目次
- コーキング防水専業からスタート 何度も苦境を克服することで乗り切った
- 祖父に頼まれ入社するが一度は会社を逃げ出しボート・オートレーサー目指すも断念 復帰するも、従業員退社で発奮、寝る間も惜しんで働く
- 社長就任で社名を変更 様々な防水施工技術を習得して、自社の事業拡大に生かす
- 積極的な受注活動と福利厚生の充実で、ゼネコンへの売り込みを行い、二次、三次下請けから脱却 外国人実習生雇い人手不足カバー
- 自社の技術者を増やし、多能工養成で、社長就任時1億強の年商は2013年には5億へ
- 27人の外国人技能実習生が防水技術習得。多能工のスキル身に付け人材不足補い受注拡大につながる貢献
- 体制を整え、2018年には2013年の倍の年商10億達成、2023年度は年商18億へ
- 人材採用強化へ情報発信システム導入。ホームページにメタバース機能搭載しリアルな企業紹介で早くも反響
- 業務管理システムも2024年4月に稼動。業務内容変えずに全社システムを構築しデータを一元管理
祖父が創業した防水工事会社に高校卒業後すぐ入社し、いきなり経営を担う立場に置かれた宮沢勝富士代表取締役社長は幾多の経営課題を乗り越えて、あらゆる防水ニーズに対応する多能工集団を育て上げ、右肩上がりの成長を続ける。ICTソリューションを駆使して情報発信力を強化。県内のみならず関東圏で人材獲得と事業拡大に意欲を燃やす。(TOP写真:外国人技能実習生を含む多能工集団はあらゆる防水施工に対応できる=写真は屋根のアスファルト防水施工作業)
コーキング防水専業からスタート 何度も苦境を克服することで乗り切った
株式会社群馬建水の前身は宮沢勝富士社長の祖父に当たる宮沢久太郎氏が創業した「宮沢コーキング」だ。当初は社名が示すように、建材などの亀裂に油性コーキング材を注入して防水する施工方法を専門に行っていた。1980年には法人化して「宮沢コーキング工業株式会社」を設立。次第に多様な防水工事の許可を取得し業容を拡大してきたが、経営が軌道に乗るまでは順風満帆とはいかなかった。何度も苦境に立たされ、そのたびにトップ自ら寝る間を惜しんで働くことで克服してきた。
祖父に頼まれ入社するが一度は会社を逃げ出しボート・オートレーサー目指すも断念 復帰するも、従業員退社で発奮、寝る間も惜しんで働く
勝富士氏は大学に進むつもりだったが、祖父から「人手が足りないから手伝ってほしい」と頼まれて高校を卒業してすぐ入社した。しかし、材料や溶剤の臭いが合わず、また仕事が楽しく感じず、なかなか慣れないため上手くならず嫌になり、会社を逃げ出したことがある。以前から好きだったオートレースの道を目指したが挫折して仕事に復帰した。1999年に父親の不二男氏が2代目代表取締役に就任したが、体が弱く入退院を繰り返していたため、勝富士氏が実質的に経営をみることになった。しかし、「父は病弱だし、ちゃらちゃらした息子の下で働けるか、という感じで従業員が次々と辞めてしまい、私と父親と親族の3人だけになってしまった」(宮沢社長)。家族を養い会社を存続させるため、若さにまかせて1日2~3時間しか寝ずに働き詰めで仕事をこなした。
「引き受けた仕事を断るのは嫌だったし、従業員だった人に仕事を教えてもらったりして休みなく働くうちに、溶剤の臭いは相変わらず嫌だったけれど、仕事が面白くなってきた。とにかく稼がなければという気持ちだった」。当時、2歳下の弟、寿氏が入社して手伝ってくれたことも大きな支えになった。現在は専務取締役として宮沢社長の右腕となっている。
社長就任で社名を変更 様々な防水施工技術を習得して、自社の事業拡大に生かす
2005年に代表取締役社長に就任すると同時に社名を現在の「群馬建水」に変更した。建水は建設と防水を合わせた造語で「どこにもない社名」にこだわった。従業員は5人ほどに増えたが、2次下請け、3次下請けのコーキング施工専門だった。「このままではやっていけない」と考えた宮沢社長は防水施工方法を増やすために、技術レベルの高い会社に“修業”に行った。しかし、「防水技術を教えてほしいと頼んでも誰も教えてくれない。無給でいいから働かせてほしいと頼み込んで技術を覚えた」と当時を振り返る。
防水施工にはコーキングのほか、アスファルト防水、ウレタン塗膜防水、シート防水などさまざまな工法があり、それぞれ専門の施工技術が必要だ。群馬建水は宮沢社長が多様な施工方法を習得して従業員に伝えながら、次第に建築業や塗装工事、とび土木工事業と許可を増やして、あらゆる防水工事に対応可能なまでに成長した。
積極的な受注活動と福利厚生の充実で、ゼネコンへの売り込みを行い、二次、三次下請けから脱却 外国人実習生雇い人手不足カバー
仕事を取れるようになると、今度は従業員が足りなくなる。「当時は日給月給みたいなもので社会保険もなかった。福利厚生をきちんとしなければ良い人材も入ってこない」(宮沢社長)と考え、社会保険や給与制度などを整えて人材採用を積極的に行った。リーマン・ショック後に有能な人材が採用できたことも追い風になった。入社した営業担当者が新しい仕事を次々受注してくるなど成果はすぐに現れた。
