新年度を目前に控え、法改正への対応準備は万全でしょうか。 2024年度は、労働・社会保険関連で6つの大きな改正が予定されています。すべての企業が対象となる改正項目もありますので、漏れなく対応できるように準備を進めましょう。(文・丸山博美社会保険労務士)
<2024年4月1日施行>
・労働条件明示ルールの変更
・適用猶予事業・業務に対する時間外労働上限規制適用
・障がい者法定雇用率の引き上げ、及び障がい者算定方法の変更
・障がい者に対する合理的配慮の提供義務化
・裁量労働制の導入・継続ルールの変更
<2024年10月1日施行>
・パート・アルバイトに対する社会保険適用拡大
目次
労働条件明示ルールの変更
労働基準法施行規則及び有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準の改正に伴い、労働条件の明示事項に以下の記載が追加されます。
出典:厚生労働省「令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます」
① 就業場所・業務の変更の範囲の明示
すべての労働者を対象に、「就業場所と業務の変更の範囲」 について、労働契約の締結時と、有期労働契約の更新時に、書面による明示が必要になります。
労働者が通常就業することが想定されている就業の場所、及び労働者が通常従事することが想定されている業務について、労働契約・更新時に、今後の見込みも含め、その労働契約期間中における変更の範囲を明示しなければなりません。
② 更新上限の明示、及び更新上限を新設・短縮する場合の説明
有期契約労働者を対象に、有期労働契約締結・更新のタイミングごとに、更新上限(通算契約期間または更新回数の上限)がある場合には、その内容の明示が必要になります(例:「契約期間は通算4年を上限とする」「契約の更新回数は3回まで」など)。
併せて、契約当初には設定されていなかった更新上限を新たに設けようとする場合、及び既存の更新上限を短縮しようとする場合、あらかじめ労働者にその理由を説明することとされます。
③ 無期転換申込機会、及び無期転換後の労働条件の明示
無期転換申込権が発生する有期契約労働者を対象に、無期転換申込権が発生する契約更新のタイミングごとに、該当する有期労働契約の契約期間の初日から満了する日までの間に無期転換を申し込むことができる旨(無期転換申込機会)、及び無期転換後の労働条件を明示することが必要になります。
参考:厚生労働省パンフレット「2024年4月からの労働条件明示のルール変更 備えは大丈夫ですか?」
適用猶予事業・業務に対する時間外労働上限規制適用
働き方改革関連法による労働基準法の改正に伴い、時間外労働の上限規制が法定化され、2020年4月以降、原則としてすべての企業に適用されています。
一方で、一部の事業・業務については、長時間労働の背景に業務の特性や取引慣行の課題があることから、時間外労働の上限について適用猶予とされてきました。
この点、2024年4月以降は適用が猶予されてきた事業・業務にも原則通り、または一部特例つきで適用されることとなります。
① 工作物の建設の事業
災害時における復旧及び復興の事業を除き、上限規制がすべて適用されます。
災害時における復旧及び復興の事業には、「時間外労働と休⽇労働の合計に係る単月上限(100時間未満)と2~6カ月平均の上限(80時間以内)」に関わる規制は適用されません。
② 自動車運転の業務
特別条項付き36協定を締結する場合の年間の時間外労働の上限が年960時間となります。
ただし、「時間外労働と休⽇労働の合計に係る単月上限(100時間未満)と2~6カ月平均の上限(80時間以内)」、「特別条項発動に係る年間の上限回数(年6カ月まで)」に関わる規制が適用されません。
③ 医業に従事する医師
特別条項付き36協定を締結する場合の年間の時間外・休日労働の上限が最大1860時間(指定水準ごとに設定あり)となります。
ただし、「時間外労働と休⽇労働の合計に係る単月上限(100時間未満)と2~6カ月平均の上限(80時間以内)」、「特別条項発動に係る年間の上限回数(年6カ月まで)」に関わる規制が適用されません。
時間外労働と休日労働の合計が月100時間以上となる見込みの医師に対しては、医療法等に追加的健康確保措置に関する定めがあります。
④ 鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業
上限規制がすべて適用されます。
参考:厚生労働省「時間外労働の上限規制の適用猶予事業・業務」
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障がい者法定雇用率の引き上げ、及び障がい者算定方法の変更
障がい者雇用促進法の定めにより、事業主は、雇用する労働者に占める身体障がい者・知的障がい者・精神障がい者の割合を一定率(法定雇用率)以上とするように義務付けられています。
改正法施行に伴い2024年4月以降、障がい者の法定雇用率が段階的に引き上げられ、民間企業においては以下の通りとなります。
