M&A業界における今年の漢字も「税」

2023年12月12日に発表された今年の漢字は「税」が選出されました。 消費者にとって生活に直結する増「税」、減「税」の動向が特に注目された一年でしたが、M&A関連でも「税」に大きな改革がありました。

M&Aを推進する税制度の整備

主な点として中小企業やスタートアップ関連のM&Aを推進する税制度の整備が挙げられます。 令和5年度税制改正により、2023年4月1日以降にスタートアップ企業の成長に資するM&A(事業会社によるスタートアップ企業の議決権の過半数の取得)を行った場合、その取得した発行済株式についても税制の対象とされることになりました。

具体的には、オープンイノベーション促進税制のひとつで、国内の事業会社がスタートアップ企業(設立10年未満の国内非上場企業)のM&A(議決権の過半数の取得)を行った場合に、取得した株価の25%を課税所得から控除できる制度です。 例えば、10億円の株価でスタートアップの株式を取得し完全子会社化に至った場合、その25%にあたる2.5億円部分が所得から控除(損金算入)でき、約8,500万円(2.5億円×実効税率約34%)の節税効果が見込めます。 国としても税制面で優遇を設けることにより大企業とスタートアップの連携、特に議決権の過半数以上の取得をベースとしたM&Aを増やしていこうという意図が見て取れます。    また、国内の中堅中小企業について、M&Aによって集約化を促すための制度もさらに整備されました。 2023年12月4日付けの日本経済新聞に掲載された『後継者難の中小企業、M&Aしやすく全額損金算入』という記事が話題になりました。

経営資源集約化税制のアップデート

2021年からスタートした経営資源集約化税制という制度のなかで、社員数1000人以下の中小企業がM&Aによって株式を取得した場合、取得価額の70%を準備金として積み立て(損金算入)ができるという優遇措置が用意されていましたが、本制度に加えて別口でさらに拡充されることが、2023年12月14日、自民党の公式サイトにアップされた「令和6年度税制改正大綱」の中で具体的に言及されました。

拡充が予定されている点としては大きく3点あります。

注目ポイント

  • ①社員数2000人以下の法人でも活用が可能になる
  • ②取得価額の70%ではなく、最大で100%(全額)が損金算入できる、
  • ③損金算入した準備金の取り崩しの据え置き期間が5年から10年に延長される

特に本制度はあくまで税金の繰り延べの制度である点に留意が必要ですが、その制度実態に鑑みると筆者の感覚としては据え置き期間の10年への延長は大きな影響があるように考えます。 このように、国としてもスタートアップと大企業のM&Aによる連携、中堅・中小企業のM&Aによる経営資源の集約化の両面で税制面から後押しするトレンドは、今後も加速する見込みといえます。