PMI
(画像=Athitat Shinagowin/Shutterstock.com)

今日、成長戦略としてのM&A推進による業容拡大を掲げる企業は多く、M&A実行のプロセスにおいて、買収対象企業探索とマッチング、買収対象企業の企業価値評価、このためのビジネス・財務 ・法務等各種デューデリジェンスと契約及ぴクロージングの一連のプロセスについては、M&Aアドパイザー及び各種専門家の連携のもとで比較的安定した実務が形成されつつある。

他方M&A後の統合に関する課題の検討と実践面では、今なお相当苦労されるケ一スが多いように思われるが、中期経営計画においてM&Aによる経営統合効果を織り込む以上、統合プロセスを適切に進めることは極めて重要である。M&A後の統合プロセスでは最大公約数的に以下の項目の検討課題があると思われるし、この作業を推進する統合プロジェクト組織は、下記図のようなイメージとなろう。

図表1
(画像=Futureより)
図表2
(画像=Futureより)

経営統合プロジェクトのスタート

統合プロジェクトは、M&Aを企画立案する経営企画 ・業務担当部署のみならず、社内横断的に必要な人員でメンバ一を構成するのが望ましい。通常、M&A実行前の企画調査に参加したメンバーを中心とし、必要に応じ、M&A実行後関係部署がバックアップするケ一スが多いであろう。M&A実行後のPMIのプロセスはその以前のプロセスとも連携し連続性が必要である。M&Aによる成長戦略の実現のためには、このようなM&Aの実行部隊を、企業内で柔軟に横断的に組成し、統合後、直ちに統合の課題に着手する必要がある。通常は、90日から180日程度の周到なスケジューリングが必要である(統合プロジェクのト立案が不十分では、M&A効果を十分に実現できないように思われる。)。

ところで、M&Aの実行前にビジネス ・財務・法務・人事等各種DDを実施されているが、このDDの作業は企業買収前の企業価値(買収コスト)その他交渉条件と適切な買収ストラクチャーの選択のための調査だけでなく、買収後の統合プロジェクトにおいて必要な施策の項目を把握し、必要な施策を立案するために用いられることが好ましい。筆者の経験においても、法務DDを単なる調査報告に終わらせるのではなく、法務調査で検出した問題点に関し、調査と別に、クライアントの要望に応じ、統合後に必要な施策をできるだけ具体的に検討するコンサルティングを実施している。しかしながら、M&A実行前の各種DDは、時間的又は作業的制約状況から必ずしも十分な検討がなされているとはいい難く、統合プロジェクトを開始すると想定しない大きな問題に逢着するケ一スが多いと推測される。

統合プロジェクトの基礎

経営統合のためには、買収後の当該対象企業(以下、「対象企業」という)の経営方針を適切に立案し買収シナジ一を追求することは当然であるが、これとは別に、実務レベルでの統合作業で問題となる点を簡潔にコメントする。ここでは対象企業を合併とか吸収分割の方法で自社に直接取り組むのでなく、株式譲受を通じ子会社化するシンプルな統合手法を念頭におくものとする。なお、人事制度と労務管理手法 の再構築はいうまでもなく、最重要課題であるが、内容的にも検討課題となる点が多いので、今回の原稿では割愛する。

① 経営管理上の社内体制の確立

企業統治(ガバナンス)の観点から、買収後に経営体制の確立(新たな役貝構成、役割分担と指揮系統)を明確にしたうえで、社内の経営事項の意思決定に至る業務プロセスと実務を再点検する作業が不可欠である。従前オーナ一経営者の下で、内部統制的に問題がある業務運営がなされているケ一ス、社内的に不透明な意思決定プロセス.慣行等が存在するケ一ス、複数事業部間の業務管理手法の不整合や部門間のセクショナリズムが存在するケ一スなど、統合後の企業活動の効率性とか向上を図る以前の問題が横たわるケ一スが多い。後述のとおり、統合後の社内改革を実行せんとしても、このような悪しき不合理な業務プロセスや慣行を改善する ことを抜きに健全な経営計画の実現は図れないであうろ。他方、企業買収後、企業文化とか人的組織・運営方法は容易に換え難く、とりわけ、主要社員の社内的処遇を大幅に見直すことに関しては相当の抵抗を伴うことになるので、周到な対策が必要である。

さらに、買収者が上場企業の場合、統合した子会社にも、上場企業同様の内部管理、内部監査その他内部統制としてのレベルを確保したいところであるが、この点は子会社の企業規模やこれに見合う管理コスト・人員等の制約から、必ずしも十分な対応ができないケースも多い。他方、子会社の経営管理上の不備から重大な風評リスクが発生しグループ全般のリスクとして波及したケースも多く存在する(情報漏洩、品質問題、労務問題、環境問題等)ので油断は禁物である。このような観点からは、内部統制環境の十分な整備以上に、子会社化した対象企業について事業・財務・信用・風評上の観点から顕在化する重大なリスクがないか分析し懸念事項に対し重点的に対処する方が効率的と思われる。

②業務管理の再点検

買収が水平的統合と垂直的統合では、検討事項は異なるが、ここでは水平的統合に関し簡潔にコメントする。

(1) 調達(仕入先・外注先対応)

取引業者の選別(与信上)、取引条件の見直し、外注先内製化の検討が必要となるケ一スが多い。とくに合理的でない継続的取引を見直す場合、契約違反、不公正取引、下請法 違反等の問題を惹起しないように慎重な検討が必要であろう。

(2) 製造・物流

製造業では、製造・物流拠点の整理・統廃合を伴う場合がある。この場合は必然的に人員の移動・削減なども生じる。他方、急激な経営方針の変更が人材の流出に伴う品質管理、技術流出という労働問題とは別の問題えお引き起こすので、留意を要する。

(3) 販売

販売効率を適正化するために、販売先(重複顧客等)との取引条件見直し、取引解消、販売代理店制度の統ー、テリトリー制の見直し等販売網の再構築や取扱製品の見直しを地域毎に行う必要がある。クロスセリングを行う場合も多い。筆者の関与例でも、自社の販売網を維持するのか、買収企業の既存の販売網を活用するかなど制度・契約内容の再構築が必要となったケースがある。

(4) 研究開発

水平統合のM&Aにおける研究開発成果の共有は、M&Aの成果実現の観点から童要な課題であ。企る業間の技術情報の共有・権利関係の処理の問題も発生するが、同ー企業グループ間でも知的財産管理が十分に規律を維持する必要がある。例えば、企業間で技術移転や共同開発をう行場合に知的財産権の所在とか相互のライセンス関係は明確にしておく必要があろう。

山岸 洋(弁護士 三宅坂総合法律事務所)

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