この記事は2023年7月20日に「テレ東BIZ」で公開された「躍進する小泉成器~二刀流ビジネスの舞台裏:読んで分かる「カンブリア宮殿」」を一部編集し、転載したものです。
一芸家電”でヒット連発!~ニッチなニーズにとことん応える
山梨・北杜市に住む佐藤さん一家は、下は3歳から上は10歳まで子どもが4人。忙しい母親の香織利さんを助けてくれる強い味方が小泉成器のドライヤー「モンスター」だ。
▽香織利さんを助けてくれる強い味方が小泉成器のドライヤー「モンスター」
「音はうるさいし、結構大きくて重いんですけど、とにかく早く乾かしたい。『大風量』で調べたらこれが1番トップに出てきて、これ一択でした」(佐藤さん)
小泉成器の商品はニッチなニーズに絞ったいわば「一芸家電」が多い。
神奈川・相模原市の「ノジマ」相模原本店で「今、人気の商品」と紹介された小型の「コードレスボトルミキサー」(4,400円)は、「キッチンが狭くて置くスペースはないけど、ミキサーが欲しい」というニーズに対応。直径8.5センチだからちょっとした隙間に置ける。ボトルをひっくり返して専用のふたを付ければ飲料の持ち運びも可能だ。
充電式のヘアアイロン「コードレスストレートアイロン」(6,600円)の長さはわずか18センチとコンパクト。「外出先でも手軽に髪を整えたい」という声に応えた。
埼玉・所沢市の「ノジマ」所沢本店で人気なのが、ゆで卵が手軽に作れる「エッグスチーマープラス」(4,380円)。水を注いで生卵を置き、目盛りをセットするだけ。1度に6個も作れるのだが、例えば筋トレに励むボディビルダーが、体づくりに欠かせないたんぱく質を手軽にとるために使っているという。目盛りを合わせるだけで固ゆで・半熟・温泉卵の3通りができる。
▽「エッグスチーマープラス」目盛りを合わせるだけで固ゆで・半熟・温泉卵の3通りができる
専用の土鍋がセットになっている「土鍋付き電子レンジ」(3万580円)はほったらかしでご飯が炊けるというもの。炊飯器を持っていない1人暮らしや土鍋炊きのご飯を手軽に食べたい人に向けて開発した。
目玉焼きとトーストが1度にできる「オーブントースター」(7,300円)は、あわただしい朝でも朝食はちゃんと摂りたいという人がターゲットだ。
こうした小泉成器の「一芸家電」は実に250点も。「美容」「キッチン」「季節もの」の3種類に分類されており、常に客のニーズを掘り起こして「ちょっと便利な生活スタイル」を提案している。
「小泉成器の商品はお客様の『あったらいいな』というニッチな部分にすごくマッチして、お客様から好評をいただいております」(「ノジマ」所沢本店店長・蛭間太輔さん)
小泉成器の本社は大阪市中央区。売り上げは719億円、従業員330人の中堅家電メーカーだ。この夏、大ヒットしているのがあえて昭和レトロっぽく作った「ミニ扇風機」(6,980円)で、若者に受けているという。
▽昭和レトロっぽく作った「ミニ扇風機」若者に受けているという
「わざと、ガチャスイッチにしています。私たちから見れば懐かしい感じですが、若い人からみると新鮮に見える」と説明するのが、会長・田中裕二(70)だ。
「常に新しいもの、何かユーザーに役立つもの。今まで隠れていたものを見つけて掘り起こすことをしています」(田中)
こうした商品はさぞかし綿密なリサーチを経て開発されているかと思いきや、そうではないらしい。
開発担当の第二商品部・吾郷晋司が向かったのは東京・千代田区の居酒屋のチェーン店。吾郷は単身赴任で、この店で夕飯を済ますことも多いという。そして日々の暮らしの中から新商品のヒントを探ろうと、常にアンテナを張っている。
「これが家でできたらいいなと思って」と吾郷が目を付けていたのは、卓上の炉端焼き器。これを家庭でも手軽に楽しめる商品にしようと考えている。
「万人受けするかは分からないですが、今ない物でも『こんな商品があったら売れるのではないか』というひらめきの部分を掘り下げていく」(吾郷)
東京・台東区の東京事業所。吾郷はその後、家庭用「炉端焼き器」(2023年秋に発売予定)の試作品を作り上げていた。お1人様をターゲットにサイズはコンパクトに。より手軽に楽しめるよう、ガスではなく電気式にした。
