近年は、環境保護や人権保護など社会的課題対策が人々の消費行動にも表れるようになってきている。多くの企業が株主や消費者に向けたメッセージのなかに、SDGsという言葉を取り入れている傾向だ。SDGsのなかでも人々の消費行動に直接影響するものに「エシカル消費」がある。エシカル消費の重要性が高まっている時代においては、経営でもエシカル消費を意識する必要があるだろう。
本記事では、SDGsのなかでも人々の消費行動に直接影響する「エシカル消費」について解説する。
目次

エシカル消費とは?
エシカル消費とは、消費者それぞれが各々の社会的課題の解決を考慮し、課題に取り組む事業者を応援しながら消費活動を行うことをいう。具体的にいうと人や社会、環境、地域に配慮した製品やサービスを選んで購入することで、例えば次のような行動が挙げられる。
・エコ商品や省エネ製品を買う
・リサイクル製品を買う
・障害者支援につながる商品を買う
・フェアトレード商品を買う
・寄付付き商品を買う
・地産地消をする
そもそもエシカル消費の「エシカル(ethical)」には、日本語では「倫理的・道徳的」という意味がある。つまり単に価格や品質、産地、機能性などを購入の選択基準としているわけではない。主に以下のような点にも考慮しながら選択しようという考え方である。
・商品がどのように生産・流通しているか
・製品を製造するにあたり不都合を被る人がないのか など
SDGs視点で見るエシカル消費
エシカル消費に取り組むうえで知っておきたいのがSDGs(持続可能な開発目標)との関係だ。SDGsという言葉自体は、近年多くのメディアで見聞きするため知っている人も多いだろう。「2030年までに持続可能な世界を実現しよう」という世界的な目標のことで、2015年に国連で採択され193の国連加盟国がこれに合意している。
SDGsは、17の分野ごとに目標が設定されており、そのうち12番目の「つくる責任 つかう責任」にエシカル消費が該当する。つまりエシカル消費は、消費者だけに課せられている責任ではないのだ。作る側や売る側の事業者、そして消費者と事業者をつなぐまちづくりを行う側の行政の3者が一体となって社会的責任を受け止め、実現していくべきものである。
消費者
消費者は日常的な消費活動を通して課題の解決に貢献できる立場にある。その際、購入する商品の背景に社会や環境、労働に過度な負担が与えられていないものであるかという観点で商品・サービスを選択する。なぜならエシカルな商品やサービスを選ぶ消費者が増えるほど、事業者もエシカルな商品・サービスを生産・販売するようになるからだ。
行政
行政は人権や環境に配慮したまちづくり、地産地消、消費者教育などの取り組みをする立場だ。例えば、消費者と事業者の協働によるWin-Winの関係の構築、地域の活性化などに取り組む責任がある。
事業者
事業者はエシカルな商品・サービスを供給する立場にある。企業の社会的責任の重要性を認識し、サプライチェーンの透明性向上を図るのが役割だ。またエシカルな商品・サービスを企業競争力の新たな基準とした差別化に努めることが大切である。これにより利害関係者からの信頼感を獲得し、企業イメージの向上につなげることが期待できるだろう。
消費者視点で見るエシカル消費
消費と供給の関係は、「ニワトリとタマゴ」の関係のようにどちらが先かは明確にできない。しかし供給側である事業者は、消費者がエシカル消費をどの程度意識しているかを知っておく必要がある。消費者庁が調査・公表している「『倫理的消費(エシカル消費)』に関する消費者意識調査報告書」も企業市民としてぜひチェックして欲しい。
同調査は数年ごとに実施されており、前回分の調査結果との比較もされている。これを見るとエシカル消費に対する消費者意識が高まっていることが理解できるだろう。また事業者にとってエシカル消費に向けた取り組みの重要性が増していることも分かるはずだ。ここでは、調査結果の一部を紹介する。
言葉の認知度
2022年の調査によると「言葉および内容を知っている」人は7.6%、「言葉のみ知っている」人は19.4%で、合わせて26.9%と認知度は低めだが、2020年度調査の12.2%と比較すると2倍以上に向上している。
エシカル消費に対するイメージ
2020年調査では、エシカル消費を「これからの時代に必要」と考える消費者は51.8%と過半数であった。実際、2022年の調査では「特にエシカル消費につながる行動をしない」という人が23.6%で、あとは何らかの行動を行っている。エシカル消費を必要と考え、実際に行動に移した人が増えてきていることが読み取れる。
エシカル消費に取り組む理由
引き続き、2022年調査でのエシカル消費に取り組む理由を見てみよう。最も多かった回答が「同じようなものを購入するなら環境や社会に貢献できるものを選びたい」で53.8%であった。その他の回答を見ても環境問題や社会問題の解決・貢献、節約・ムダの削減といった理由が多かった。
エシカル商品・サービスの購入状況および意向
