新システムで介護福祉士、看護師、介護支援専門員、管理栄養士の介護保険請求業務を情報一元化 職員の連携強化で介護革新 明光会(群馬県)

目次

  1. 低所得の高齢者支援に軽費老人ホームを開所 国民年金のみ加入の農業従事者が多い地域事情に対応
  2. 拡大路線に転換し、特別養護老人ホーム、デイサービスセンターを開所 低所得高齢者の介護を担うのは社会福祉法人のあるべき姿
  3. 現場監督出身の施設長が「現場第一」で業務改善を推進 介護業務支援ソフト一新で業務体系刷新
  4. ソフト一新は多職種連携による徹底した無駄な作業の排除とペーパーレスを促す土俵整備 業務改善に向けて課題解決に明確な目的を持つ
  5. 食事の調理は「クックチル」、おむつ交換には2人体制、吸収力の高いパッドを採用し、業務効率化につなげる
  6. 子育て中の女性が働きやすい環境作りに「準社員」制度を導入 パートからの職場復帰を後押し 逆境こそが業務改善の好機
中小企業応援サイト 編集部
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社会福祉法人明光会は群馬県太田市で特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム、通所介護の運営、訪問介護などを通じて、地域の高齢者の生活を支援する介護サービスを提供している。創設者が掲げた「施設は人なり」の精神は、時代を経て大きく変容した介護事業環境においても、「職員第一」「現場第一」に徹し、業務改善に取り組む現在の経営姿勢に息づく。その代表例がこれまでの業務体系の刷新を目指し、2025年4月に本格運用開始した介護業務支援ソフトの導入であり、ICTによる業務効率化、職員の意識変革を加速する。(TOP写真:「特別養護老人ホーム清和荘」の庭園で花見を楽しむ利用者)

低所得の高齢者支援に軽費老人ホームを開所 国民年金のみ加入の農業従事者が多い地域事情に対応

新システムで介護福祉士、看護師、介護支援専門員、管理栄養士の介護保険請求業務を情報一元化 職員の連携強化で介護革新 明光会(群馬県)
「軽費老人ホーム ケアハウス愛楽園」の全景

明光会の設立は1990年9月にさかのぼる。太田市と合併する前の尾島町で町長を務めた大澤明治氏を理事長に、社会福祉法人として立ち上げた。翌1991年11月には群馬県の認可を得て現在地に「軽費老人ホーム ケアハウス愛楽園」を開所した。

当時の尾島町は農業が主体で、住民にも農業従事者が多い。このため、国民年金のみ加入する農業従事者が高齢化し、国民年金だけで暮らさざるを得ない低所得者を支援する仕組みが必要な時期が訪れると判断し、明光会を設立した。

軽費老人ホームは居宅での生活が困難な60歳以上の高齢者が低額な料金で入居し、健康で明るい生活を送ることを目的とする。このうちケアハウスは食事、入浴の準備、相談、支援など日常生活上必要な便宜を提供するサービスに加え、要介護になった場合も支援するタイプで、「ケアハウス愛楽園」は居室が完全個室で自立を尊重する居住空間を提供する。

当初は高齢者介護施設がまだ一般的に広く浸透しておらず、「初代理事長は介護施設でなく低所得の高齢者を支援する寮のような位置づけで設けたのではないか」と、初代理事長の孫で現在の施設長である大澤敏明氏は話す。

拡大路線に転換し、特別養護老人ホーム、デイサービスセンターを開所 低所得高齢者の介護を担うのは社会福祉法人のあるべき姿

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「特別養護老人ホーム清和荘」の多床室(明光会提供)

一方で、高齢化の進展に伴い高齢者介護需要は急速に拡大し、明光会も事業拡大に走る。1997年に4人部屋が中心の多床室型の「特別養護老人ホーム清和荘」と通所介護の「清和荘デイサービスセンター」を開所し、2004年には「特別養護老人ホーム清和荘」に新たにユニット型個室を増床した。その後、多床室、ユニット型個室を各10床増やし、現在はそれぞれ70床、40床を備えている。大澤施設長は「低所得の高齢者を介護する軽費老人ホームや特別養護老人ホームを運営するのは、ある意味、社会福祉法人のあるべき姿と考える」と語る。

