入居者の介護日誌を手書きからタブレット入力へ切り替えると、効率化だけでなく介護の質向上につながった マエダメディカルコーポ(香川県)

目次

  1. 軽度から重度まで受け入れ、看護師が24時間体制で常駐し、人員配置基準3対1を上回る手厚い介護態勢
  2. 入居者の身体的変化や様子を見守り、一つひとつ介護日誌に記録する
  3. 介護日誌をタブレット入力する介護記録システムの導入で記録作業が約2割短縮できた
  4. 「介護が必要になっても社会とのつながりを感じてもらえるようにしたい」
  5. 団塊の世代の入居が始まるとケアのあり方が変わる 一人ひとりに合わせたケアプランが求められ「ICTもきめ細かなケアに役立つものを」
中小企業応援サイト 編集部
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高齢者が介護を受けながら暮らす介護付有料老人ホームを運営する有限会社マエダメディカルコーポは、医療法人まえだ整形外科 外科医院を母体とする。医院の患者らから「病気が治った後もみてほしい」と希望が寄せられたが、医療機関が介護施設を運営することができなかった時代。このため当時の院長だった前田直俊理事長が介護事業を行う法人を設立したのが2003年のこと。現在、同社は介護付有料老人ホームとして、フラワーガーデン京町とフラワーガーデン伏石を運営している。(TOP写真:タブレットで介護日誌のページを見る職員。デスクトップパソコンで記録をチェックしているのは西林毅施設長)

入居者の介護日誌を手書きからタブレット入力へ切り替えると、効率化だけでなく介護の質向上につながった マエダメディカルコーポ(香川県)
「うちは医療法人を母体としているのが強み」と話す前田直宏専務取締役

軽度から重度まで受け入れ、看護師が24時間体制で常駐し、人員配置基準3対1を上回る手厚い介護態勢

「20年前は親を施設に入れるなんて、冷たい」といわれた時代。「それが今は『入れてもらえて幸せだ』という風に変わっています。高齢化、核家族化が進んだことが大きな原因ではあるでしょうが、入居者と向き合う私たち介護事業者の地道な努力も背景の一端にあると思います」と、前田理事長の次男で専務取締役の前田直宏さんが話す。

高齢となり、自宅で暮らすのが不安になった時、施設入所の選択肢はいくつかある。
①サービス付高齢者住宅:介護の必要がなく自立した生活ができる人向け。食事や夜間の見守りなどサービスを自分で選択する
②住宅型有料老人ホーム:主に要介護度が低い人向け。食事・洗濯・清掃などの生活支援がメイン。介護が必要となったら外部のサービスと契約する
③介護付有料老人ホーム:軽度から重度の要介護者向けで、24時間介護士が常駐する。基本的に終身入居できる
④グループホーム:認知症の人向けで、少人数で共同生活しながら暮らす
⑤特別養護老人ホーム:要介護3以上の重度の人向けの公的な施設。費用が安いが入所待機者が多い

マエダメディカルコーポの2施設は、このうちの③介護付有料老人ホームにあたり、軽度の要支援1から最も重い要介護5までの高齢者が入居できる。現在の入居者は約8割が女性で、年齢は80歳代から100歳超えの人まで。フラワーガーデン京町は定員100人に対しほぼ満室で、フラワーガーデン伏石は定員20人で現在は満室だ。

「うちの施設は医療法人を母体としているのが強みです。看護師が24時間常駐しているし、病院との連携もスムーズ。入所申し込み時に医療行為が必要な方でも受け入れています」と前田さん。点滴や吸痰(きゅうたん)、人工呼吸、胃ろうなど、病気の進行でさまざまな医療措置が必要になった時には、看護師がチームとなって対応するという。介護サービスの利用料はどれだけ利用しても一定だ。

介護保険法では、入居者3人に対し1人の介護・看護職員を配置するよう定めているが、同法人では例えば「京町」で介護職員が約48人(常勤換算)いて、入居者2.1人に介護士か看護師1人。看護師は4フロアを介護度に応じて1フロア1~3人配置している。

入居者の介護日誌を手書きからタブレット入力へ切り替えると、効率化だけでなく介護の質向上につながった マエダメディカルコーポ(香川県)
フラワーガーデン京町の1階。入居者は2~5階の4フロアに入居している

入居者の身体的変化や様子を見守り、一つひとつ介護日誌に記録する

職員は入居者のバイタルチェック、朝食提供やその量、排せつの有無、投薬、入浴、リハビリ、おやつ、レクリエーションなどを介助・観察し、一つひとつその時の出来事・行動を介護日誌に記していく。また、医師の往診は週3回あり、入居者は最低月2回診察を受ける。これも日誌に記録する。

介助の際は高齢者が対象のため細かい注意が必要だ。ほぼ全員が車いすを使っていて、転倒は骨折につながりやすい。入浴は3人で介助するが、傾いた体を支えようと強く腕などをつかむと、弱っていた皮膚が剥がれてしまうこともある。

「今日はちょっとボーッとしている時間が長い」「ろれつのまわりが悪いみたい」。入居者の何気ない動作も注意して見守る。

「いつもとなんだか反応が違う」と往診を要請し診察を受けたところ、脱水症状を起こしていたことがわかったケースもある

介護日誌をタブレット入力する介護記録システムの導入で記録作業が約2割短縮できた

入居者の介護日誌を手書きからタブレット入力へ切り替えると、効率化だけでなく介護の質向上につながった マエダメディカルコーポ(香川県)
介護日誌をタブレットで書き込む介護職員。記入作業が省力化されたことで入居者と接する時間が増えたという