出典:厚生労働省「障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について」
併せて、障がい者雇用における障がい者の算定方法の変更についてもおさえておきましょう。
障がい者雇用率制度の対象となる障がい者は、原則として「週20時間以上」勤務する者に限定されています。この点、2024年4月以降、週所定労働時間10時間以上20時間未満の精神障害者、重度身体障害者及び重度知的障害者について、雇用率上、0.5カウントとして算定できるようになります。
参考:厚生労働省「障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について」
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障がい者に対する合理的配慮の提供義務化
障がい者差別解消法の改正に伴い、すべての企業において、障がいのある人への合理的配慮の提供が義務化されます。
障がい者への「合理的配慮」とは、障がいのある人が障がいのない人と同じように行動したりサービスの提供を受けたりすることができるよう、過度の負担にならない範囲で、それぞれの違いに応じた対応をすることを指します。
事業者が提供しているサービスについて、障がい者から「社会的なバリアを取り除いてほしい」旨の意思の表明があった場合、障がいのある人と事業者等との間で建設的対話を行い、その実施に伴う負担が過重でないと判断されたときに、必要かつ合理的な配慮を講ずることが必要となります。
参考:内閣府リーフレット「令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されます!」
裁量労働制の導入・継続ルールの変更
裁量労働制に関する改正省令、改正告示の施行により、専門業務型裁量労働制及び企画業務型裁量労働制の導入・継続には新たな手続きが必要となります。
① 専門業務型裁量労働制における導入・継続ルール変更
・労使協定に「本人同意を得ること」「同意をしなかった場合に不利益取り扱いをしないこと」及び「同意の撤回の手続き」「同意とその撤回に関する記録を保存すること」を定める
・対象業務に「銀行又は証券会社における顧客の合併及び買収に関する調査又は分析及びこれに基づく合併及び買収に関する考案及び助言の業務(いわゆるM&Aアドバイザーの業務)」を追加
② 企画業務型裁量労働制における導入・継続ルール変更
・労使委員会の決議に「同意の撤回の手続き」を定める
※「本人同意を得ること」「同意をしなかった場合に不利益取り扱いをしないこと」及び「同意とその撤回に関する記録を保存すること」については、労使委員会の決議に定めることがすでに義務づけられています
・対象労働者に適用される賃金・評価制度の内容についての使用者から労使委員会に対する説明事項(説明を事前に行うことや説明項目など)を労使委員会の運営規程に定め、これを変更する場合には労使委員会に変更内容の説明を行うことを労使委員会の決議に定める
・制度の趣旨に沿った適正な運用の確保に関する事項(制度の実施状況の把握の頻度や方法など)を労使委員会の運営規程に定める
・労使委員会の開催頻度を6カ月以内ごとに1回とすることを労使委員会の運営規程に定める ・定期報告は、労使委員会の決議の有効期間の始期から起算して初回は6カ月以内に1回、その後1年以内ごとに1回行う
参考: 厚生労働省パンフレット「専門業務型裁量労働制について」、厚生労働省パンフレット「企画業務型裁量労働制について」
パート・アルバイトに対する社会保険適用拡大
年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律の施行により、短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の加入要件が拡大されます。具体的には、厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業等で働く短時間労働者について、以下のすべての要件を満たす場合、社会保険加入が義務化されます。
・週所定労働時間が20時間以上
・所定内賃金が月額8.8万円以上
・2カ月を超える雇用見込みがある
・学生ではない
参考:日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大のご案内」
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本稿で紹介した2024年度法改正項目について、「準備できていなかった」というテーマはありませんでしたか。
2024年度に予定される法改正の多くが4月1日施行であることから、未対応の現場においては今後、早急に準備を進めていく必要があります。
とりわけ、すべての企業が対象となる「労働条件明示ルールの変更」及び「障がい者に対する合理的配慮の提供義務」に関しては、今一度取り組みの状況を確認し、いずれの現場においても適切に対応できるようにしましょう。