年頭に表明された異次元の少子化対策、さらに4月のこども家庭庁の発足等、少子化問題への対応強化が図られた2023年。
こうした動向を受け、人事・労務担当者の皆様は、何か新たな取り組みに目を向けられているでしょうか。
少子化対策と人事・労務管理は一見すると全く異なるテーマにも思われますが、働く人が子供を産み育てるためには、職場による仕事と育児の両立支援が不可欠です。
昨今の少子化傾向は今後ますますの深刻化が予測されており、国と企業が共通の方針の元、問題解決に取り組んでいく必要があります。 今回は、2023年6月13日に閣議決定された「こども未来戦略方針」を元に、企業がおさえるべき両立支援の方向性を確認しましょう。(文・丸山博美社会保険労務士)
目次
こども・子育て政策上、問題視される「子育てと両立しにくい職場環境」
日本における少子化対策はこれまでも着実に進められており、一定の成果を得た施策はあるものの、依然として少子化傾向が解消されるには至らない現状があります。
少子化の背景にはあらゆる要因が複雑に絡み合っており、改善困難となっていることは言うまでもありませんが、「こども未来戦略方針」では、こども・子育て政策を抜本的に強化していく上での主要課題として以下3点を挙げています。
・若い世代が結婚・子育ての将来の展望が描けない
・子育てしづらい社会環境や子育てと両立しにくい職場環境がある
・子育ての経済的・精神的負担感や子育て世帯の不公平感が存在する
これら3つの課題を乗り越えるべく、「若い世代の所得を増やす」「社会全体の構造・意識を変える」「全てのこども・子育て世帯を切れ目なく支援する」の3点を基本理念として、今後の少子化対策が進められていくことになります。
企業においては、「子育てと両立しにくい職場環境」という課題に取り組むために、企業のトップや管理職の意識を変え、仕事と育児を両立できる環境の整備を進めていくことが求められます。
今後3年間に集中的な取り組みが進められる少子化対策・4つの柱
日本における少子化は、2000年以降、加速の一途を辿っています。
2022年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの数)は1.26と、2005年と並び過去最低を記録しており、状況は深刻化しています。
今後、若年人口が急激に減少する2030年代を迎えるまでに状況が改善されなければ人口減少を食い止めることは不可能とも言われる昨今、政府は、向こう3年間を集中取組期間に指定し、あらゆる少子化対策を前倒しで実施する「加速化プラン」を示しました。
加速化プランでは、前項の3つの主要課題に取り組むべく、以下4点を柱として具体的な施策が講じられます。
- ライフステージを通じた子育てに係る経済的支援の強化や若い世代の所得向上に向けた取組
- 全てのこども・子育て世帯を対象とする支援の拡充
- 共働き・共育ての推進
- こども・子育てにやさしい社会づくりのための意識改革
4つの柱の中でも、3.共働き・共育ての推進について、具体的に解説します。
「共働き・共育ての推進」関連の企業における具体的な施策
企業の人事・労務管理に関連する取り組みは、主に「共働き・共育ての推進」の項目に盛り込まれています。
概要のみの公開となりますが、制度新設や既存制度の拡充方針に関する具体的な記述もあるため、事業主様や人事・労務担当者様であればもれなく確認しておきましょう。
Ⅰ. 男性育休の取得促進
・男性の育児休業取得率目標の大幅引き上げ
2025 年 公務員 85%(1週間以上の取得率)、民間 50%
2030 年 公務員 85%(2週間以上の取得率)、民間 85%
・2025 年3月末で失効する次世代育成支援対策推進法を改正し、その期限を延長した上で、一般事業主行動計画について、
→ 数値目標の設定や、PDCAサイクルの確立を法律上の仕組みとして位置付ける
→ 男性の育児休業取得を含めた育児参加や育児休業からの円滑な職場復帰支援、育児のための時間帯や勤務地への配慮等に関する行動が盛り込まれるようにする
・育児・介護休業法における育児休業取得率の開示制度の拡充の検討
・産後パパ育休(最大28日間)及び女性の産休後の育休(ただし28日間を上限とする)の取得時における育児休業給付金の給付率を引き上げる(2025年度からの実施が目標)
現行:67%(手取りで8割相当) → 引き上げ後:80%程度(手取りで 10 割相当)
・育児休業を支える体制整備を行う中小企業に対する助成措置を大幅強化
→ 業務を代替する周囲の社員への応援手当の支給に関する助成の拡充
→ 代替期間の長さに応じた支給額の増額
→ 「くるみん認定」の取得など、各企業の育児休業の取得状況等に応じた加算等の実施インセンティブ強化 ・育児休業給付を支える財政基盤の強化
Ⅱ. 育児期を通じた柔軟な働き方の推進
・育児期の男女がともに希望に応じてキャリア形成との両立を可能とする仕組みの構築及び好事例の紹介等の取り組み
・子育て期の有効な働き方の一つとして、テレワークを事業主の努力義務の対象に追加
・「親と子のための選べる働き方制度(仮称)」)の創設
→ 3歳以降小学校就学前までの子を育てる労働者について、事業主が職場の労働者のニーズを把握しつつ、複数の労働時間制度を選択して措置し、その中から労働者が選択できる制度
・現行で3歳までとなっている所定外労働の制限の対象年齢引き上げ
・「育児時短就業給付(仮称)」)の創設(2025年度からの実施が目標)
→ 2歳未満の子を育てる労働者について、時短勤務を選択したことに伴う賃金の低下を補い、時短勤務の活用を促すための給付
・周囲の社員への応援手当支給等の体制整備を行う中小企業に対する助成措置の大幅な強化
・「子の看護休暇」について、対象となる子の年齢の引上げの他、子の行事参加や、感染症に伴う学級閉鎖等にも活用できるよう休暇取得事由の範囲の見直し
・勤務間インターバル制度の導入やストレスチェック制度の活用など、労働者の健康確保のために 事業主の配慮を促す仕組みの検討
Ⅲ. 多様な働き方と子育ての両立支援
・子育て期における仕事と育児の両立支援を進め、多様な働き方を効果的に支える雇用のセーフティネットを構築する観点から、雇用保険の適用拡大(2028年度までの実施が目標)
・自営業やフリーランス等の育児期間中の経済的な給付に相当する支援措置として、 国民年金の第1号被保険者について育児期間に係る保険料免除措置の創設(2026 年度までの実施が目標)
企業実務に影響を及ぼす少子化対策。 引き続き、最新情報に注目を
上記の他、加速化プランの柱のひとつである「ライフステージを通じた子育てに係る経済的支援の強化や若い世代の所得向上に向けた取組」として、「年収の壁(106 万円/130 万円)」への対応」が盛り込まれています。
こちらはすでに2023年10月より実施されており、異次元の少子化対策の名に恥じぬ、迅速果敢な対応という印象を受けます。
「こども未来戦略方針」にある人事・労務関連施策は多岐に渡り、今後、企業実務に多大な影響を及ぼすこととなります。 各施策に関わる施行時期や詳細等、続報が待たれるところです。