(本記事は、堀江 貴文氏の著書『死なないように稼ぐ。: 生き残るビジネスと人材』=ポプラ社、2021年3月24日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
「世界観」や「体験」を伝えられたら勝ち
お客さんは「世界観」や「体験」にハマれば通い続けてくれるものだ。
そういう感覚で飲食店を経営している人はほとんどいない気がする。
飲食店の予約台帳サービス「トレタ」の代表、中村仁さんと対談したときに、「フェアトレードが売り文句になる時代はすごい」といっていた。
「フェアトレード」とは、「開発途上国の原料や製品を適正な価格で継続的に購入する取引」のことだ。
簡潔にいえば「搾取しない公正な取引」だが、お客さん側に直接的なメリットはない。むしろ、少し割高になってしまう。それなのに、「どうせコーヒーを飲むなら、フェアトレードの豆を使っている店に行こう」と思えるのは、まさに「世界観」に共感しているからだろう。
世界観を認知してもらったら勝ちだ。ただし簡単には伝わらない。伝えるための有効な手段のひとつが「体験」してもらうことだ。
『WAGYUMAFIA』もまさに「体験」してもらうことを重視している。
カツサンドを2万円にしたのも、中途半端な価格設定よりも高価なほうが1度は体験したくなるだろうと計算したからだ。必ずしも1人で払う必要はなくて、「割り勘で1人5000円なら食べてみよう」というケースも少なくないと考えた。
さらに、独自のポーズもプラスした。「行ってらっしゃい!」と声を張りながらにらみつけるように牛肉を差し出すポーズだ。試しながら最適化したものだが、エンターテインメント性をプラスすることで、他にはない体験や世界観を強調したのだ。
ちなみに、外国人には「行ってらっしゃい」を「EAT - n - SHOUT(イートゥンシャウト)」だと説明している。語呂合わせだが、覚えやすくして世界中に広めてもらうためだ。
一緒にポーズを決めて撮影するお客さんも多く、それも体験となっている。
そして、体験するとシェアしたくなる時代だ。「インスタグラム」に投稿してくれる人が増え、それがかなりの集客につながっている。
お店からの投稿も「インスタグラム」の「ストーリーズ」に注力。タグづけやシェアによって拡散してくれる人が多いので、広告宣伝費を掛ける必要がなくなった。とくに外国人は95%が「インスタグラム」を見て体験しにきてくれているのだ。
エンタメおしゃれパン屋『小麦の奴隷』の名物「ザックザクカレーパン」も、そのインパクトのある見た目はインスタ映えするし、「すごい食感のカレーパンを食べたんだ」と誰かに伝えたくなる。見たら思わず体験したく(食べたく)なるだろう。
他にも「上手に世界観を伝えている」お手本を挙げるとしたら、とんこつラーメンの『一蘭』が最初に思い浮かぶ。
ひとりずつ仕切られた席の目の前に暖簾があり、そこには薀蓄が書いてある。
仕切りがあるだけに、他にすることがなくて思わず読んでしまうのだ。スマホがなかった時代ならなおさらだろう。すごいラーメンなんだということがインプットされると、それだけで味が1.5倍おいしく感じられるはずだ。
もしかしたら最初は引いてしまうかもしれないが、それくらいのほうが独自の世界観は伝わると思う。他にはない世界観が伝わってこそ選んで通ってくれるのだ。
『一蘭』は他にも独特な「体験」ができる。
仕切られていることはすでに説明した通りで「元祖ソーシャルディスタンス」ともいわれているが、実は味わうことに集中できるスペースにもなっているのだ。しかも周囲の目が気にならないため、女性や有名人でも食べやすい。
替え玉の注文システムも独特で、プレートをテーブル奥のボタンに乗せるだけ。チャルメラが鳴ってスタッフがすぐに来てくれるようになっていて、声を出さずに済むので、これも女性に喜ばれているそうだ。
飲食に限らず、独自の「世界観」や「体験」を生み出して認知してもらえれば勝ちだ。使い続けてもらうための強力なフックになる。