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JR土讃線琴平駅から車で10分ほど入った静かな高台にたたずむ有限会社伸栄製作所は、町工場のような機械の騒音もなく、精密機械部品を扱うにふさわしい環境で操業している。笑顔で迎えてくれた大西悟志代表取締役に案内された事務所では、従業員が忙しくパソコンに向かい、この会社の活気が伝わってきた。(TOP写真:会計ソフトを操作する総務部の従業員)
1982年創業の会社を受け継いだ寡黙な社長の信念は
創業者であった大西雪男会長は、学校を卒業すると神戸の町工場に就職。厳しいしつけと指導を受けながら懸命に働いたという。その後県内にて修行を重ね、独立を決意し、夫婦二人で香川県まんのう町に伸栄製作所を創業。汎用旋盤1台、フライス盤1台をフル稼働させながら、ものづくりに向き合い続けたという。やがて真面目な仕事ぶりが認められ、支えてくれる協力会社にも恵まれるようになり、少しずつ従業員を増やすこともできるようになった。
そんな先代を見ながら育った大西悟志社長は、伸栄製作所が操業を維持できたのは信頼してくれた得意先の方々のおかげだと断言する。一時期、売上の柱の一つだった金型生産が中国へ流れ受注が激減した際、新たな加工機械を導入し営業活動を進めると、幅広い分野の得意先から精密部品加工の仕事を請けることができた。
またコロナ禍の時期には既存の仕事も新規の仕事も減り、人とのつながりも希薄になったが、その際にも窮状を知った得意先から次々に仕事の依頼が入り、受注が激減することはなかったという。どちらかと言えば寡黙な大西社長だが、「人を大切にする」という言葉を信念にするほど重視している。
得意先に対して、自社の仕事が無い時だけ頼みに行ってすがりつき、忙しければ加工先がなくて困っていても知らんぷり。そういう事はしたくない。手を尽くして協力することが未来の仕事へ、弊社の信頼へと繋がると信じている。得意先の人、仕入れ先の人、頑張ってくれる従業員。「すべての人」を大切にしたい。だから、人見知りで、口下手な自覚はあるが、可能な限り直接、顔を見て、向かい合って話をするという。
会計ソフトのデータによる経営判断で、先進の製造・加工機械を導入
伸栄製作所では、将来の国内外の製造環境、市場の動向などを見据えながら、生産・加工機械の導入や生産体制を計画しているが、その経営判断を支えているのが導入した会計ソフトだ。
ジムトフやメカトロテックなど、数年に一度開催される生産機械の展示会に出かけて行き、新たな機械の購入を検討する大西社長。頭の中には、会計ソフトで集計した受注履歴のデータや傾向などがインプットされており、今後どの分野のどんな加工に適した機械を導入すべきかの判断指標となっている。
「毎月、総務から上がってくるデータに、売上はどこが落ちてどこが伸びているか詳細な数字で出てきますし、履歴の比較検討も受注予測も得意先ごとにできます。コロナ禍で売上が減少傾向の最中において、過去最大の設備投資と工場増築に踏み切れたのも、このデータと得意先様との強い繋がりが強い後押しとなり、今しかない!とチャレンジ出来ました。」と話す。
特に加工機械は船舶や建築、自動車や医療機器など異なる分野の部品加工も1台でできるものが多種多様に存在するので、的確な受注予測と理に適った設備投資の判断が会社の行く末を大きく左右すると言っても過言ではない。
今ではあらゆる分野の精密部品製造と加工を請け負えるまでに
伸栄製作所が自動車や建設機械、医療機器、航空機、調理機器や半導体関連など、様々な分野の精密部品製造と加工を請け負う企業になれたのは、得意先との人間関係を大切にしながら集計データをベースに綿密な検討と判断がなされてきた結果だと言える。
また、金型生産の仕事が激減したあと、多方面からの受注を請けられる体制に方向転換を図ったおかげで、リーマン・ショックやコロナ禍の時期にも、受注が大幅ダウンすることもなく、順調に右肩上がりで成長してくることができた。それもこれも先代からずっと受け継いできた人との関わり、築いてきた信頼関係のおかげだ。
どんな分野の依頼先からどんな加工や製造依頼が来る可能性があるのか、過去のデータとこれからの予測を精査しながら、それに対応できる設備投資をする。加工機械や製造機械は動いていないと何も生み出せない代物。どんな量がどんな頻度で受注でき、どう稼働させ、指定された期日までにいかに納品するかが最大のテーマだ。
様々な得意先からの受注を整理し、どの機械でいつまでに完成させるか、もちろんわずかの誤差も許されない精度の仕事を着実にこなしてゆく。想像するだけでも気が遠くなるような仕事だが、営業を引き受ける社長を支え、誠実に仕事を進めてくれる従業員とお互いを信じて任せられる環境。ここにも「人を大切に」の精神が貫かれていると言える。
従業員に徹底する誠実な仕事と安全への強い配慮。そして全ての機械を操作できる技術の取得
「一度受注したものは何があろうとやり通せ」という先代の言いつけの根本には、やはり発注していただいた人の信に応えるという覚悟がその仕事ぶりに反映されているようだ。また先代は、「汚い工場できれいな仕事はできん」と常々言っていたという。取材のあと、きれいに整頓された工場で静かに稼働している加工機械を見せてもらったが、工具や部品が整然と並べられ、機械の周囲も工場の床もちりひとつ落ちていない。作業する場所を整えることは、安全の確保に必須であり、整理・整頓・清潔・清掃の4Sが意識されている。個々の意識が高いからこそ維持されているのだろう。
そこに並んで置かれた先進の工作機械を見せてもらったが、3D-CAD/CAMを駆使して図面通りに仕上げられる機械やCNC旋盤やマシニングセンターなど、μ(ミクロン)単位で加工する機械ばかりが並ぶ。これら相当の熟練を要する機械の全てを全従業員が使いこなせるよう個のスキルアップに励んでいる。国家資格の技能検定の受験も積極的に支援しているという。
技術のICT化も日進月歩の生産現場で、生産計画を忠実にこなしながら清潔な環境保持と徹底した安全管理を実行する。日本の技術や信頼される品質を支えているのはこういう企業だということを実感した。
頼られる企業であるために
会計ソフトの導入後、ある得意先から「数年前にやってもらった部品の仕事、またやってくれる?」との問い合わせがあった。以前であれば大量の資料をひっぱり出して探さなければならないところ、過去のデータを検索するだけで納品日、単価、数量や製造関連情報も素早く取り出せたので、煩雑な作業もなくスムーズに納品できたという。
伸栄製作所は幅広い得意先からの多種多様な発注内容に対応できる企業であることを選択した。それは「あそこだったらきっとやってくれるだろう」という、頼れる企業でありたいと願っているから。ICTが持つ能力を生かしながら様々な要求に応えられる、期待を裏切らない企業であること。
高い信頼の裏側には、期待をまっすぐに受け止める誠実さと綿密な準備をして待つという堅実な努力の積み重ねがあるようだ。
企業概要
事業所名 | 有限会社伸栄製作所 |
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所在地 | 香川県仲多度郡まんのう町吉野4291-9 |
HP | http://shin-ei-seisakusyo.co.jp |
電話 | 0877-79-3055 |
創業 | 1982年5月 |
従業員数 | 15人 |
事業内容 | 金属精密機械加工(船舶・建設機械・自動車・半導体・調理機器・医療機器など様々な分野の部品加工) |