LIFULL社長 井上高志,カンブリア宮殿
(画像=テレビ東京)

この記事は2023年6月15日に「テレ東BIZ」で公開された「日本最大級「住宅サイト」~古い業界を一変させる戦い:読んで分かる「カンブリア宮殿」」を一部編集し、転載したものです。

4時間で建つ快適ハウス&サブスクで仕事、宿泊できる施設

東京から2時間の群馬・みなかみ町。JR土合駅の上り線ホームの脇にある扉を抜けると、木立の奥に見えてきたのはグランピング施設「ドアイヴィレッジ」のかわいらしい建物。そこに続々と客がやってくる。

自分で割った薪をくべて入るのはフィンランド式の本格的なサウナ。バーベキューでは大きな上州牛のステーキを楽しめる。

だが最大のお目当てはかわいらしい建物。とんがり屋根のコンパクトな見た目だが、中はゆったりしている。この建物「インスタントハウス」が全国のレジャースポットで急拡大中だという。

▽「インスタントハウス」が全国のレジャースポットで急拡大中

LIFULL社長 井上高志,カンブリア宮殿
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「テントより丈夫で積雪4メートルにも耐え得る。テント以上、建物未満です」(「VILLAGE INC」社長・橋村和徳さん)

「インスタントハウス」の自慢はその居住性能の高さ。

「素材が断熱なので夏は涼しいです。評判はめっちゃいい」(橋村さん)

「インスタントハウスプラン」は朝夕2食付き飲み放題で大人1人2万6,000円だ。

▽「インスタントハウスプラン」は朝夕2食付き飲み放題で大人1人2万6,000円

LIFULL社長 井上高志,カンブリア宮殿
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三重・南伊勢町の「田曽フォレストマリーナ」でも「インスタントハウス」を建設中。建てるのは驚くほど簡単だ。外壁となるシートを広げ、セットした送風機で中に空気を送り込む。膨らんだ室内で始まったのは、家の建築にも使う断熱性のあるウレタンを内側に吹き付ける作業。これによりテントが内側から固められ、わずか4時間でインスタントハウスが完成する。分厚いウレタンが丈夫さと断熱性を生み出すのだ。

この施設では昨年すでに3棟を建設。施工の速さと丈夫さから、新たに2棟建設を決めたという。「インスタントハウス」はMサイズ(15平方メートル)187万円だ。

「他のグランピング施設と違って、昨年度も台風が来ましたが、全く位置も動かず、問題がないと分かっています。すばらしい」(「田曽フォレストマリーナ」・森田一輝さん)

このインスタントハウスを作っているのは東京・千代田区、半蔵門に本社を構えるライフル。「ホームズ」で知られる日本最大級の住宅情報サイトを運営する企業だ。年商は357億円。使いやすさなどさまざまなランキングでトップに君臨している。

▽インスタントハウスを作っているのは東京・千代田区、半蔵門に本社を構えるライフル

LIFULL社長 井上高志,カンブリア宮殿
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ライフルのユニークな事業は「インスタントハウス」でだけではない。

東京・八王子市の高尾山。平日にここで仕事をする人が増えている。駅前に建つ「LAC高尾」の館内には、食事を取りながら仕事もできる落ち着いたワークスペースがある。さらに屋上に上がると、山々に囲まれて仕事をする人の姿が。ここに宿泊することもできる。

これはライフルが提供するサブスクで利用出来る施設。全国49カ所に拠点を構える「リビングエニウェア・コモンズ」、通称「LAC」と呼ばれる月額制の宿泊サービスだ。

▽ライフルが提供するサブスクで利用出来る施設「リビングエニウェア・コモンズ」

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例えば静岡・熱海市の「LAC熱海」は市内の商店街にある。使われていなかった倉庫をリノベーションしたおしゃれなカフェや、広々としたワークスペースがある。

「LAC」は全国の施設を月額 3万9,600円(6拠点は無制限、それ以外の拠点は9泊まで)で利用できる。新たな働き方が実現できるサービスだ。

茨城・つくば市の「LACつくば」は空き家だった古民家を改装した純和風。築150年の重厚な梁の下がワークスペースになっている。その庭先で餅つきイベントが始まった。

▽茨城・つくば市の「LACつくば」客同士や地元との交流が日常的に行われている

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「LAC」にはさまざまなイベントを仕掛けるコミュニティーマネージャーが常駐。客同士や地元との交流が日常的に行われている。

「コミュニティーマネージャーを置くことで、来た人同士のつながりや交流が生まれるきっかけを作ったり、地域の方との交流の機会を作る。自然豊かで、いろいろな人に出会えて、それでコストが安いならいいというのが、地方創生の重要なキーワードだと思っています」(ライフル・小池克典)

スマホをかざして家探し~最新技術で業界を変える

ユニークなサービスを次々に仕掛けるライフル社長・井上高志が街角に立ち止まり、周囲にスマホをかざす。スマホをかざすだけで周囲の空き物件情報にアクセスできる「かざして検索」だ。

