013年、「2年間で2%の物価上昇」を目標に黒田前総裁のもとで始まった異次元緩和は結果的に当初目標を果たすことなく終了した。発行残高の5割を抱える国債、膨れ上がった上場投資信託(ETF)の扱いなど後遺症は残るが、日本経済は金利のある正常な金融環境の中で再スタートすることとなる。

昨年(2023年)4月、黒田氏を引き継いだ植田総裁にとって、大規模緩和の解除は最大の課題であったが、長期金利の上限引き上げで政策転換への流れを作ると同時に、徹底して「金融緩和の環境を維持する」旨のメッセージを市場に発信し続けた。こうした周到な地ならしをもって “17年ぶり” に実施された利上げは、経済界はもちろん、政界からも異論はなく、また、市場関係者からも “想定の範囲内” として静かに受け入れられた。利上げにも関わらず円安に振れた為替相場がサプライズなき政策判断の証だ。

会見で植田氏は「金利の急騰を防ぐべく一定規模の国債買入は継続する」と政策の連続性をあらためて示しつつ、「大規模緩和はその役割を終えた。今後は短期金利を主たる政策手段とする」と従来政策の終焉を宣言した。市場と対話しつつ金融政策を模索する植田氏のスタンスゆえに、当面は住宅ローンをはじめとする家計や企業活動への影響はミニマムであろう。しかし、金利のある世界への回帰は、低金利と停滞に安住してきた社会にとって大きな転換点となる。

異次元緩和はかけ声の勇ましさもあって一時的な景気浮揚感をもたらした。その功罪に関する検証は不可欠である。ただ、少なくとも “金利のない世界” という日常が財政規律の緩みと企業や事業の新陳代謝を遅らせたことは確かである。この間、構造改革に踏み出せなかった多くの企業が延命する一方、潤沢に供給されたはずのマネーは投資に回らず、少なからぬ企業で内部留保が膨れ上がった。賃上げの契機となった物価高も “円安” という外圧による。今、私たちは新たなスタートラインに立った。リスクをとって投資を回収する、という当り前の行動原理をもって停滞に甘んじ続けた体質からの脱却を急ぎたい。

今週の“ひらめき”視点 3.17 – 3.21
代表取締役社長 水越 孝