ソフトバンクグループ
(画像=Michael Vi/Shutterstock.com)

“M&A巧者”との形容が最も相応しいのが、ソフトバンクグループではないだろうか?先日も子会社のヤフーによるZOZO買収、さらにヤフーとLINEとの経営統合話に世間が驚嘆したばかりだ。

ソフトバンクグループは創立から約40年の歳月が経っているが、同社の歴史はまさにM&Aの歴史であると表現しても過言ではない。言うまでもなく、数々の大勝負を仕掛けて成功に導いたのは、ソフトバンクグループの創業者で現取締役会長兼社長である孫正義氏だ。

目次

  1. 創立当初から「純利益1兆円突破」をビジョンに掲げていた!?
  2. 最初の飛躍に直結した米国Yahoo Inc.との合弁事業
  3. 日本テレコム、ボーダフォンの子会社化で通信事業に本格進出
  4. 失敗例もあるが、目利きの力と決断力が際立つ孫正義氏
  5. 孫正義氏の経営哲学「同志的結合」が成功のカギ
  6. 社内にM&Aのプロフェッショナル集団を抱えるソフトバンクグループ

創立当初から「純利益1兆円突破」をビジョンに掲げていた!?

1981年、前年に米国のカリフォルニア大学バークレー校を卒業した孫氏は、福岡市の南に位置する雑餉隈(ざっしょのくま)駅の近くで「ユニソン・ワールド」という会社を興した。コンピュータの卸売業を生業とし、その半年後には大野城市に「日本ソフトバンク」を設立したが、ユニソン・ワールドがソフトバンクグループの出発点だと言えるだろう。

当初は資本金1,000万円、従業員はアルバイトが2人だけというミニマムな旗揚げだった。創業して間もない頃、孫氏は2人のアルバイトに対してこう宣言したという。

「豆腐屋さんの心意気でやるぞ!豆腐を1丁、2丁と数えるのと同じように、1兆、2兆と数えられるような規模の会社にする!」

単に威勢のいい“ハッタリ”をきかせたわけではなく、孫氏の中には確信があったようだ。コンピュータの時代が訪れて世の中が激変していくことを予見し、自分たちが手掛けるビジネスは必ず伸びると考えていたわけだが、それから1週間後にアルバイトたちは2人とも辞めてしまった。

「私のことを、よほど変わった人だと思ったのでしょう」と孫氏は述懐するが、おそらく彼らは後悔しているのではないだろうか?それから四半世紀ほどでソフトバンクグループの売上高は2.5兆円に達し、2014年度には営業利益が1兆円を突破している。

ソフトバンクグループの驚異的な成長は、IT革命の到来をいち早く見越していた孫氏の先見性とともに、大胆かつ機敏な出資やM&Aの戦略がもたらしたものだと言えるだろう。1990年代を迎えてから、ソフトバンクは次から次へとアグレッシブな行動に打って出た。

最初の飛躍に直結した米国Yahoo Inc.との合弁事業

まず、1994年には米国に設立した現地法人を通じて同国Ziff Communications Companyの展示会部門を買収し、翌年には世界最大のコンピュータ見本市「コムデックス」を運営する米国The Interface Groupの展示会部門に出資。さらに、最初の飛躍をもたらしたのが、1996年に米国Yahoo Inc.との共同出資で日本法人ヤフー(現Zホールディングス)を設立したことだった。

その3カ月後には米国Yahoo Inc.の株式を追加取得して筆頭株主に浮上させる一方、同年6月には豪州企業との提携を発表し、デジタル衛星放送事業「JスカイB(現スカパー!)」を立ち上げた。1998年には米国のETRADE Group , Inc.(現ETRADE FINANCIAL Corporation)との共同出資でネット証券を設立し、個人向け金融ビジネスへにも進出を果たしている(現在はソフトバンクから分離・独立したSBIホールディングスの傘下)。

こうして積極的な出資で事業領域をどんどん拡大させながら、2001年9月には子会社のビー・ビー・テクノロジー(現ソフトバンク)を通じてADSLによるブロードバンドインターネット接続事業にも参入。他社を驚かせる格安料金で後発ながらもシェアを奪取し、もはや「コンピュータソフトの卸売」という創業当初のカテゴリーには到底収まりきらない会社となった。

日本テレコム、ボーダフォンの子会社化で通信事業に本格進出

2004年におけるソフトバンクのM&Aといえば、野球ファンならホークスの買収でダイエーと合意したことを最初に思い浮かべるかもしれない。確かに、同年末に話がまとまり、翌年早々にも同球団はソフトバンクの子会社となっている。

それを機に同社の認知度が非常に高まったのも事実だが、2004年に日本テレコムを子会社化して固定通信事業に参入したことも見逃せない。続いて2006年3月には英国Vodafone Group Plcと日本法人・ボーダフォンの買収で合意し、移動通信事業まで手中に収めた。

ボーダフォンの買収に投じた資金は約89億ポンド(約1兆7500億円)に達したと目されるが、まさに「時間をお金で買う」というM&A戦略における基本を忠実に実行し、既存インフラを活用して大手通信事業会社へと変容を遂げたのだ。この大勝負で進出を果たした後も、日本国内におけるiPhoneの独占販売や格安料金プランでNTTドコモとauのシェアを奪取し、「ソフトバンク=大手3大キャリア(通信事業者)の一角」というイメージが強烈に焼きつけられることになる。

