事例
(画像=Jirapong Manustrong/Shutterstock.com)

M&Aを継続することによって、高ROEを維持

株式会社アウトソーシング(以下「OS」)は、ここ6年で15件のM&Aを実施してきている。前頁OS、茂手木専務のインタビューからも明らかなように、OSは多数のM&A を継続することにより、選択眼を高め、PMIにおいては独自のノウハウを確立してきた。その結果、のれんの償却負担などよにり短期的な低下はあるものの、ROEは中期的に向上してきている。

この背景には、祖業である製造業アウトソーシング・ビジネスの枠にとどまることなく、建築・土木、IT、医療関連と領域を広げ、その各領域において知見を広め、グループ総合力を高めてきていることがある。すでに事業領域を広げた同社においては、M&A案件の成否の見極め、適正価格、買収後のPMIフローが備わっている。買収価格においては、つねに適正価格の軸がぶれず、高すぎると判断した場合には、泰然と見送るという冷静さも備えている。

ここでは、最近成約した共同エンジニアリング株式会社(以下「KD」)買収案件を取り上げてみたい。

図1
(画像=Futureより)

共同エンジニアリングの事業内容

KDは国内外の大手顧客に対して、土木・建築工事、空調衛生設備、建設コンサルタント、設計、管理業務等の技術者を派遣している。

KDは国内のスーパーゼネコンを中心に抜群の知名度を誇り、国内の現場はもとより、海外に対するインフラ輸出案件でも中核となる人材を供給しており、顧客にとって欠かせない存在となっていた。

共同エンジニアリング
(画像=Futureより)

本件M&Aの背景

KDは、2020年の東京オリンピックや老朽化した国内インフラの更新という喫緊の課題や、海外に事業機会を見出し始めた国内大手ゼネコンによるインフラ輸出事業等の拡大トレンドに支えられ、毎年10% 以上の着実な成長を続けており、極めて良好な経営状況であった。

しかしながら、KDでは顧客より要求される人材の高度化が進み、KDの業界内の知名度をもってしても当該ニーズに答えることのできる人材の採用ができていないという課題に直面していた。例えば、海外プロジェクトへの派遣のため、英語・フランス語の堪能な1級建築士を派遣してほしい等のニーズである。顧客からの仕事の引き合いは非常に強いものの、人材採用力の観点から当該依頼を断らざるを得ない状況が続き、収益機会を逃していたことも事実であった。

上記環境下においてKD前代表は、自社の今後の成長のためには、自社の弱みを補完できる大手企業のグループに参画した方が会社のため、従業員のためになるのではないかと考えた。また、自身の年齢、ご子息が官僚や医師となり、会社を継ぐ可能性が実質的に皆無である現状を総合的に勘案し、M&Aに踏み出した。但し、前述の通り、KDの現状の経営は好調であり、M&Aの相手は同業のどこでも良いという訳ではなかった。弊社とKD前代表との複数回に渡るデイスカッションの結果、KDの更なる成長に資する企業、従業員を託せる企業、具体的には、資本力、人材採用力、営業力等がある同業大手という条件で相手探しをすることとなった。その中でも、経営理念に共感でき、M&Aを多数実行し、確固たるPMI手法を有していたOSと始めに交渉をしたいという申し出となった。

両社のトップ面談に於いては、OSのマネジメント陣は決して上から目線になることなく、むしろ10数年で、ここまでのビジネスを育てたKD前代表の手腕を高く評価し、KD前代表もそのようなOSの姿勢に感銘を受けた。さらに、OSは業績も順調に拡大していることから、「この企業であれば、KD を託すことができる」との確信に至り、最終的に譲渡の決断をされる。

本件シナジー

(1)人材採用のさらなる強化
(2)営業力のさらなる強化
(3)KD役員及び従業員のさらなるモチベーションアップ
(4)建築・土木技術者派遣業界におけるOSのプレゼンスの向上

本件実行により、OSの製造業以外での売上構成は約40%となり、祖業と拮抗している。KDとのPMIはいまだこれからであるが、前述したPMIフローを当てはめることにより、OSグループの一員として大きく成長するものと確信している。

栗原弘行(事業法人部 上席課長 株式会社日本 M&Aセンター)

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