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求められる非財務情報の開示
上場企業を中心に非財務情報の開示が迫られている。1つが2022年7月の女性活躍推進法の省令改正で義務づけられた男女の賃金格差の開示だ。もう1つが2023年4月1日に施行された男性の育児休業取得状況の公表義務化である。
開示義務のある企業は前者が従業員301人以上、後者は1000人以上であるが、開示時期は事業年度が3月末終了であれば、共に今年6月末ぐらいまでに開示する必要がある。またこの2項目は有価証券報告書でも開示することが求められている。
男女の平均賃金格差は30%
男女の賃金格差については、『日本経済新聞』が7月10日までに厚生労働省のデータベースに開示した約7100社の集計・分析結果を発表している(7月14日朝刊)。
それによると、男性の平均賃金を100とした場合の女性の平均賃金の割合は70%を切り、30.4%の格差があった。
省令では正規労働者間および非正規労働者間の男女の格差の開示も求めているが、正規労働者は25.2%、非正規労働者は22.3%の格差があった。
平均賃金を比較すると、男女で30%強の格差があることになるが、実はこうした単純比較には当初から疑問が呈されていた。
法律では平均賃金の公表だけが求められているが、数値に差があった場合、その根拠に合理的な理由があっても「女性に差別的な企業だ」と一人歩きしてしまう可能性があるからだ。
一般的に賃金決定の要因としては、性別以外に年齢や勤続年数、学歴、職種、役職も加味される。
一般的統計でも高卒と大卒では賃金差があることが知られており、年功的賃金制度が多い日本企業では勤続年数が重視される傾向がある。
あるいは役職に就いている女性が男性より少なければ全体の格差の要因にもなる。これをもって必ずしも「不合理な格差」とは言えないだろう。 逆に平均賃金を比較した数値だけを公表すると、採用にも悪影響をもたらす可能性もある。
男女の賃金差異の要因は「女性管理職比率の低さ」
こうした点を考慮し、厚生労働省は数値の公表だけではなく「男女の賃金の差異の説明」も推奨している。実際に開示した企業の2~3割が格差の要因や背景についても開示している。
要因の説明で多かったのが女性管理職比率の低さである。これはこれとして企業にとっては大きな課題の一つだ。女性管理職比率が低い企業は、投資家からも企業の努力が足りないと見なされる傾向が強く、その結果として男女賃金格差が大きいと、2つを重ねてマイナスのイメージを抱く投資家もいるだろう。
日本経済新聞の調査では主要32業種の男女間の賃金格差の比較も行っている。その中で最も格差が大きかったのは金融・保険の39.9%だった。男性100%に対し、女性は約60%にとどまる。次いで小売・卸売の35.9%だった。
その背景として一般職や地域限定職、そして非正規雇用など雇用区分の異なる賃金が低い従業員が多いことを挙げている。 一方、格差が小さい業種では、医療・福祉や情報・通信などである。いずれも格差は22~23%であるが、仕事内容による男女の賃金差がないことを理由に挙げている。
男性の育児休業取得率、トップは小売業の高島屋で230.6%
もう1つの男性の育児休業取得率の状況については直近のデータを集計した調査は見当たらない。ただ東洋経済新報社が発行する最新の『CSR企業総覧(雇用・人材活用編)』に登場する610社の2021年度の取得率ランキングを「東洋経済オンライン」(2023年6月7日)で発表している。
取得率は、配偶者が出産した男性社員を分母に、育児休業を取得した男性の割合である。対象者や取得時点の定義の違いで100%を超える場合もあるとするが、100%を超える企業が41社もあった。 トップは高島屋の230.6%、2位が丸井グループの136.4%、3位がピジョンの133.0%だった。また、7位にSOMPOホールディングス、8位に三井トラスト・ホールディングスが入っている。
男性の育児休業取得率が高い業種は男女間の賃金格差が大きい?
小売業の高島屋や丸井グループは子育てサポート企業として定評があり、男性育休への取り組みにも熱心だ。もちろん小売業には働く女性が多いという事情もあるようだ。
前出の男女間賃金格差で格差が大きい業種に上がっていたのも小売・卸売業だった。男性育休取得率トップ50の中に小売・卸売業が4社入っている。
驚いたのは男女の賃金格差トップの金融・保険業が、男性育休取得率トップ50に21社も入っていることだ。これはどう考えればよいのだろうか。
男性育休取得に熱心であることは女性の活躍推進を掲げ、もちろん女性の管理職比率の向上に注力しているということであるが、一方で男女の賃金格差も大きいのはなぜなのか。 女性の役職者数以外の要因、例えば勤続年数の違いや、総合職と一般職など職種の違いによる給与差が大きいのか。いずれにしても判断する投資家や採用候補者にとっては理解に苦しむ人もいるかもしれない。