「近所で『もう少し広い部屋が空いている』とすぐ分かるサービスです。ARの技術で自社開発です」(井上)

▽スマホをかざすだけで周囲の空き物件情報にアクセスできる「かざして検索」

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井上は日本に住宅情報サイトを広めた草分けとも言える。1995年に井上が作った「ホームズ」は雑誌と店舗に頼っていた住宅探しに革命を起こした。

その挑戦は今も続いている。井上が開発した3D間取りサービス。あらゆる物件情報についている平面の間取り図。これをAIが自動で3D化してくれるのだ。間取りをイメージできるので、事前に家具などの配置を検討できる。

ビジネス拡大の原動力を、井上は四角いマークで説明する。

「フォーカスマークと呼んでいるのですが、主力事業の『ホームズ』の場合、その四角の中に家があって、家の住生活の課題にフォーカスして解決しよう、と。いろいろな社会課題があるが、そこにフォーカスしてビジネスに変える、という表現です」(井上)

▽ビジネス拡大の原動力を四角いマークで説明する

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実際、「インスタントハウス」は、被災地などで仮設住宅をもっと早く作れないかという課題を解決すべく開発されたもの。「LAC」も地域の空き物件を有効活用し、人を呼び込む地域活性化の課題解決のサービスだ。

井上が長年挑み続けてきた最大の課題が、不動産取引の現場でのさまざまな問題だ。

例えば、存在しない魅力的な物件を掲載する「おとり物件」。ライフルのサイトで優良仲介業者に選ばれている東京・府中市の「わいわいアットホーム」代表・松田博行さんに、その実態を教えてもらった。

「誰が見てもいい物件を広告に出すと、問い合わせがガンガン来るんです」

しかし、客が「その物件を見せてほしい」と言うと、「『申し込みが入ってしまったので、残念ですがご案内できません。他の物件はどうですか』と。他の物件を勧めるための餌にしているんです」(松田さん)。

おとり物件に限らず取引の実態が見えづらい不動産業界には消費者の不安がつきものだ。

「そういうものが積み重なった結果、今の不動産業界はグレーゾーンがある、騙されるというイメージに。誠実にできるかが大事なんです」(松田さん)

井上はそんな業界を変えるべく、不動産取引を正確に反映できるよう独自のデータベースを構築。情報の「見える化」に取り組んできた。

「とにかく家は一生で一番高い買い物なので、安心して自分にぴったりのものを探しやすくするのが、我々の使命だと思っています」(井上)

▽「安心して自分にぴったりのものを探しやすくするのが、我々の使命だと思っています」と語る井上さん

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原点はマンション営業の嘘~パソコン1台から年商350億円

東京・港区の「CIC Tokyo」で、井上が2年前に立ち上げた巨大プロジェクトの会合が開かれた。壇上の井上は「『ナスコンバレー』は東京ドーム170個分、約8平方キロメートルの私有地です。無人走行、自動走行、私有地ならいろいろな実験ができる」と語る。

栃木・那須町の広大な土地で未来の街作りの実証実験を行う「ナスコンバレー」というプロジェクト。すでに参加する企業は50社を超えている。

「地方の共通の課題をテクノロジーで一緒に解決する」と、やはり目指すのは課題解決だ。プロジェクトの仲間、「A.T. カーニー」日本法人会長・梅澤高明さんは、井上を評し

て「先見の明があって行動力があるので、次々とリアルな活動に移していける」と言う。

大学卒業後の1991年、井上が就職したのは「リクルート」の不動産子会社「リクルートコスモス」だった。初めて経験するマンション販売の現場で、とんでもない事実を知ることになる。

井上は先輩からさまざまな裏話を聞かされる。例えば分譲マンション販売のモデルルーム。契約が決まった部屋に花がつけられるのだが、8割くらいに花がついていても、実際は2割くらいしか決まってなかったりする。早く買わないと売り切れると、客を焦らせるためだというのだ。不動産業界では消費者を半ばだますようなテクニックが横行していた。

「ショックでした。不動産販売は動く金額と利益の額が大きいので、自社の利益を最優先してしまうと、いろいろなテクニックが横行してしまう」(井上)

井上は「消費者にウソのない正しい不動産情報を提供する場を作ろう」と決意する。

「Windows95」が発売された1995年。井上はひとり、必死で慣れないパソコンと格闘し、誰でも不動産情報を検索できるサイト「ホームズ」を立ち上げた。

▽「消費者にウソのない正しい不動産情報を提供する場を作ろう」と決意する

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「正義の憤りを持って『誰もやらないなら自分が変えよう』と思いました」(井上)

それから28年。今もその思いはライフルの若手がつないでいる。入社14年目のライフルホームズ事業本部・龔(きょう)軼群は「ひとり親や高齢者、身体、精神、知的障害のある方……家を選ぶのは人の生活の根幹なのに、選べない人がいると知って、取り組んでいます」と言う。