エシカル消費につながる行動として、エシカル消費につながる商品の購入状況に関する質問に対しては、全体の28.8%の人が「エシカル消費につながる商品を購入する」と応えている。ただし、エシカル商品の購入は認知度との高い相関関係があることが窺える。エシカル商品の購入意向はエシカル消費の内容まで知っている人が最も高くて55.0%。言葉のみ知っている人が42.8%、言葉も内容も知らない人は22.3%と最も低い。
企業視点で見るエシカル消費
ここで事業者がエシカル消費への取り組みをするメリット・デメリットを確認しておこう。
メリット
エシカル消費を推進することで得られる主なメリットは、以下の3つだ。
・企業イメージが高まる
商品・サービスだけでなく、企業の活動に対する消費者や投資家の注目度が高まっている時代においては、イメージアップが期待できる。企業イメージが高まると、消費者・投資家からの信頼を得られ、潜在顧客や顧客の獲得が期待できるだろう。
・売上向上への可能性が高まる
先に紹介した消費者庁の調査では、エシカル消費の認知度は決して多くはない。しかしエシカル商品・サービスの購入をはじめエシカル消費につながる行動をする意向がある人は多い。企業がエシカル商品を供給すればエシカル消費の意識が高い顧客層を獲得し、売上向上が期待できるだろう。
・従業員の意欲向上につながる
企業市民として社会的課題解決に貢献できる会社であることは、そこで働く従業員のモチベーションアップ、ひいては従業員エンゲージメントの向上につながる。
デメリット
エシカル消費を推進することで得られる主なデメリットは、以下の2つだ。
・コスト増の可能性がある
エシカル商品の種類にもよるが、例えば農作物でいえば化学肥料不使用栽培は使う場合に比べて生産コストがかかる傾向がある。またエシカル商品であることを示す認証ラベルを取得するためには、第三者機関に認証検査の申請や費用の支払いが必要だ。
・商品価格が高くなりやすい
コスト増は、商品価格に反映するのが通常だ。価格が高めでも安心・安全・エシカルな商品を購入したい消費者がいないわけではない。しかし価格次第では、購入意欲があっても購入できない消費者もいるだろう。企業の社会的責任が重要だとはいえ、消費者の購買力を顧みず高い価格をつけると企業イメージや信頼の面で逆効果になる可能性もあるため注意が必要だ。
業種別エシカル消費への取り組み事例
最後に事業者としてエシカル消費にどのような取り組みができるのか、すでにエシカル消費への取り組みをしている事業者の例をいくつか紹介しよう。ここでは、業種別に紹介するが、なかには業種に限らず自社で取り組めるものもあるので、ぜひ参考にして欲しい。
農業
都道府県をまたいで複数の農場を広げ、その土地、その気候風土に適した野菜を栽培。適地適作をすることで、一つの農場でさまざまな野菜を栽培する場合に比べて低肥料で生産できる。また畑や野菜が必要とする成分・栄養素を観察・分析によりデータ管理している事業者もいる。
必要なものを必要な量だけ与えることで安定的な栽培計画、生産、収穫、出荷ができるようになり、流通価格の抑制、収益性の向上につなげている一例だ。
小売業
地元のNPO法人とエシカル消費のワークショップを共催。エシカル消費に関心の高い消費者が参加し、店内からエシカル消費につながる商品を持ち寄って意見交換を行う。店内にエシカル商品コーナーを設けることで、エシカル消費に関心を持つ消費者が増えた。店外に売上の5%をボルネオ保全トラストジャパンに寄付」する缶入り飲料の自動販売機を設置。
製菓業
「地域の素材をいかす」というコンセプトのもと、地元の名産である各種野菜や果物で、かつ破棄されることの多い規格外のものを使用した飴(あめ)の商品化に成功した。
地方金融機関
まずは、社内でペーパーレス化を実行。それまで月間7トンあった書籍や書類等を半分の3.5トンまで削減し、年間700万円のコスト削減に成功した。地元の団体および事業者のためには、カーボン・オフセットを取り入れたクラウドファンディングのポータルサイトを開設。サイト上のプロジェクトが成立すると1案件につき2,000キログラム-CO2のクレジットをオフセットする仕組みとした。
加えて同社での金融商品取引1件あたり2キログラム-CO2のクレジットをオフセット。1年度で合計9万6,000キログラム-CO2のクレジットをオフセットした。
できることからエシカル消費に取り組んでみよう
エシカル消費が「どのような行動」で、社会や環境、人、企業に「どのような効果」をもたらすのかご理解いただけただろうか。SDGsの12番目の目標である「つくる責任 つかう責任」にあるようにエシカル消費で社会的課題を解決していくためには消費者の行動だけでなく、企業もエシカルな取り組みをする必要がある。
すぐに企業イメージのアップや顧客拡大とはならなくても、対内、対外でのエシカルな取り組みを続けることで業績向上につながることも期待できる。今回紹介した事例を参考に、できることからエシカル消費に取り組んでみてはいかがだろうか。
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文・續恵美子(CFP®)