拡大路線に踏み切ったのは「これからは介護施設の時代」と判断した現在の大澤正明理事長だ。その結果、明光会は現在、上記の施設に加え「世良田デイサービスセンター」「清和荘ホームヘルパーステーション」「清和荘居宅介護支援事業所」を運営している。

大澤正明理事長は群馬県議を経て2007年7月~2019年7月の長きにわたり群馬県政を担った前知事で、県政に専念するため2008年に長男の大澤敏明施設長を明光会に呼び寄せた。大澤施設長は地元建設会社に勤務しており、全く畑の違う介護業界、特に明光会の施設の現状に違和感を覚えた。それと言うのも「当時は規模が急に拡大し、常駐して組織を適切にコントロールできる管理者がおらず、職員が好き放題に業務に当たっていたと感じた」と大澤施設長は振り返る。

現場監督出身の施設長が「現場第一」で業務改善を推進 介護業務支援ソフト一新で業務体系刷新

中堅ゼネコンで土木工事の現場監督の経験がある大澤施設長にとっては「現場第一」で、現場を舵取りするリーダーがいないと工事が円滑に進まないことは身をもって知っている。そこで、大澤施設長は統制が取れていない施設の現状を改善するには「現場を知ることが重要」と考え、予定されていた副施設長ポストを蹴って、介護福祉士の資格取得を目指す。「施設を改革していくには、自分も介護の経験を積んで資格を取っていった」と語る。

介護施設の運営は2020年に新型コロナウイルスが蔓延(まんえん)した時期に深刻さはピークに達した。現状も「介護保険報酬は徹底的に下げられ、運営の仕方を一歩間違えれば事業は一気に傾いてしまう。団塊の世代がすべて75歳の後期高齢者となり、ベッドや介護人材の不足が顕在化する『介護の2025年問題』も、都会では重大な問題でも、田舎では逆に、空床問題も出てきている」と大澤施設長は指摘する。その上で、現状規模での業務改善に徹底的に取り組むとの認識を示す。

このため、明光会が目下、業務改善の一環として着手しているのが業務体系の刷新であり、クラウドサービスで業務管理ができる介護業務支援ソフトを新たに導入し、2025年4月に本格運用を開始した。

ソフト一新は多職種連携による徹底した無駄な作業の排除とペーパーレスを促す土俵整備 業務改善に向けて課題解決に明確な目的を持つ

新システムで介護福祉士、看護師、介護支援専門員、管理栄養士の介護保険請求業務を情報一元化 職員の連携強化で介護革新 明光会(群馬県)
一新した介護業務支援ソフトを使って事務作業に当たる明光会の職員

大澤施設長は導入の狙いを「介護福祉士、看護師、食事の献立を担当する管理栄養士、さらに介護保険請求業務に当たる事務方の職員といった各セクションが作成、管理する内容には共通点がある。それを各職員がネットワークを通じていつでも閲覧でき、介護ケアも即座に日誌に記録できるようにしたいと考えた」と語る。

それまでの業務体系は既に別の介護業務支援ソフトを活用していたものの、日誌は職員がExcel、Wordで手作りし、介護福祉士、看護師もそれぞれ紙ベースで記録していた。更に厨房は別のソフトで管理栄養士が献立を作り、紙ベースで配るという非効率さが際立っていた。「新ソフトは多職種連携による徹底した無駄な作業の排除とペーパーレスを目指す、いわば業務改善に向けた土俵整備のために導入した」と大澤施設長は話す。

新ソフト導入の効果については、例えば、居宅利用者に対して作成したケアプランはショートステイやデイサービス、通所介護のケアプランにそれぞれ打ち込んでいた作業が、通常介護計画に連動して反映されるようになり、「職員の労務は激減した」(大澤施設長)。さらに、新ソフトは厚生労働省が規定する書式のバージョンアップや科学的介護情報システム「LIFE」への申請にも対応しており、介護報酬の加算取得にも役立っている。今後はパソコンだけの運用からタブレット端末やスマートフォンにも範囲を徐々に広げ、「2025年度中にはしっかり運用できるようにしたい」(同)と言う。

