M&Aコラム
(左)日本M&Aセンター IT業界専門グループ 竹葉 聖(右)AnyMind Group代表取締役CEO 十河 宏輔氏 (画像=M&Aコラム)

2021年11月に開催した日本M&Aセンター30周年記念スタートアップピッチにおいて、約2,000社の候補の中から選ばれた企業の「その後」をインタビュー。今回は、EC・マーケティング支援を手がけるAnyMind Group 代表取締役CEOの十河宏輔氏に、同社を創業するまでの経緯や上場前から積極的にM&Aを推進した背景などを日本M&AセンターIT業界専門グループの竹葉聖が伺いました。

会社概要

会社名:AnyMind Group株式会社
設立:2016年4月
事業内容:「Make every business borderless」をミッションにEC/D2C、マーケティング支援などの事業を展開。
(AnyMind Groupの公式noteはこちらから:https://note.com/anymindgroup/

前職での海外起業経験とアドテクの知見を活かしシンガポールで創業

竹葉:改めて上場おめでとうございます(AnyMind Groupは、2023年3月に東証グロース市場へ新規上場)。2021年11月の日本M&Aセンター主催のスタートアップピッチには、コロナ禍ということもありZoomでご参加いただきました。あれから2年経たずに上場と、すごい成長スピードですね。
まずは、現在主力としている事業についてお伺いできますか?

M&Aコラム
(画像=M&Aコラム)

コロナ禍で実施された、Zoomでのスタートアップピッチの様子

十河氏:ありがとうございます。当社は、東南アジア、東アジア、インド、中東の13カ国・地域でブランドコマース事業とパートナーグロース事業を展開しています。

「ブランドコマース事業」はブランド企業やインフルエンサーなど個人に向けてのマーケティング支援に加え、ブランドの設計・企画、生産、ECサイトの構築・運用、物流までをワンストップで提供しています。現在1,000社以上の企業やクリエイターの方にご利用いただいています。

「パートナーグロース事業」はWebメディアやアプリ、クリエイター(インフルエンサー)の成長を支援するサービスです。インフルエンサーの収益化を支援する「AnyCreator」というプラットフォームでは、1,300以上のYouTubeチャンネルを支援しており、発信コンテンツの改善コンサルティングや、企業広告案件の紹介などを行っています。

M&Aコラム
(画像=M&Aコラム)

竹葉:AnyMind Groupを創業するまでのキャリアについてお伺いできますか?

十河氏:2010年に新卒でアドテクノロジー(※1)の企業に入社しました。入社2年目の後半から海外事業の立ち上げを担当し、最終的には東南アジアを中心に6カ国の取りまとめを任されました。 立ち上げを任された当初は、会社が資本金を準備してくれて「このくらいの金額でやってきて!」と単身、東南アジアでの挑戦を始めることになりました(笑)。ライセンスや外資規制などの問題を自力で調べ、立ち上げから採用までを経験しました。

竹葉:20代から「社長業」を、しかも海外でご経験されたんですね。前職でのキャリアも順調な中で、起業を考え始めたのはいつ頃からでしょうか?

十河氏:香川にいる祖父母が経営者ということもあり、幼少期から自分も経営者になりたいと漠然と思っていました。ただ、大学卒業後すぐに起業するのではなく、就活時に当時盛り上がっていたアドテク市場に身を置こうと考えました。前職で東南アジアでの成果を残して一段落した後、2016年4月、29歳の時にシンガポールで起業しました。

M&Aコラム
(画像=M&Aコラム)

プラットフォームは各国共通 営業はローカライズすることで急速な成長を遂げる

竹葉:東南アジアで経営者としてのスタートを切った理由をお伺いできますか?

