目次
- 高い技術力を要し、参入が難しい半導体製造装置向けハーネス製造で成長
- 工場と一体化した新社屋を完成。「いいタイミングで建設できた」
- 航空宇宙、二輪車向けも開拓。広がる共同開発の輪。きっかけは、350キロで高速走行するオートバイの複雑な電子制御に耐えうるハーネスの技術力
- 生産管理と事務系システムをつなぎ顧客対応力強化。自動倉庫により在庫情報の見える化とBCP対策も実現
- 2022年5月経済産業大臣による「DX認定制度」の認定。ササキでは、従業員が幸せになるDXが推進されている
- 社員の福利厚生の充実に力を入れる。自然との融合、すぐそばにある製造現場とオフィスと休憩スペース。フィットネススタジオも食堂も開放的
- 働き方改革も推進。働く女性が能力を発揮できる企業として2023年6月山梨県の「山梨クリスタルえるみん」の第一号に選ばれた
- 会社の成長を支え続ける新たな自社ブランド製品の開発を目指す
産経ニュース エディトリアルチーム
株式会社ササキのホームページを開いて最初に目に飛び込むのは「わたしたちは、かならずつなげる。」という言葉。それは英文の「CONNECT THE WORLD TO THE FUTURE」(世界を未来につなぐ)でもあり、今まで様々な分野の企業へ、他社ではできない高度な技術で対応してきた自負と決意だろう。また新たな分野への挑戦は、まさにレジリエンスな企業(重圧があり変化の激しい状況でも柔軟に対応し、失敗や困難を成長へと導く力)と言えるだろう。
「新しい部品への挑戦は夢がある」。技術開発に並々ならぬ意欲を見せるのは、ササキ(山梨県韮崎市)の佐々木啓二代表取締役だ。半導体製造装置用のハーネス製造で成長してきた同社は、航空宇宙向け、レース用二輪車向けなど次々と新しい需要をつかんでいる。2023年には社屋と工場が一体化した最新の本社・新工場も完成。生産管理システムなどでDX(デジタルトランスフォーメーション)化も推進し、さらなる成長を見込む。(TOP写真:高度な技術が要求されるハーネスの製造)
高い技術力を要し、参入が難しい半導体製造装置向けハーネス製造で成長
ハーネスとは、複数のワイヤーの末端に端子を付け、他の機器に接続できるようにした部品。自動車用のワイヤーハーネスが知られているが、さまざまな産業用機器にも使われている。株式会社ササキが得意とするのは、半導体製造装置向けだ。製造装置向けハーネスは、動力となる400ボルトを常時供給するための太いケーブルや場合によっては髪の毛の太さほどのケーブルを使用するなど、「多品種少量生産の特殊なもの。それだけ専門技術が必要となるため、参入も難しい」(佐々木社長)という。
同社は1995年、佐々木社長の父親が、半導体製造装置大手の工場内請負作業を事業として、韮崎市で創業した。だが、その装置メーカーでケーブル類が足りなくなり、指導を受けながらササキも1998年頃からハーネス製造に乗り出した。その後は取引先の成長に伴い事業も軌道に乗り、2000年には韮崎市に工場を設置。その後も2004年には第2工場、2007年には第3工場を増設。さらに、2012年には同じ製造装置メーカーの拠点がある宮城県(宮城県大和町)にも工場を開設するなど、順調に業容を拡大した。
佐々木社長は外資系保険会社に勤務していたが、父親が創業した会社を継ぐべく、2005年に入社。当初は取引先の製造装置メーカーに出向し、製造と生産管理を経験した。文系ながら、技術への認識を十分に理解し、2013年には社長に就任した。
工場と一体化した新社屋を完成。「いいタイミングで建設できた」
成長を続ける同社は、大規模な投資に乗り出した。すでに旧来の製造設備では生産能力の限界に達していたが、半導体市場は世界的に今後も拡大することが予想されたため、2021年には韮崎市の3棟の工場と本社機能を合体させた3階建ての新本社・工場の建設を決めた。新工場建設中は2018年に生産能力を3倍以上に拡大していた宮城工場も活用しながら、需要増に対応したという。
