(本記事は、堀江 貴文氏の著書『死なないように稼ぐ。: 生き残るビジネスと人材』=ポプラ社、2021年3月24日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
過疎地でもおしゃれパン屋が成り立つ理由
2020年末、インターステラテクノロジズの新工場竣工式の際に、北海道大樹町にあるパン屋『小麦の奴隷』へ行ってきた。
シンプルだが人気の塩パンが並び、名物の「ザックザクカレーパン」もドンと盛られていた。まさに王道のパンから変わり種のパンまでが並ぶ店内。どれも十勝の厳選食材を組み合わせた「焼きたて」のパンばかりで、お客さんも絶え間なく訪れる。オープン以来、順調に売上を伸ばし地元の知名度を高めていて、大樹町のおいしいパン屋といえば……『小麦の奴隷』、という存在になっている。
『小麦の奴隷』はHIUメンバーが2020年4月に創業したパン屋だ。1年ちょっと前に、サロンコミュニティに提案した「地方の過疎地でおしゃれパン屋をやったらうまくいくんじゃないか?」という僕の仮説に手を挙げたメンバーによりスタートした店だ。
では、なぜ僕がおしゃれパン屋に興味を持ったのか?
話は僕が長崎県の五島列島の福江島に行ったときに遡る。
そこで、たまたま知り合った人が、博報堂の地方創生事業の一環で福江島の集落におしゃれパン屋さんを運営していたのだ。こんなおしゃれなパン屋さんが過疎地にあって経営が成り立つのか勝手に心配になって聞いてみたところ、大繁盛で毎日売り切れているというのだ。俄然、理由が知りたくなった。
その理由はとてもシンプルなものだった。
いわく「パン好きはおいしいパンを毎日食べたいんです」ということだ。自宅で炊飯器ひとつあれば炊けるごはんと違い、パンは複雑な工程を必要とする。冷凍生地のパンや、冷凍されたパンを解凍する方法もあるが、さまざまな種類のパンを保存しようと思ったら家庭の冷凍ストッカーはいっぱいになるだろう。
そもそも「パンを毎日焼いています」という人は、パン好きというかパンを作ることが好き、なのだ。
やはり一般的にパンはお店で買って食べるものだという意識は強い。そういう意味でパン屋のニーズは高い。都心だろうが地方だろうが過疎地だろうがどこだろうが。そんなニーズに刺さっていたのだ。
何より、パンは日本の食文化に入り込んでいる。「ごはん派か、パン派か」のような話も普通にされるくらいだ。いわゆる「昭和的なパン屋」やコンビニしかない地域に、ちょっとおしゃれでおいしいパン屋ができれば、みんな通い、リピートするのは当然だ。
田舎におしゃれなパン屋があまりない理由も『小麦の奴隷』を始めてみてわかった。それは意外にも「給食」にあった。
給食のパンが「あまりおいしくない」という経験は、みんなあるだろう。給食のパンを卸している会社は受注が取れているので、やはりというか残念ながらレベルが向上しないところが多い。その結果、昭和なパン屋が残り続け、競争が激しくならず味も向上しないし、種類も変化しない。
よく学校の近くに学生服屋や文房具屋があると思うが、それらと同じビジネスモデルだ。定期的な受注があるから潰れない。
毎日食べるパンとして、「コンビニのパン」もあるが、陳列棚の関係と店で焼くのが難しいこともあり、やはり専門のパン屋には勝ちにくい。そういう意味で田舎のパン屋は可能性があるのだ。
焼きたてのパンを毎日食べたい。
家では焼けない、もしくは焼くのが面倒くさい。
近くのコンビニにもおいしい焼きたてパンはない。
焼きたてのパンは、パン屋さんの独壇場。
なら、地方に一軒、おいしくておしゃれなパン屋さんがあったら無敵なのでは……というわけだ。