十河氏:前職の経験や、現地の熱気あふれる雰囲気、成長意欲の高い人が周囲にいたことから、東南アジアでスタートしたほうが成長できるという確信があったからです。日本よりも早い段階から、若者がSNSに費やす時間が長く、インフルエンサーの影響を受けて商品を買う人が多い点にも事業展開の可能性を感じました。

共同創業者で現CCOの小堤音彦との出会いも東南アジアです。小堤は前職のデジタルマーケティング会社で東南アジア拠点の立ち上げを経験しており、境遇も似ていることから、自然と意気投合し一緒にスタートしました。

2016年の4月から開発を進めていたプロダクト自体は9月頃には完成しシンガポールから事業を始めたのですが、同国のマーケット自体はそれほど大きくなかったので、すぐに各国で横展開していったのが成長の加速につながったのだと思います。

2016年4月: シンガポールで創業
2016年: タイ・ベトナム・インドネシア・台湾に進出
2017年: カンボジア・中国・日本・香港に進出
2018年: マレーシア・フィリピンに進出
現在: 13ヵ国・地域に19のオフィスを展開

M&Aコラム
(画像=M&Aコラム)

竹葉:成長スピードの速さがすごいですね。各国で使えるプラットフォームだけでなく、顧客に対する現地のサポート部隊がいること、強固なネットワークを築けていることが貴社の強みだと思います。

十河氏:はい。ビジネスモデルはグローバルで統一する一方で、営業やマーケティングはローカライズが必要です。そこでローカルチームを採用し、一緒に泥臭く営業をすることでネットワークの構築を進めました。

特に東南アジアやインドでは、ソフトウェアだけを提供するだけで成立するようなビジネスは当時ほとんど存在しなかったんです。絶対的にローカルで、生身の人間が丁寧に対応する必要があると思っていました。ここは創業時から強く意識しているところです。

竹葉:今は日本でもインフルエンサーマーケティングはメジャーになっていますが、東南アジアでは何年くらい前から盛り上がっていたんでしょうか?

十河氏:当社を創業した2016年ごろには現地の広告会社もインフルエンサーによる新しいマーケティング手法を試しつつある状況でした。ただ分散するインフルエンサーについて、一元管理された情報プラットフォームを提供していたのは私たちだけだったので、先行者利益は享受できたと思います。

少し前まで無名だった人たちが、いきなりインフルエンサーとして有名になる。当時、インフルエンサーを的確に見つけることができ、それらの情報を一元管理するプラットフォームはなかったので、インフルエンサーの情報と広告主をマッチングするニーズが高かったんです。影響力を収益化したいインフルエンサーと、メディアや広告主双方を支援するサービスをいち早く提供することで、両方のデータベースを構築しました。

M&Aコラム
同社Company Deckより (画像=M&Aコラム)

東南アジアで「ネット業界を代表する企業」を目指して上場

竹葉:上場を視野に入れ始めたのはいつ頃からでしょうか?

十河氏:元々上場する前提で創業していて、1期目から監査法人とのやり取りをスタートしていました。当時の東南アジアにはソフトバンクのような第一世代のインターネット企業はまだなく、私たちは東南アジアにおけるネット業界を代表する第一世代の企業になれると確信していたので、早い時期に上場する必要があると思っていました。

竹葉:上場前に7社、上場後に1社M&Aをしていますが、どういった戦略を立てられていたのでしょうか?

M&Aコラム
(画像=M&Aコラム)

六本木ヒルズ31階に構える本社オフィス。オフィス入口にはこれまでM&Aでグループにジョインした日本企業のロゴが並ぶ

十河氏:GoogleやFacebookなど世界で成長しているIT企業がすべからくM&Aを活用しているように、非連続な成長を実現するうえでM&Aは重要な経営オプションだと考えています。さらに初期に投資いただいたVCの方に「この資金を使ってM&Aをしていこうよ」とアドバイスしていただき、創業2期目で初めてM&Aを実行しました。

日本ではスタートアップのEXITというとIPO(新規上場)が主流でM&Aはまだまだマイナーですが、東南アジアは逆にIPOよりもM&Aがメインで、M&Aをしやすい環境だったのも追い風になりました。

各国で事業を推進できる人材を獲得する目的で、2019年にはタイでインディーズ音楽レーベルやYouTubeなどを通じて収益化の支援をするMoindy(モインディ)を譲り受けました。代表のPunsak Limvatanayingyongは、現在も グループのカントリーマネージャーとして経営に参画してもらっています。

竹葉:M&A先の発掘はどのように進められましたか?

