アフリカ西部、世界有数のウラン産出国ニジェールでクーデターが発生した。7月26日、大統領警護隊の兵士が親欧米派のバズム大統領を拘束、憲法を停止する。国軍もこれに同調、28日、大統領警護隊司令官チアニ将軍を首班とする軍事政権の樹立を宣言した。これに対して「アフリカ連合平和・安全保障理事会」は15日以内に憲法秩序を回復するよう通告、旧宗主国フランス、EU、米国は同国への経済支援、軍事協力の停止を発表、「西アフリカ諸国経済共同体」(ECOWAS)も軍事介入の可能性を示唆しつつバズム氏の復権を要求した。情勢は一気に不安定化しつつある。
西アフリカでは2020年以降クーデターが頻発、ニジェールと国境を接するマリでは2020年8月と2021年5月に、ブルキナファソでは2022年1月にクーデターが発生、現在、両国はいずれも軍事政権下にあって、ロシアが政治的影響力を強める。その先兵役を担ってきたのがロシアの民間軍事会社ワグネルである。マリ、ブルキナファソは今回の政変に対して直ちに支持を表明、ECOWASによる軍事介入があった場合、「宣戦布告とみなす」などと警告する。
バズム氏は前政権の経済政策、テロ対策、汚職を批判、“選挙” という民主的プロセスを経て政権の座についた大統領であり、欧米にとって戦略的にも重要なパートナーであった。しかし、そのバズム氏率いる政府もまた汚職と不正の疑惑が取り沙汰される中、強権化してゆく。ニュース映像では多くの市民がバズム氏失脚を歓迎している様子が映し出されたが、根底には植民地時代から続く圧政、貧困、そして、“資源” という権益を大国に差し出すことで莫大な特権を享受する「支配層」への反発があるのだろう。
ニジェール軍幹部は「政変は正しい統治を復活させるため」と説明したが、はたしてそれは誰にとっての正しさなのか。彼らもまた別の大国の威を借り利権の独占を目指すのであれば、いずれ新たな政敵が次のクーデターを準備することになるだろう。この連鎖をどう断ち切るか。ここが課題だ。経済制裁と軍事力では解決しない。
さて、この地域の混乱が伝えられる度、筆者は映画「禁じられた歌声」(2015年公開、原題Timbuktu)の一場面を思い出す。イスラム過激派集団に支配されたマリの古都ティンブクトゥ、音楽と笑い声を禁じられた人々のささやかな抵抗、そして、とうとうと流れる悠久のニジェール川、その美しい映像が忘れられない。
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今週の“ひらめき”視点 7.30 – 8.3
代表取締役社長 水越 孝