「私が介護の現場にいた時、一番苦手だったのは介護日誌など日々の記録をまとめる作業でした」と前田さん。ざっと全業務量の10%くらい、時間にして40分程度、現場で手書きした記録を、もう一度まとめてパソコンに打ち込む。二度手間の作業だった。

介護記録システムを導入したところ、こうした作業が大きく省力化された。タブレット端末からどこでもいつでも介護日誌を入力できるし、打ち込んだデータがそのまま事務所のシステムに反映される。「約2割は短縮されました。60人が記録する時間が2割効率化されたのだから効果は大きかった」というのは「京町」の施設長代理、井戸優さんだ。

職員の平均年齢は40代後半。ICT記録システム導入に際して拒否反応を示す職員も何人かいたが、普段スマートフォンを使っているので慣れるのは早く、講習を2回受けたところ1、2ヶ月で問題なく使えるように。そして、タブレット入力によって浮いた時間を入居者と接する時間に回せるようになった。「入居者への声掛け、身体的ケアに余裕ができたし、各部屋へ顔を出す回数も増えたようです」(井戸さん)

また、同時に、職員同士の連絡用に音声通話システムを導入した。専用端末を持っていればどこにいても通話が可能になった。職員は専用イヤフォンを装着して業務についており、連絡する必要がある時は発話したい人が自分のイヤフォンのボタンを押して呼びかけると、相手の職員につながる。複数でも会話可能で、館外にいても大丈夫だ。井戸さんは「外部から職員に電話がかかってきたり、伝えることがある時でも館内を探しまわる必要がなくなりました」という。

例えば、入居者の入浴を介助していて、一人が終わって次の人に来てもらう時、これまでは衣服の着替えを介助していた職員が部屋まで呼びに行っていたが、このシステムを使えば、居室フロアにいる職員にすぐ連絡でき、待ち時間のロスが大幅に減った。

入居者の介護日誌を手書きからタブレット入力へ切り替えると、効率化だけでなく介護の質向上につながった マエダメディカルコーポ(香川県)
職員と入居者の様子などについて話す前田専務(中央)

「介護が必要になっても社会とのつながりを感じてもらえるようにしたい」

「人生が長くなって、介護施設に入居される人も多くなってきました。私たちはそうした方たちが快適に過ごされるようにがんばっているのですが、それでも家族や社会からの距離が遠くなって寂しい思いを持たれる時があります」。前田さんが今考えているのは「日々のケアの中で入居者が活躍できる場をつくること」だ。

例えば、敷地内に畑を作り、一緒に野菜を育てる。できた野菜はホームの食事のおかずにしたり、契約している給食会社に買い取ってもらう。また、同社が経営するエステサロンが販売する化粧品の海外向け出荷作業を手伝ってもらう。わずかかもしれないが、賃金も出せる。「季節感を感じながら野菜の成長を楽しみ、社会とのつながりも実感できるのではないか」と前田さん。

入居者の介護日誌を手書きからタブレット入力へ切り替えると、効率化だけでなく介護の質向上につながった マエダメディカルコーポ(香川県)
フラワーガーデン京町1階のデイサービスのエリア。建物には姉妹施設にあたるデイサービス、グループホームも入居している

団塊の世代の入居が始まるとケアのあり方が変わる 一人ひとりに合わせたケアプランが求められ「ICTもきめ細かなケアに役立つものを」

「ただ、これから団塊の世代が入居してくるようになると、ケアのあり方も変えなければならないかもしれません」。前田さんがこう予測するのは、老人ホームへの考え方が世代で異なっているからだ。これまでは家族のようなサービスを求める人が多かったが、団塊の世代になると、ホテルのような暮らしを求めるようになるのではないか、という。「一人ひとりに合わせたケアがより求められるように思います」(前田さん)

その上で「ICTには、よりきめ細やかなケアに役立つものを期待しています」と話す。ひとつは入居者の心身の状態を把握するICTだ。現在、ベッドに設置したセンサーで就寝時の状態を見守るシステムが普及しつつあるが、これにAIカメラを連動させ、いつもと違う動きがあったらわかるようにする。夜勤職員が危険を予測することができるし、職員が無駄に見回って、眠りの浅い入居者を起こしてしまうこともなくなる。

「介護は一人ひとりの状態が違うので、それをきちんと把握していることが質の高さにつながります。そこがベテラン職員に比べて新人職員にはむずかしい点です」。前田さんは、これもICTの記録システムが一人ひとりの状態や特徴を分析して、その人ごとのToDoリストを作ることができれば、新人職員でも介護の質を高められるとみている。

〝100歳時代〟を迎え、長い高齢期の親を子ども夫婦など若い世代が仕事をしながら支えることの難しさが指摘されている。無理をして介護するうち、家庭内に次第にぎくしゃくした空気が生まれたりもする。介護放棄・虐待などの問題さえ生じるケースもある。マエダメディカルコーポのような介護のプロが支えとなる受け皿の必要性も増しているといえる。

「入居に際し親と子、兄弟など家族の間に私たち職員が関わることで、最後まで家族同士が『好き』でいられるように支えるのがプロの介護だと思います」。前田さんはこう結んだ。

入居者の介護日誌を手書きからタブレット入力へ切り替えると、効率化だけでなく介護の質向上につながった マエダメディカルコーポ(香川県)
介護付有料老人ホーム「フラワーガーデン京町」

企業概要

会社名有限会社マエダメディカルコーポ
本社香川県坂出市室町3-1-13
HPhttps://maedaseikei.net
電話0877-46-5056
創業2003年5月
従業員数80人
事業内容介護施設、メディカルエステ、フィットネスを運営