十河氏:進出したい国と、強化したい事業のマトリクス表を作りました。そこから対象企業をリストアップし、30社ほど自らテレアポして、現地の代表に会いに行きました。面談でも「M&Aをすることで、こういうシナジーや可能性があると思っているんです!」と、最初からストレートに想いや今後の事業の構想を伝えました。そこで意気投合した後に、条件を詰めていく。企業のバリューアップなどは、DCF法(インカムアプローチ)などをメインに、CFOと相談しながら進めました。

竹葉:実際M&Aを打診してから、クロージングするまでの期間はどの程度でしょうか?

十河氏:もちろん慎重に議論を重ねデューデリジェンスも実施しますが、だいたい半年以内にはクロージングしていました。

M&Aコラム
(画像=M&Aコラム)

M&A後を解像度高く計画することがPMI成功の秘訣

竹葉:現在では、売上の半分以上が海外を占め、M&Aを実施した企業全てが順調に成長していると思いますが、M&A後も成長させるコツはありますか?

十河氏:M&Aをする前から相手先の代表と、計画を達成するために両者がどのようなリソースを出し合えるか、解像度高く詰めていきます。

2017年に初めて譲り受けたFourMの場合は、何度もミーティングを重ね、20名ほどいた社員全員の特性をすべてヒアリングしました。誰が事業を率いるキーパーソンなのかも把握していたので、自分が社長になったらどうマネジメントするかを具体的にイメージできました。シナジーというフワッとした言葉で片付けずに緻密に計画するとM&A後のサプライズもないので、事前のすり合わせは大事だと思います。

竹葉:今後、どういった企業にグループにジョインしてもらいたいですか?

十河氏:当社は13カ国・地域の現地に根付いたローカルチームによる支援やネットワークを提供できるので、今あるマーケットから外に出て成長していきたい企業とは相性が良いと思います。私たち自体も上場して成長のスタートラインに立ったばかりの会社ですので、アジアで一緒に伸びていきたい経営者がいらっしゃいましたら、いつでもご連絡いただければと思います!

竹葉:本日はありがとうございました。

日本M&Aセンタースタートアップピッチについて

日本M&Aセンターではスタートアップ領域におけるM&A支援実績の増加を背景に、2018年から次世代の日本経済を牽引するスタートアップ企業を表彰する「スタートアップピッチ」を開催しています。
2021年は「日本M&Aセンター30周年記念スタートアップピッチ」と題して、約2,000社の中から15社がエントリーし、AnyMind Groupは「BRONZE」賞を受賞しました。

M&Aコラム
日本M&Aセンター30周年記念ピッチで、各社に用意された記念の盾 (画像=M&Aコラム)

インタビュアー

業種特化1部 チーフマネージャー IT業界専門グループ グループリーダー
竹葉 聖
公認会計士試験合格後、有限責任監査法人トーマツを経て、2016年に日本M&Aセンターに入社。IT業界専門のM&Aチームの立上げメンバーとして7年間で1000社以上のIT企業の経営者と接触し、IT業界のM&A業務に注力している。18年には京セラコミュニケーションシステム(株)とAIベンチャーの(株)RistのM&A、21年には(株)SHIFTと(株)VISH、22年には(株)USEN-NEXTHOLDINGSと(株)バーチャルレストラン等を手掛ける。
IVS2022 LAUNCHPAD NAHA審査員。

著者

M&Aコラム
M&A マガジン編集部
日本M&Aセンター
M&Aマガジンは「M&A・事業承継に関する情報を、正しく・わかりやすく発信するメディア」です。中堅・中小企業経営者の課題に寄り添い、価値あるコンテンツをお届けしていきます。
無料会員登録はこちら