彼女が取り組むのは「住宅弱者」の救済。特に障害者の現状は深刻だ。物件のバリアフリー化などさまざまな手間がかかると、障害者は仲介業者から敬遠されてきた。

龔が立ち上げたのは「フレンドリードア」というサービス。「住宅弱者」に寄り添ってくれる不動産店舗を簡単に検索できるサイトで、すでに4,700店が登録している。

「耳が聞こえない人にはパトランプがあったほうがいいという提案をするなど、『こういう対策をすればリスクを軽減できる』と、仲介業者にノウハウを提供しています」(龔)

そんなライフルに協力してきたのが、自ら視覚障害があり、長年、障害者の家探しをサポートしてきた東京・足立区の「メイクホーム」社長・石原幸一さんだ。

「ライフルは全国展開するメディアを持っていたので、不動産仲介業者に広めることができたと思っています」(石原さん)

この日、龔が訪ねたのは、住宅弱者の若者を支える東京・豊島区の特定非営利活動法人「サンカクシャ」。井上の熱い思いは今も社会を変え続けている。

8DKの邸宅が家賃5万円~空き家が地方を変える

LIFULL社長 井上高志,カンブリア宮殿
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栃木県のJR那須塩原駅。この日、あるツアーが開かれ、東京など都市部から参加者が集まってきた。

これは那須町への移住に興味がある人へのお試しツアー。ライフルの「ローカルマッチ」という地方移住に関するさまざまな情報を提供するサイトで募集したものだ。

都会の人にはローカルなタクシー会社も「かわいい」と興味の対象。空いた建物を使ったネットのラジオ局は、移住してきた人が始めたものだという。

このツアーの主催は那須町。地方を活性化するため国が始めた「地域おこし協力隊」を募るものだ。それをライフルがサポートしている。

「8人の方がツアーに参加していただき、3人から『ぜひ応募したい』と言っていただいた。さすがライフルさんというところです」(那須町ふるさと定住課・岩渕英人さん)

「ローカルマッチ」で都市と地方を繋ぐライフルの最大の狙いは、人口減少とともに増え続ける空き家の活用にある。

去年、愛知県から滋賀・米原市に移住してきた石崎達郎さんが家族と住む立派な家も、かつては空き家だったもの。家賃は8DKで5万円の安さだ。

▽石崎達郎さんが家族と住む立派な家も、かつては空き家だった

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「『ローカルマッチ』のサービスがきっかけで移住してよかったです。子どもも楽しそうなので」(石崎さん)

地域おこし協力隊として移住してきた石崎さんの仕事も米原市内の空き家の実態調査。空き家を活用するため物件の状態を確認。情報を整理しデータベースに登録していく。

「空き家活用も興味があったし、僕のように新しい暮らしを始めたい人、移住したい人の手伝いや後押しができたらいいな、と」(石崎さん)

取り組みは始まったばかりだが、増え続ける空き家を地域再生のチャンスに変える。

4時間で建つ即席ハウス~トルコの被災地を救えるか

2023年4月13日のライフル本社は、ある荷物を海外へ運ぶ準備に追われていた。

「2棟建てる材料です」(ライフルアーキテック・幸田泰尚)

荷物の中身は「インスタントハウス」だ。

「今回、初めて被災地へ導入するので、とにかく早く届けたいという思いでやっています」(幸田)

「インスタントハウス」が向かうのは今年2月に大地震が襲ったトルコの被災地だ。

▽トルコの被災地、まだまだがれきの撤去は追いついていない

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「まだまだがれきの撤去は追いついておらず、ほとんどの方がテント生活を強いられています」(幸田)

もともと災害時にスピーディーに建てられる住宅として開発された「インスタントハウス」。ライフルは今回、現地へ技術指導も含め、トルコでの設置を決めたのだ。

あっという間に完成したその居心地を現地の女性は「中に入ってみると、外は暑いのにとても涼しいわ」と語っている。

人々の課題を解決する……井上の決意は今も社会を変え続けている。

▽トルコでの設置を決めた「インスタントハウス」

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※価格は放送時の金額です。

~村上龍の編集後記~

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最初に東京に来て、住まいは3畳間だった。20代の終わりに、家を建てたので、住まい探しはなくなった。

住まいは人生の基本だ。3畳間には、いろいろな思い出がある。壁から巨大な棚が突き出ている部屋があった。押し入れだったのだ。頭がぶつからないように移動しなければいけなかった。18歳だったので、我慢したが、楽しい思い出ではない。

社名は、住まいに限らずあらゆるLIFEをFULLにしたいという意味だ。LIFEをFULLにするのは簡単ではないだろう。だが利他主義で、井上さんは突き進む。

<出演者略歴>
井上高志(いのうえ・たかし)
1968年、神奈川県生まれ。1991年、リクルートコスモス入社。1997年、ネクスト設立、代表取締役就任。2017年、LIFULL(ライフル)に社名変更。

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