大澤施設長は業務改善を進めるに当たり、課題解決に明確な目的を持って、それに合致する手法、ツールに重点を置く。新ソフトも「介護記録、介護計画、居宅計画などが全部一つにまとまるソフトを探していて、そのニーズを満たしたのが導入の決め手だった。要は初めにこのソフトありきでなく、業務改善を目指す機能を備えていたのがたまたまこのソフトだった」と話す。

食事の調理は「クックチル」、おむつ交換には2人体制、吸収力の高いパッドを採用し、業務効率化につなげる

新システムで介護福祉士、看護師、介護支援専門員、管理栄養士の介護保険請求業務を情報一元化 職員の連携強化で介護革新 明光会(群馬県)
「人手不足になれば否応なしに職員を大事にし、次の成長につながるため職員を育てることが重要になってくる」と語る大澤敏明施設長

このほかの業務改善策にも、同様な手法で取り組んできた。その一つが利用者に提供する食事で、調理した食品を急速冷凍し、低温で保存、提供前に再加熱する「クックチル」という調理システムの採用だった。明光会は地元の雇用を守る観点で地産地消を推進し、食事は管理栄養士の立てる献立表により調理する直営にこだわってきた。ただ、これを維持するには朝食の時間に合わせて多数のスタッフが必要になる。このため昼の時間帯にパートのスタッフが調理し、クックチルで急速冷凍した食事を翌日の朝食に提供する仕組みに切り替えた。「これも厨房メーカーからクックチルという手法があると知らされ、うちのニーズに叶うと判断した」と大澤施設長は語る。

利用者のおむつ交換も「特別養護老人ホーム清和荘」の多床室では従来、職員1人で対応していた。これを2人体制に移行した。さらに低廉なおむつからパッドの吸収力の高いおむつに切り替えた。この結果、交換時間は半減し、職員の体力負担も軽減した。また、先輩と後輩を組み合わせることで、その場でレクチャーし、後輩が実務を通じ習得できるようになった。

吸収力の高いおむつへの切り替えはコストが上昇したものの、一人当たり1日平均8~9回だった交換頻度は3.5回に激減し、廃棄量も減り、トータルでコストダウンを実現した。利用者にとっても交換の時間が短縮、回数も減り、羞恥(しゅうち)心の低減につながっている。

子育て中の女性が働きやすい環境作りに「準社員」制度を導入 パートからの職場復帰を後押し 逆境こそが業務改善の好機

一方、「職員第一」という点で、明光会は「準社員」という独自の職制を設けている。女性職員は子育てのため、パート勤務になる時期がある。その後、正規に職場復帰するケースあるものの、介護は24時間365日の職場で、正職員には夜勤もあるため、職場復帰せずにそのまま辞めてしまうケースもある。大澤施設長はこれを改善しなければ介護の現場は回らないと考え、「子育て中のママが働きやすい環境を」と設けたのが準社員の制度だ。

シフト制の職場で従業員が事前に休日を申請する希望休について、準社員には正職員に比べ幅を持たせ、子育て世代に働く機会を設けることを狙った。実際、制度を新設した2017年頃は「極端な話、希望休が7、8日あっても構わない。全職員で子育て中の就業を支援すれば」とスタートした。制度はここ5年で整備が進み、現在は90人の従業員のうち10人程度が準社員で、希望休が2日程度に減らせるようになれば、正職員への復帰も可能になり、実際、そうしたケースも多い。

かつて潤った介護事業環境と異なり、足元の明光会は人手不足、介護職員不足、さらに介護施設の利用者不足に直面する。しかし、大澤施設長は今が業務改善を推し進める好機と捉える。「人手不足になれば否応なしに職員を大事にし、次の成長につながるため職員を育てることも重要になってくる。それは介護の現場に携わってきたこそ実感できる」と大澤施設長は語る。一方、「職員も逆境の中で、何か無駄なことがなかったかを徹底的に考えるようになり、少ない人数でどう取り組めば業務の効率が上がるかも考えるようになる」と職員の意識変革にもつながってくる。その意味で、新たに運用開始した介護業務支援ソフトは職員に業務改善に向けた自信と意識改革となった。

企業概要

法人名社会福祉法人明光会
住所群馬県太田市亀岡町280
HPhttps://meikoukai.net/
電話0276-52-5002
設立1990年9月
従業員数90人
事業内容 特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム、通所介護など高齢者介護サービス