目次
本社を置く笠間市を中心に茨城県内にこだわって30年以上事業を続けてきた株式会社久工は、電気工事から土木工事、建築工事など幅広い分野で事業を手掛ける総合建築会社だ。久保田智子代表取締役をはじめほぼ全員が技術資格を取得している技術者集団だが、ここ数年の人手不足は深刻で従業員の高齢化は大きな経営課題となっている。そこで積極的な情報発信と採用活動に向けてホームページ・企業案内作成ツールを導入、早くも成果が出始めている。 (TOP写真:トンネル内の照明交換工事=茨城県水戸市の梅香トンネル)
不況の中、業容を順次拡大し建築関連業務全般をカバー。電気工事と土木が事業の両輪に
久工の前身は1990年に笠間市で開業した電気工事店だ。地元企業の電気工事請負が専門だったが2年後には「クボタ電気有限会社」として法人化。バブル経済崩壊後の不況が地方都市でも深刻化する中で、土木や舗装、水道施設と業種を増やしながら収益を確保。2000年には株式会社化し社名も業容を表す「久工」に変更した。
その後も建築工事、機械器具設置工事など業種を増やし2020年には解体工事の許可も取得し、建築関連業務全般をカバーできるようになった。
1998年に代表取締役に就任した久保田社長は「株式会社化の前までは不況で案件が減って業績は下り坂だったが、土木技術者を迎えて県内の土木工事も請け負えるようになった。その後も業種を広げてどうにかやってこられた」と経営の苦労を振り返る。
久工の2023年7月期売上高は約5億円だが、主力の電気工事関係の案件が7~8割を占める。しかし、土木工事は受注額が大きく、売上比率は5対5と電気工事に肩を並べ事業の両輪となっている。
入社希望者ゼロで危機感抱き、就業環境を整備。残業ゼロ、健康経営で採用積極化
従業員数は現在15人だが、「若い人が採用できないので従業員の高齢化が進んできた。若い人はたまに入っても続かなかった」(久保田社長)。現在は20代と40代が1人、あとは60代以上という“高齢化企業”となっていて、若手の採用と定着が喫緊の課題となっている。
三村治章取締役統括工事部長は「以前はハローワークや求人広告で年間数名程度の応募があったが、この5年間は全く反応がなく、問い合わせがあっても60代、70代の方だけ。相当な危機感だった」と深刻な人手不足の状態を説明する。
人材確保のために就業環境の整備や福利厚生の充実にも取り組んだ。2024年問題を先取りし、「残業はほぼゼロで、フルタイムにこだわらず各々に合った働き方ができている」(三村取締役)。女性技術者も活躍している。
「従業員の体と資格が資本」と久保田社長が強調するように、健康経営も積極的に取り入れている。健康診断の励行はもとよりメンタルケア、保健師による健康相談や生活指導、がん・心筋梗塞(こうそく)・脳血管疾患の3大疾病保険などで従業員の健康維持に注意を払うようにした。
想定外の事態への対応力にアドバンテージ。地元を知り尽くした強みで信頼獲得。若手採用でマネジメント能力育成へ
久保田社長が「当社はほとんど県内の仕事、特に本社の周辺など近くの現場が多いことが大きなメリットでもある」と話すように、地元の地理や気候を熟知した施工ノウハウは久工の強みとなっている。「現場の状況によっては発注通りに施工できないこともあり、現場をよく知っている当社だからこそ想定外の事態にも臨機応変に対応できるアドバンテージがある」(三村取締役)。現場の対応力と技術力が地元企業や自治体から信頼を得ている。
若手従業員採用に力を注ぐのは長年地元で培ってきた技術力や施工ノウハウの伝承を急ぎたいためだ。若手の技術資格取得は会社が全面サポートしているが、「資格を取得しただけで一人前とはいえない。熟練技術者による指導でマネジメント能力を習得してほしい」(三村取締役)。久工の3本柱である電気工事、土木工事、建築工事はそれぞれが密接に関連している。個別の技術だけではなく全体をマネジメントできる技術者の育成が「町の工事屋」から「信頼できる地元の総合建築業」に名実ともに脱却するために不可欠な経営課題といえそうだ。
三村取締役は情報発信にさらに磨きをかけて、「電気工事にあと2人、土木工事に3人」の若手を採用したい考えだ。
ホームページ作成ソフトを導入し使い勝手に満足 2023年8月にホームページを刷新し、求人情報も充実。早くも若手採用に効果
求人活動強化の一環として2023年6月に導入したのがCMS(コンテンツ・マネジメント・システム)ベースのホームページ作成ソフトだ。Webの専門知識がなくても簡単にホームページの作成や更新ができる。
久工は他社のホームページも参考にしながら2ヶ月で新しいホームページを作成し、公開にこぎつけた。企業概要から経営理念、SDGsの取り組み、業務内容、そして就業環境や福利厚生、賃金・手当など求人情報は特に詳細に記述し、充実させた。ホームページ刷新を担当した三村取締役は「運用が本当に簡単で出来栄えも良い」と非常に満足している様子だ。
新しいホームページの効果はすぐに現れた。「ホームページと連動している求人サイト経由で5件の問い合わせがあり、そのうちの1人は2024年1月からの採用が決まった」(三村取締役)。20代の採用予定者は「同業各社のホームページを比較したが、地元に密着した企業だと強く感じた」と選択理由を説明したという。
このホームページ作成ソフトウェアで企業カタログを作成できるので、企業カタログの制作を外注して印刷するという時間と費用が省けるだけでなく、ホームページで情報更新するとカタログにも反映しやすいので、企業カタログの作成が短時間で行えるという強みも手に入れた。2024年には新しい企業カタログを作成するとともに、給与計算や勤怠管理など業務管理システムの導入も2024年から本格的に導入する計画で、ICTソリューションによる情報発信と業務効率化による競争力強化を目指している。
「若手採用」で会社の長寿命化目指す。子息の入社で事業承継の不安払拭し変革を推進
地方の中小企業は高齢化や後継者不在などにより事業承継が困難になるケースが増えており、茨城県も例外ではない。県や関連団体による支援ネットワークも活用されているが、後継者がいないため廃業するケースは少なくない。久工の積極的な採用活動の裏には会社の若返りを急ぎ会社の長寿命化を図りたい気持ちがあるのも事実だ。
久保田社長の20代の長男は「会社を継ぎたい」と久工への入社を表明したという。勤めていた信用金庫を辞めて、電気工事の専門学校で資格を取得。2024年春から都内の電気工事会社で技術を身につけてから地元に戻る予定だ。「後を継がせるつもりはなかったが、正直ほっとしている。経営を継続できるだけで、勝ち抜く可能性ができたといえるかもしれない」と久保田社長は苦笑いする。
子息の入社も決まり、若手採用拡大とICTソリューションの本格活用で久工の若返りは進みそうだ。新しい「久工」への変革が少しずつ、しかし確実に進みつつある。
企業概要
会社名 | 株式会社久工 |
---|---|
本社 | 茨城県笠間市南吉原132番地 |
HP | https://kyu-ko.co.jp/ |
電話 | 0296-72-9760 |
設立 | 1992年8月 |
従業員数 | 15人 |
事業内容 | 電気工事、土木工事、建築工事、とび土工工事、管工事、舗装工事、水道施設工事、機械器具設置工事、解体工事、産業廃棄物収集運搬業 |