交通事故などで被害者が死亡した場合、損害賠償請求の手続きは誰がどのようにすればよいのでしょうか。
また、被害者の相続人が遺産分割を行う際の注意点にはどのようなものがあるのでしょうか。
損害賠償請求の手続きは相続人が行う
交通事故や犯罪、災害などが原因で起こった相続の遺族は、亡くなった本人の財産以外に死亡原因に関する損害賠償の請求権を相続することになります。
つまり、損害賠償請求の手続きは、本人が加害者等に行う予定であったものを相続人が代わりに行うということになります。
損害賠償の請求は金銭で行うことが法律で決められています。
不動産などと異なり、金銭は分けることができるため(可分債権)、理屈上、遺族はそれぞれが持っている相続分に応じて個別に損害賠償請求を行うことができます。
事実上加害者等との交渉は遺族が一体となってする必要がある
ところが、損害賠償額はすぐに確定するものでなく、加害者との訴訟などの交渉が必要で、その額が定まるのに時間がかかることが通常です。
そのため、結局のところ、遺族は加害者等に対して一体となって交渉することが必要となることが多く、この場合、遺産分割の話し合いをしているのと変わらない状況となります。
なお、遺族に個別に支払われる「慰謝料」は損害賠償と異なり遺産分割の対象になりません。
損害賠償請求権の消滅時効に注意
交通事故などによる加害行為は法律上、他人の権利を違法に侵害する行為である不法行為と定義されます。
不法行為による損害賠償請求権は損害および加害者を知った時から3年間で消滅してしまうため、遺産分割協議にあまり時間をかけると、請求権自体が消滅してしまうおそれがあり注意が必要です。
しかし、損害賠償金額は逸失利益(本人が得るはずであった経済的利益)や事故の状況、その他さまざまな事情を考慮して算定され、その確定までには相当の時間がかかります。
そのため、損害賠償金を含めて遺産分割協議を行おうとした場合、分割確定まで長期間かかることになります。
このような状況を回避するためには、遺産分割協議において、損害賠償金については別途協議する、損害賠償額が確定した後の分割割合だけ定めておく、などの方法を取ることができます。
なお、一般論として、損害賠償金については相続税の対象とはならないため、その相続について相続税の申告期限を考慮する必要は原則ありません。
この点からも、遺産分割協議を行うために必ずしも損害賠償額の確定を待つ必要性はないと言えます。
損害賠償は加害者以外に対しても行うことができる場合がある
加害者等が保険に加入していた場合も、損害賠償の請求相手は保険会社ではなく加害者等となります。
ただし、交通事故の場合は保険会社に請求でき、さらに、車の所有者や加害者等を雇用していた者(使用者)などに対しても請求可能な場合が多数あります。
例えば、会社の従業員が社用車を運転中に交通事故を起こしたような場合、雇用主たる会社に損害賠償請求を行うことができます(使用者責任)。
まとめ
損害賠償請求権は可分債権として遺族に相続されるものの、その請求手続きは事実上全相続人が一体となって行うことになり、加害者等との交渉や訴訟を通じてその額を確定させる必要があります。
賠償額の算定は複雑で、通常その確定までに相当の時間を必要とするため、損害賠償請求権が時効消滅してしまわないよう、損害賠償額の確定を待たない遺産分割協議の方法を検討することが重要です。
また、交通事故の場合は加害者以外にも損害賠償請求できる者がいる場合があることを知っておきましょう。
(提供:相続サポートセンター)