自社の技術者を増やし、多能工養成で、社長就任時1億強の年商は2013年には5億へ
社長就任時に1億円強だった年商は3億円、4億円と増えて、2013年度には5億円に達した。何事もなく順調に収益が伸びたわけではない。外注を多く使う会社と違い、自社の技術者を増やしてきた群馬建水はすぐに動ける強みがあり、仕事は次第に増えた。結果的に、二次、三次下請けから脱却できた。
受注量に採用が追い付かず、2012年には外国人技能実習制度を活用。3人のベトナム人実習生を採用し、その後10年でベトナムのほかフィリピン、インドネシアと国も増えて10年で累計65人の実習生が群馬建水で防水施工技術を学んだ。
27人の外国人技能実習生が防水技術習得。多能工のスキル身に付け人材不足補い受注拡大につながる貢献
外国人技能実習生の受け入れ制度は、人手不足の中小企業にとっては技能実習だけでなく実質的な労働力としても活用されているが、劣悪な労働環境や低賃金などで失踪者が増加。2022年度は9,000人に達するなど社会問題化しており、政府が制度見直しに向けて議論している。
群馬建水では、「仕事の上で言葉を覚えてもらうことは絶対だが、従業員としては対等に接する」ことを基本方針としてきた。スキルアップのために3年の実習期間を延長したり、帰国後に戻ってくる人も多いという。
体制を整え、2018年には2013年の倍の年商10億達成、2023年度は年商18億へ
2023年11月現在、従業員69人のうち27人が外国人実習生だが、合計約50人の技術者のほとんどが多能工で、防水技術者集団として地元で高い信頼を得るまでになった。スーパーゼネコンからの受注にも成功し、それがまた新たな仕事を呼び込む好循環を生んでいる。
2018年度には5年前の2倍の年商10億円を達成したが、2022年度には15億円、2023年度は18億円と成長は加速。埼玉県、神奈川県に続き2023年6月には東京都にも事業所を設けた。関東圏への営業攻勢を着々と進めつつある。
ただ、外国人実習生を指導しスキルを向上させる日本人管理者の人材不足など、次の飛躍への課題もある。
人材採用強化へ情報発信システム導入。ホームページにメタバース機能搭載しリアルな企業紹介で早くも反響
日本人の採用強化に向けて2023年6月に導入したのが、メタバース機能を備えた情報発信システムだ。ホームページの作成や更新を容易に行える機能と、仮想空間であるメタバースで企業PR動画や各種コンテンツを配置できる機能を兼ね備えたソリューションで、閲覧者にオンライン上でリアルな体験を提供できるのが特徴。より踏み込んだ企業紹介を行えるため人材採用にも大きな効果が期待できる。
群馬建水は、企業の就労環境や防水施工の紹介など豊富なコンテンツを盛り込んだホームページを2ヶ月で作成し、2023年8月に公開した。メタバース機能を備えた企業ホームページはまだ少ないだけに反響は大きいようで、ホームページを見たという入社希望者の問い合わせが増えている。
ただ、メタバース機能については「新しい挑戦でおもしろいが、誰でも直感的にメタバース空間に入っていけるようになるとなお良い」と操作性をさらに向上させたい考えで、ホームページの訴求力を高め、将来を担える若手技術者や女性技術者の採用を強化する方針だ。
情報発信力の強化とともに業務効率化のために導入したのが遠隔操作型リモートサービスだ。外出先でノートパソコンやタブレット端末、スマートフォンからインターネット経由で業務システムに接続して、オフィスと同じ環境で業務ができるのが特徴だ。全社員にスマートフォン支給も予定している。テレワークの本格導入を推進し、残業ゼロに加えて有給休暇完全取得を目指す。
業務管理システムも2024年4月に稼動。業務内容変えずに全社システムを構築しデータを一元管理
さらに2024年4月には全社業務管理システムも稼動する計画だ。現在は部署ごとにエクセルなどで個別に作成し管理している給与計算、勤怠管理システムなどのデータを一元管理して、業務管理システム全体のICT化を目指す。「経理や業務内容を開発元に理解してもらって、仕事の方法を変えずに全社ICTシステムの構築が可能になる」(宮沢社長)という。
宮沢社長は従業員、顧客、取引先の「三方良し」を経営方針に掲げる。「防水工事やその関連業界の人材不足解消に貢献したい。影響力を持つためにも年商50億円は超えたい」という将来ビジョンを持つ。根底には、苦境を幾度も乗り越えながら確信した「相手の幸せを考えてこそ自分も利益を得られる」という利他の考えがある。将来ビジョンの実現に向け、攻めと守りの両面で本格始動したICTソリューション活用が大きな役割を担うことになりそうだ。
企業概要
会社名 | 株式会社群馬建水 |
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住所 | 群馬県佐波郡玉村町樋越799-7 |
HP | https://ken-sui.jp/ |
電話 | 0270-65-3078 |
設立 | 1980年8月 |
従業員数 | 69人 |
事業内容 | 建築工業、防水工事、塗装工事業 |