▽家庭用「炉端焼き器」より手軽に楽しめるようガスではなく電気式にした
個人のこだわりを詰め込んだニッチな商品でも、ニーズがあると会社が判断すれば、企画にGOを出し、あとは口を挟まず任せてくれるという。
「1度承認された商品はぶれないで、『あれも付けろ、これも付けろと』と後から言われることも少ないし、結果的に私が作りたいと思った商品をスケジュール通りに発売できる」(吾郷)
ティファール、タニタも頼る!~潜在的ニーズの“発見力”が武器
そんな小泉成器にはメーカーとは別の顔がある。
大阪市中央区の「エディオン」大阪本店。営業担当の大阪事業所・下平祐紀が向かったのは体組成計の売り場。「タニタ」の製品にPOPをつけている。
「弊社は『タニタ』さんの卸もやっています。メーカーと卸の二刀流です」(下平)
小泉成器はメーカーだけでなく、国内大手の「TOTO」や海外有名ブランドの「ティファール」など、国内外160社以上のメーカーの卸もやっているのだ。
多くのメーカーが小泉成器を頼るわけは消費者のニーズを的確に捉えているからだ。
例えば「ネスレ」のコーヒーメーカーの隣に置いたのは、「ブリタ」の浄水器。コーヒーにこだわる人は水にもこだわるはず、と考えた。
さらに「ソーダストリーム」の炭酸水メーカーと一緒に置いたのは「ティファール」の炊飯器。「炭酸水でご飯を炊くとおいしい」という投稿がSNSで増えていることに、素早く反応した。
客が「自分が知らなかった知識を与えてくれる」と言うように、小泉成器は、どこよりも客の隠れたニーズに敏感な企業だ。
「消費者が本当に欲しがる『これいいな』と思う商品をいかに発掘するか。自社ブランドと代理店機能の二刀流で仕事をしているのが、私どもの大きな強みになっています」(田中)
客の“潜在的ニーズ”を掘り起こせ~“ヒット商品”誕生の舞台裏!
6月7日、東京・文京区。小泉成器が量販店向けに開いた「新商品展示会」。自社商品だけでなく、販売契約を結んだ国内外のメーカー80社の新商品が一堂にお披露目される小泉成器最大のイベントだ。
田中が出迎えたのは関西を中心に200店舗を展開する「上新電機」の金谷隆平社長だ。そして紹介したのは、小泉成器の新しいヘアーブラシ。イオンの機能が強化されたという。
「小泉さんには各メーカーの商品がいろいろなジャンルで並んでいます。世の中の新しい流れを把握しようとすると、小泉さんのようにジャンルが広く、いろいろな幅が持っているというのは非常に勉強になります」(金谷さん)
世界的な浄水器メーカーの日本支社「ブリタジャパン」のマイケル・マギー社長は、海外メーカーにとって、小泉成器は頼もしい存在だという。
「いろいろな意味でアドバイスをしてくれています。例えばどこの売り場に売るべきなのか、どのような企画を打つと結果が期待できるのかなど、なくてはならないパートナーだと思っています」
「グループセブジャパン」のアンドリュー・ブバラ社長もこう言う。
「日本は日系メーカー王国なので、自社で日本市場を開拓するのは難しいなと思っています。小泉さんには非常に歴史もありますし、ノウハウもありますし」
メーカーと卸で独自の強みを持つ小泉成器は客のニーズを常に考える歴史から生まれた。
前身の小泉産業が誕生したのは戦後間もない1946年。当時需要の高かった電気の照明器具を製造し、一方で電熱器を仕入れて卸す二刀流体制をとっていた。
▽前身の小泉産業が誕生したのは戦後間もない1946年
1967年、マイホーム時代が到来すると家具市場に参入。そこから大ヒット商品が生まれる。机と照明をセットで欲しいという消費者の要望に応えた学習机だ。
1976年に入社した田中は、「客のニーズを掘り起こす」という小泉精神を叩きこまれ、トップ営業マンとして活躍。80年代後半には、台頭してきたホームセンターに目をつけ、交渉の末に商品を置くことに成功した。
だが、売れ行きは芳しくなかった。そんな時、田中の目に入ってきたのが新入学の親子連れ。それを見て、田中ホームセンターにはなかった売り場を提案する。「お子さんに上履き袋を作りませんか?」というPOPを掲げて、ミシンとアイロンを一緒に並べた売り場を作ったのだ。
「新入学の小学生や幼稚園児は上履きの袋とか、手縫いの商品を子どもに持たせてあげられる。こういった潜在需要というのは確実にあると」(田中)
