当コラムは日本M&Aセンター食品業界専門グループのメンバーが業界の最新情報を執筆しております。 今回は高橋が「 2023年食品業界の振り返りと今後の展望 」についてお伝えします。
食品業界のコストアップと2024年問題の影響
近年の食品業界は、ウクライナ情勢を皮切りに2022年~2023年はあらゆるものが高騰、かつ円安が追い打ちをかけたことで、過去に類を見ない勢いで運営コストが増加したかと思います。 業務効率化などでは吸収できず、各社による値上ラッシュが相次いだことは記憶に新しいですが、2023年12月現在においては、コストアップの勢いが収まりつつあり、値上げによる原材料等の高騰を吸収できる目途が立ってきているという企業の話を多く聞きます。
しかし、来年2024年はトラックドライバーの長時間労働を見直すための規制が強化されることで物流が停滞する、いわゆる「2024年問題」が懸念されている中で、一時的に落ち着いたコストアップの勢いが再加熱する危険性があります。日本における平均賃金はこの20年間程横ばいで推移している中で、更なるコストアップが生じた際に、消費者が値上げついてこれるかは疑問が残るのではないでしょうか?
平均賃金の推移
参照:OECD 主要統計「平均賃金 (Average wage)」より㈱日本М&Aセンターが作成
「広がるワニの口」が引き起こす食品業界の将来予測
耳に胼胝ができるほど「日本の人口減少」の話は良く聞くかと思います。 国連広報センターの「世界人口推計2019年版 データブックレット」によると2058年に日本の人口は1億円人を下回ると言われています。
その一方で世界の人口は2057年に100億円を超えると推測されており、日本と世界の人口差がワニの口のように開いていくことになるとされています。
日本と世界の人口推移
参照:世界人口推計2019年版 データブックレットより㈱日本М&Aセンターが作成
ジェトロ(日本貿易振興機構)の「Global Trade Atlas」によると、1998年当時日本は世界1位の農林水産物の純輸入国であり、プライスメーカー的な地位であったとされています。
その一方で近年はその地位が低下し、現在は中国が最大の純輸入国となっています。 20年前は、食料自給率は低くとも諸外国から購入できていたが、近年、中国が輸入を増やし、プライスメーカー的な地位になりつつある中、日本がそれに左右されることとなる可能性が出てきています。 「広がるワニの口」が引き起こす人口格差が日本の輸入品の“買い負け”を助長させ、原材料の高騰を長期的に引き起こしていくことは避けれないと思われます。
当然ではありますが、日本の人口減少は国内食品市場規模の縮小を促していきます。 総世帯の食料支出総額は全体で2040年には2015年対比で約2%減少するとされており、品目別にみると、特に大きく縮小していく品目が生鮮食品であり、支出額が2040年には2015年対比で約15%減少するとされています。
一方で加工食品への支出額は2040年には2015年対比で約10%増加するとされており、縮小する食品市場の中でも成長が見込まれる品目として見られています。
急速な需要の減少と消費行動の変化が、日本の食品産業に大きな影響を与えることは不可避であることから、将来的な予測に基づき自らのビジネスモデルを変革していくことが求められる時代に本格的に差し掛かってきていると思われます。
食糧支出額の推移が向かう先とは
参照:農林水産政策研究所「我が国の食料消費の将来推計」(2019年版)より㈱日本М&Aセンターが作成
日本の市場規模縮小と相反して、世界の食品市場は、人口の増加に伴い、拡大すると見込まれています。2015年に890兆円であった世界の食品市場は2030年には1,365兆円になり、15年間で約1.5倍の市場規模の拡張が見込まれている。エリア別にみると際立って高い拡張が推測されるのがアジアであり、424兆円から794兆円に増加見込みであり、約1.9倍の市場規模の拡張が見込まれています。
改めて統計的なデータから見ても、日本の食品産業の持続的な発展を図るためには、世界の食市場、特にアジアの食市場を獲得していくことが重要であることが見て取れるのではないかと思います。
世界の飲食料市場規模
参照:農林水産政策研究所「世界の飲食料市場規模の推計」より㈱日本М&Aセンターが作成