こうして、2022年11月には工場を中心とした建物が完成、2023年5月には駐車場なども整備し工期を終えた。延べ床面積は約1万平方メートルと、旧工場3棟の合計の3倍の広さだ。新工場内の製造設備などは当面、余力を持って配置しているため、「製造能力は従来よりも約2割増えた」(佐々木社長)程度だが、まだまだ増産余力はあるという。折しも、半導体製品の供給増により、製造装置の需要も踊り場を迎えている時期の建設工事だったことに加え、建築関連資材の価格も落ち着きを見せていたなど、「新工場は本当にいいタイミングで建設し、完成した」と、運も持ち合わせているようだ。
航空宇宙、二輪車向けも開拓。広がる共同開発の輪。きっかけは、350キロで高速走行するオートバイの複雑な電子制御に耐えうるハーネスの技術力
佐々木社長が目指すのは、取引先の多角化だ。父親の世代では半導体製造装置向けが100%で、現在でも「8割前後が製造装置向けだが、それ以外のチャネルを拡大させて業種のバランスを図りたい」という。当面のターゲットは、航空宇宙と二輪車向けだ。
航空宇宙向けでは、山梨県の後押しもあって、航空宇宙・防衛産業に特化した品質管理システムの国際規格「JISQ9100」を2014年に取得した。この認証取得により、防衛産業最大手の企業と、防衛分野の飛翔体用ハーネスの取引が決まった。
ササキの技術力を端的に示すのが、レース用二輪車のハーネス製造を受注できたことだ。ある展示会に出展したところ、二輪車レースで実績を持つ「ホンダ・レーシングさんから声を掛けられた」。ホンダは新カテゴリーの二輪車レースに参入するため、新しいハーネスのサプライヤーを探していた。最高時速350キロという高速で走行しながら複雑な電子制御に耐えられるレベルで、「本当に難しい技術」という。従来のハーネスメーカーでは対応が難しく、展示会で見たササキの技術に着目し、新しいハーネスの試作を要請したというわけだ。
ササキはこの要請に応える試作の製造に成功。2015年にはホンダ・レーシングとパートナーシップ契約を結び、レース車用ハーネスの供給を始めた。しかも、二輪車レースのレギュレーションは毎年のように変更され、試作の依頼が入るという。こうした最先端のハーネス製造により、ホンダとは二輪車向けだけでなく自動運転車やさまざまな未来の自動車向けなど、試作受注の輪が広がっているという。「新しい分野の部品を自分たちが作っているという夢がある」(佐々木社長)と、技術力の大切さを説く。
佐々木社長は就任以来、半導体製造装置向け以外のユーザー開拓に乗り出し、同社の技術力への評価もあり、順調に取引先も増えた。取引先のトップ10社はいずれも大企業で、さまざまな事業分野を抱えているため、無限のチャンスがある。特に、電気自動車など電動化が進む自動車分野は新しいハーネスの需要が期待でき、量産品ではない新製品の開発試作に意欲的だ。
生産管理と事務系システムをつなぎ顧客対応力強化。自動倉庫により在庫情報の見える化とBCP対策も実現
2008年には、見積、在庫、仕入や当時は珍しい生産管理システムも自社開発。以前は、生産管理システムも部署別に行っていたが、外部のシステム会社の手を借りながら各部署の従業員が知恵を結集して部門間を連携した生産管理システムを作り上げた。
現在、これらのシステムを身軽にして既にフェーズ1が終了した。フェーズ1では例えば、生産管理システムと連動する大量の紙の図面やISO関連書類について、文書管理システムを導入。電子化・共有することで管理の一元化を実現。現場をスムーズにより快適に変化させている。今はフェーズ2で、生産管理と事務系を連携させる段階に入っている。自動倉庫化に伴い在庫管理システムのリアルタイム把握が出来るので一定以下の個数になると自動的に発注するシステムを開発。顧客への対応スピードを強化している。
在庫の作業効率化では、壁面全部を自動倉庫化でき、多くの在庫を抱えることができるようになった。特にハーネス部材のパレットは独自設計しており、誰でも間違うことなく部材の準備が可能となっている。宮城県の工場と山梨県の工場の両方で対応できることからBCP対策として大手企業から信頼も厚いとのこと。この自動倉庫は在庫管理システムと連動し、切断したケーブルの残量の情報もわかるようになっている。
2022年5月経済産業大臣による「DX認定制度」の認定。ササキでは、従業員が幸せになるDXが推進されている
ICT,DXへの取り組みが評価され、2022年5月1日に山梨県内企業としては初めてとなる「DX認定制度」に基づく認定を経済産業大臣から付与された。
以下ササキホームページより