お母さんたちも気づかなかった潜在的なニーズを掘り起こしてこの売り場は大成功。小泉の原点である「客のニーズを常に考える」ことの大切さに、田中はあらためて気づかされた。
96年、田中は海外ブランドの商品を売る部門の責任者に就任。ここでもまた消費者のニーズを掘り起こし、大ヒットを飛ばす。当時、日本になかった油を使わず揚げ物ができるフィリップスの「ノンフライヤー」という商品だ。
欧米では「フライドポテトが手軽に大量に作れる」ことをアピールして販売していた。
「欧米はポテトが主力で提案していたが日本では難しい。もっと“健康のため”とうたった方がいいので、いろいろな食材を考えました」(田中)
田中が打ち出したのはヘルシーさ。日本人が大好きなトンカツや唐揚げが油を使わなくてもおいしく作れるようにと、調理する温度や時間を幾度となく試し、最適な設定を探り当てる。そのデータをもとに日本独自のレシピも付けた。
▽累計100億円を超える大ヒット商品になった「ノンフライヤー」
そして2013年、日本初の「ノンフライヤー」発売にこぎつける。「メタボ」という言葉が広まった頃で、「ヘルシーな食生活を送りたい」という消費者のニーズを掴んだ「ノンフライヤー」は累計100億円を超える大ヒット商品になった。
「商品が足らなくなりました、一瞬で。特にお年寄りの方は油を避けるので、気兼ねなしに食べられるというところが一番受けたと思います」(田中)
お客のニーズを常に追求する。それは現在まで脈々と受け継がれている。
独自の販路を作り出せ~小泉流商品を売る極意
東京・墨田区に知る人ぞ知る人気の酒屋「ニシザワ酒店」がある。店の棚には日本酒がずらり。380年続く青森最古の蔵元の「七郎兵衛」や京都・伊根町の老舗の「京の春」など、全国各地から取り寄せた純米酒だけで500種類も揃う日本酒党にはたまらない店だ。
そこにやって来たのは小泉成器の営業担当、特販部の井上卓也。この店にある商品を卸して販売してもらっているのだ。
「『かんまかせ』(8,470円)という、家庭で簡単に日本酒の熱燗を作れる家電製品です」(井上)
「チロリ」という専用の器に日本酒を入れたら機械にセット。あとは好みの温度を選ぶだけで熱燗ができる。
この温度設定には埼玉・蓮田市の「神亀酒造」が関わっている。創業170年。戦後、他社に先駆けて、作る酒の全てを純米酒にした日本酒好きには聖地ともいえる特別な蔵元だ。「かんまかせ」の開発にあたって小泉成器がアドバイスを求めたのが「神亀酒造」だった。
「本来、日本酒は温めて飲むものでしたが、今は電子レンジでお燗をする方が増えてきた。ただ、電子レンジだと温まるが、おいしくない。湯煎が1番なので」(「神亀酒造」社長・小川原貴夫さん)
▽家庭で簡単に日本酒の熱燗を作れる「かんまかせ」
燗をする際に重要なのは温度。そこで「神亀酒造」は長年の酒造りで得たぬる燗や熱燗に最適な温度をアドバイスしたという。
店も「かんまかせ」を使って客に燗酒の魅力をアピールし、日本酒ファンを増やそうとしている。 それぞれの商品をふさわしい場所で売るのも「小泉流」なのだ。
※価格は放送時の金額です。
~村上龍の編集後記~
複雑な会社だ。1716年に商祖が麻布の行商をはじめてから300年あまりが経っているが、現代の小泉は、サプライヤーからメーカー&ベンダーというわかりづらい横文字の世界でビジネスを行う。
こだわりのモノを作り、1業種1社を基本とした仕入れもやる。異業種から家電量販店に持ちこむ。ドライヤーも昔は理髪店にしかなかった。
「酒燗器」というユニークな製品もある。なんで?と田中さんに聞いたら、わたしが夏でも熱燗を飲むからという答え。遊び心がある。遊び心で、真剣に、モノを流通させている。
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<出演者略歴>
田中裕二(たなか・ゆうじ)
1952年、岐阜県大垣市生まれ。1976年、中央大学卒業後、小泉産業に入社。1989年、分社化により小泉成器へ移籍。2014年、代表取締役社長就任。
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