失敗例もあるが、目利きの力と決断力が際立つ孫正義氏

ボーダフォンに続く大勝負は、2012年10月に米国Sprint Nextel Corporation(現 Sprint Corporation)の戦略的買収で合意に至ったことだろう。米国の移動通信事業で業界3位につけるSprint Nextel Corporationの株式の70%を1兆5709億円(約201億米ドル)で取得することが明るみに出た。

買収後にソフトバンクのユーザー数は日米合わせて9,600万人に達してNTTドコモやKDDIを凌ぐことから、当初はこの大胆なM&Aも世間で肯定的に受け止められていた。もっとも、買収後のSprint Corporationは不振を極め、ドイツテレコムの子会社であるT-Mobile USに抜かれて業界4位に転落してしまった。

それに先駆け、ソフトバンクはSprint CorporationによるT-Mobile US買収を画策していたのだが、交渉は決裂。2018年4月、2社は株式交換による合併について最終合意に至ったものの、その話もソフトバンクグループ(2015年7月から社名変更)にとっては妥協の産物とも言える内容だった。

合併後の筆頭株主はドイツテレコムで、新会社はソフトバンクグループの連結対象から外れることになったのだ。このような顛末から、Sprint買収は誤算だったと指摘する識者も少なくない。

また、2019年大四半期にはウィーワークやウーバー・テクノロジーズなどの米国スタートアップへの投資で巨額の営業損失が発生。しかも、ウィーワークにおいては保有株を担保に多額の借入を行うなどのスキャンダルが発覚してCEO解任を迫られ、こうした騒動を機にソフトバンクグループの株価も急落に見舞われた。

だが、その一方で2000年の創業当初から中国のアリババに出資を行い、2014年9月同社が上場する前段階でソフトバンクは筆頭株主となっていた。周知の通り、今やアリババグループは驚異的な成長を遂げ、ソフトバンクグループの業績にも大きく貢献している。

さらに、ソフトバンクグループは2017年に「ソフトバンク・ビジョン・ファンド(10兆円ファンド)」を設立し、約240億ポンド(約3.3兆円)という英国最大規模のM&Aによって同国半導体大手のARM Holdings Plcを取得している。出資やM&Aにおいて孫氏の目利きの力が卓越しているのは誰もが認めることであり、度胸や決断力においても他の経営者がなかなか太刀打ちできないのも明らかだろう。

孫正義氏の経営哲学「同志的結合」が成功のカギ

2010年6月、孫氏は「ソフトバンク新30年ビジョン」を発表し、創業者である自分の最も重要な役割とは、「最低300年続くソフトバンクグループのDNAを設計すること」だと宣言。そして、300年というスパンの中では、創業からの30年は第1チャプター、次の30年は第2チャプターにすぎないと指摘した。

なぜ、300年なのか?その頃までには、人間の脳を超えるコンピュータが初めて地球上に誕生するという人類史上最大のパラダイムシフトが起きている公算が大きいからだ。

こうした先行きを踏まえて、「少なくとも30年後には、世界の人々が最も必要とするテクノロジーやサービスを提供する会社になりたい」と孫氏は考えているようだ。それを果たす上では、世界で最も優れた企業とのパートナーシップ戦略が重要となり、「出資比率30~40%程度の資本提携による“同志的結合”の集団を作りたい」と孫氏は述べた。

実は、“同志的結合”というキーワードは、以前からソフトバンクが貫いてきた哲学だ。それは、買収される側と買収する側が同じ志のもとで互いに尊重しあうことで、ともに成長を遂げていくという考えである。

「同志的結合は金銭的(資本的)結合よりも強い」という孫氏は捉えているのだ。現にソフトバンク時代はもちろん、ソフトバンクグループに社名を変えた後も、一度たりとも敵対的なM&Aを仕掛けていない。

これまでソフトバンクグループのM&Aの多くが大きな成果を上げてきたのは、有望な企業やビジネスを誰よりも早く見つけ出す孫氏の選択眼もさることながら、つねに“同志的結合”を求めてきたことが深く関係していると思われる。

社内にM&Aのプロフェッショナル集団を抱えるソフトバンクグループ

ここまで紹介してきたように、孫氏が傑出したリーダーであることは誰もが認めることだろう。また、彼に対しては強烈なリーダーシップを発揮する“ワンマン経営者”というイメージも強い。しかし、これまでソフトバンクグループが進めてきたM&Aは、決して孫氏一人だけの力で成し遂げられたものではないのも確かだ。

同社の社内には、M&Aに関するプロフェッショナルが集結している。通常、企業が他者に対するM&Aを検討する際には、外部のコンサルタントに協力を求め、買収先の候補までリストアップしてもらうものだ。これに対し、ソフトバンクグループは社内に専門集団を抱えており、単独でグローバルな規模のM&Aを仕掛けられるという。

無論、他の多くの大企業はもちろん、もっと規模の小さい企業は同じようなことは適わない。しかし、企業としての成長を求めてM&Aを検討する以上、外部のコンサルタントにすべてを依存するのではなく、自らの目線で戦略を練る努力が求められるだろう。

文・大西洋平(ジャーナリスト)

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