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福井城址を眼前に望む福井フェニックスホテルはコロナ禍の中、いち早く宿泊療養施設となることを名乗り出た。2023年7月のホテル再開時には自動精算機を導入するともに、新しい目玉として県内7つの伝統工芸品すべてを取り入れた県内唯一のスイートルームをオープン。この効果は大きく、伝統工芸をアピールするホテルとして脚光を浴びている。(TOP写真:左側の福井城址のお堀に面して建つ福井フェニックスホテル)
小規模ホテルの購入がホテル経営のきっかけ
福井フェニックスホテルを運営する株式会社六大陸は尹泰充(ユン・テチュン)代表取締役社長が設立。尹社長は当初、不動産業を志向していたが、競売物件の小規模ホテルを購入できたことから、ホテル業に進んだ。
2011年8月、システム支援会社から予約システムを導入し、改装したうえで客室27室のタウンホテル福井を開業。予約サイトによるネット予約に力を入れ、当日割引など柔軟な価格戦略で軌道に乗り始めた翌年、売りに出された福井フェニックスホテルを縁あって購入した。
2012年、福井フェニックスホテル開業
2012年に開業させた福井フェニックスホテルは客室87室の中規模ホテル。会議場やレストランもあり、立派なお堀のある福井城址を眼前に眺められる立地の良さもあった。尹社長はタウンホテル福井と福井フェニックスホテルの二足のわらじでホテル経営に集中。シリンダーキーをカードキーに変更することや、自動チェックインシステムの導入なども考えていたが、コスト面から先送りしていた。
コロナ禍での宿泊療養施設を経て、2023年7月にホテル業再開
コロナ禍で宿泊予約のキャンセルが殺到するや、タウンホテル福井は休業のやむなくに至る。一方で、尹社長は福井フェニックスホテルを宿泊療養施設として県に提供することを決意。社員の不安が懸念されたため、休業中の「家族と相談した上で、出社するかどうかの判断するよう社員に依頼した」(絹川正人取締役支配人)。 結果、宿泊療養施設を運営できる人数を確保できる目途が立ち、社員は感染者に接触しないグリーンゾーンのみで対応し、レッドゾーンは医療スタッフのみとすることなどを決定。当時の予約客には別のホテルを紹介して差額を負担したり、ゴミ回収業者を変更せざるを得なかったりするなど大変なこともあったが、5類感染症に移行した2023年5月まで運営した。
自動精算機の省力化効果は絶大。宿泊客が人を介さない安心と現金チェック作業等の雑務がなくなった
ホテル業再開にあたってまず決めたのが、新型コロナウイルス感染症関連の制度で経費が半額補助される自動精算機の導入。「コロナ禍にあって、人を介さない方が顧客集めに有利」(絹川支配人)と判断できたことに加え、宿泊療養施設に移行した際に社員が半分になって、業務量の削減も求められていたからだ。
結果は「大幅な省力化が実現した」(尹社長)。現金のやりとりに起因するトラブルや日々行う現金のチェック作業がほぼ不要になったことが一番大きかった。 一方で、人員削減はしなかった。それどころか、2022年は6人、2023年は1人の新卒採用を行ったほど。そこには、福井フェニックスホテル再開後の目玉とした、福井県の伝統工芸をアピールする狙いもあった。
コロナ明け、再スタートの目玉として、県内唯一の7つの伝統工芸を採用したスイートルーム
新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行が取りざたされるなか、福井フェニックスホテルでもホテル業再開に向けた検討が進められた。その中で福井県から提案されたのが、県の補助制度を使える「伝統工芸を活用した客室への改修」だった。
尹社長はすぐに決断。最上階8階のロイヤルスイートなど4室を、伝統工芸品を取り入れた客室にすることを決めた。ロイヤルスイートには県内7つの伝統工芸すべてと、福井市で産出される青い石・笏谷石(しゃくだにいし)を使った部屋にすることも決めた。
客室の値段は88,000円と高めだが、窓からは福井城址が一望でき、多くの人に気に入られている。
県からは経費の3分の1が補助されるため、他の宿泊施設でも伝統工芸を活用した客室がある。しかし、「7つすべての伝統工芸があるのは、福井フェニックスホテルのロイヤルスイートだけ」と、尹社長は胸を張る。しかも窓側の壁には一面に笏谷石が使われ、地元メディアから注目を集めた。
社員は伝統工芸を勉強し、制作も行える伝統工芸コンシェルジュに
尹社長はモノだけでは満足しなかった。福井の伝統工芸を利用客に知ってもらうため、社員の伝統工芸コンシェルジュ化を図ったのだ。
福井県には経済産業大臣指定の伝統的工芸品として、越前漆器、越前和紙、若狭めのう細工、若狭塗、越前打刃物、越前焼、越前箪笥(釘を使わない指物)の7品目がある。伝統工芸コンシェルジュを目指して社員はこれらの産地に行って勉強をするだけでなく、実際に自分で制作も行った。自動精算機の導入によって空いた時間を伝統工芸のアピールに利用する。
社員の伝統工芸コンシェルジュ化の結果、伝統工芸があるホテルというだけでなく、伝統工芸に興味をもつ利用客の興味関心に応えられるホテルにすることができた。1階のエレベーター前の飾り棚には7つの伝統工芸が置かれ、その中には社員が作ったものも並べられている。8階の廊下に設置された越前和紙のライトも、社員が作ったものだ。
伝統工芸アイドルも来館し、SNSにスイートルームが掲載され話題に
尹社長のアイデアはこれにとどまらない。2019年に伝統工芸を応援するために結成された地元の5人組アイドルグループ「さくらいと」とも連携。「たまたまイベントで知り合った」というが、テレビの取材などで「さくらいと」のメンバーがロイヤルスイートなどを訪れた写真はSNSなどにアップされ、伝統工芸を採用した福井フェニックスホテルのアピールにつながっている。
電帳法に対応し、請求業務のクラウド化、Wi-Fi更新、LED導入など積極的なICT投資
尹社長はホテル業の再開に合わせて請求書業務システムをクラウドにした。結果的にどこからでも仕事が出来、業務改善が進みペーパーレスにもつながった。更に、電子帳簿保存法の要件を満たせばペーパーレスで書類の保存が可能になった。また、Wi-Fiも更新してセキュリティ機能をアップさせたほか、常時つけている照明のLED化にも取り組むなど、ICTなどの設備投資を一気に進めた。
タウンホテル福井の再開を検討中
順風満帆な福井フェニックスホテルにあって、尹社長の気がかりは休業中のタウンホテル福井。「自動チェックインシステムなどを導入し、1人で対応できるようにするなど省力化すれば再開できる可能性はある」と見ているが、「1人勤務だと社員の心の健康が保てるかが心配」だからだ。
宿泊療養施設への転換にあたっても、自動精算機導入による劇的省力化にあたっても、社員のことを常に考えていた尹社長。今後もICTを積極導入しながら社員にやさしい会社としてホテルを運営し、県の伝統工芸もアピールしていく。
企業概要
会社名 | 株式会社六大陸 |
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住所 | 福井県福井市大手2-4-24 大手ビル3F |
HP | http://phoenix-hotel.jp/ |
電話 | 0776-21-2525 |
設立 | 2011年6月 |
従業員数 | 33人 |
事業内容 | ビジネスホテル、飲食店経営、不動産賃貸 |