この認定は、情報処理の促進に関する法律第31条により導入されているもので、ササキがデジタルによって自らのビジネスを変革する準備ができている事業者として認定されたことを意味します。既に社内では、工数削減や自動化に直結する開発など、DX化を積極的に推し進めています。
ササキでは、システム開発においても実際に使用している従業員の声に耳を傾け、従業員自らが開発に協力する体制となっている。その結果、失敗しない、愛着のあるシステムが出来上がり、従業員のモチベーションとなる好循環が生まれている。これこそがDXと言える。
社員の福利厚生の充実に力を入れる。自然との融合、すぐそばにある製造現場とオフィスと休憩スペース。フィットネススタジオも食堂も開放的
佐々木社長は「CSR(企業の社会的責任)、SDGs(持続可能な開発目標)、セキュリティが重要な時代。これがサプライヤーとして選んでもらえる時代だ」と、企業運営のソフト面も充実させている。
新社屋設計時に、まず考慮したのが働きやすい環境と、出社するのが楽しくなる空間。様々な社員の発案や提案を取り入れて、オフィスと製造部門の一体空間や仕事場のすぐそばにある休憩コーナー、そして仕事の合間や帰りにひと汗流すフィットネススタジオ、ゆったりと景色を楽しめるSASAKItchen(ラウンジ)も用意した。
働き方改革も推進。働く女性が能力を発揮できる企業として2023年6月山梨県の「山梨クリスタルえるみん」の第一号に選ばれた
380人に増えた社員の働き方改革も進める。女性の部長による「サステナビリティ推進部」を設置し、高齢者、若者、障がい者の雇用、女性でも働きやすい職場環境を目指す。その考え方は、「女性が働きやすい職場は男性も働きやすい職場」というもの。実施したのが重い資材を扱う作業の自動化。75歳(当時)のベテラン女性製造者が、未経験や女性でも作業に取り組めるマニュアル作りや自動化の仕組みづくりに貢献したという。
子育てや介護と仕事が両立できる環境にも力を入れる。保育園からの呼び出しなど1時間単位で有給休暇を取得できるように制度を見直し。扶養する子供1人につき18歳まで1万円を毎月支給するなど子育て支援を行う。更に、契約したスーパーのホームページで注文すれば、夕方までに食材や日用品を会社まで届けてくれる宅配サービスを導入、家事短縮に繋げる。
今では、育休・産休からの復職率は100%になったという。こうした実績から2020年に女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)に基づく認定制度:厚生労働省『えるぼし』2つ星認定や2023年6月には働く女性が能力を発揮できる社会の実現に向けて取り組む企業を県が認定する山梨県の「山梨クリスタルえるみん」の第一号にも選ばれた。最近では、男性社員が初めて1ヶ月の育児休業を取得する実績も出てきた。
会社の成長を支え続ける新たな自社ブランド製品の開発を目指す
ササキは、企業として必要な「強じんさ」と「しなやかさ」を併せ持つ。まさにレジリエンスな会社だ。順調に拡大してきた同社の将来へのビジョンを問うと、「自社ブランドによる商品を持つこと」と即答した。1つの部品の寿命は約30年だから、会社の成長を支える次の事業を創るという。既にキャピタリストやファブレス企業を目指す人たちと協議しているという。
佐々木社長は現在53歳だが、60歳になったら後継者に会社を任せたいという。それまでに電気・電子分野で企業向けの自社ブランド製品を生み出していくことを目指している。明確な経営方針と半導体市場の世界的な拡大見通し、新規分野の開拓、それに社員重視の姿勢により、ササキは今後も安定した成長を続けそうだ。
企業概要
会社名 | 株式会社ササキ |
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住所 | 山梨県韮崎市穂坂町宮久保1155-1 |
HP | https://www.sasaki-inc.co.jp |
電話 | 0551-22-3733 |
設立 | 1995年8月 |
従業員数 | 380人(派遣・パート含む) |
事業内容 | ワイヤーハーネス製造、電子機器組立、BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング) |